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Q8 観客参加型作品

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 劇場が、シリアスな映画に対して観客が鳴り物などを使って応援等をしながら鑑賞することを認めることや、劇団が脚本を変更して一部の台詞を観客に呼びかけ観客がこれに応答する観客参加型の演劇を行うこと、その演劇をビテオグラム化して販売することにはどのような問題があるか。

Point

① 映画や演劇の著作者等
② 著作者人格権を侵害する著作物の利用行為
③ 二次的著作物の権利関係
④ 肖像権


Answer

1.映画や演劇の著作者・著作権

 映画の著作者は、「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とされ(著作権法16条)、映画に対して一貫したイメージをもって映画製作の全体に参加した者をいうと考えられている。
 他方で、映画の著作権は、「その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」とされ(著作権法29条1項)、裁判例上は、たとえば、映画の進行・管理についての責任、スタッフ等の人選、製作費の負担等を考慮して認定されている(東京地判平成15・1・20判時1823号146頁)。
 演劇は、映画と異なり著作権法上、著作者や著作権の帰属を定める特別な規定はなく、その他の著作物と同様、「著作物を創作する者」(著作権法2条1項2号)が著作者ということになる。そのため、たとえば、当該演劇を構成する脚本・戯曲の執筆者、舞台装置家、衣裳家、舞台照明家等が著作者となり、著作権を共有するものと考えられる。

2.映画の上映と名誉声望保持権

 映画は、劇場を有する興行会社が映画の配給会社等から配給を受け劇場において上映するのが一般的であるが、自主製作映画や独立映画などは、制作会社や監督が直接劇場に配給を行うこともあるとされている。この中で、たとえば、興行会社が、映画製作者等に無断で、シリアスな内容の映画であるにもかかわらず、観客に鳴り物等を使っての応援等をしながらの鑑賞を認めることは、場合によっては、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」(著作権法113条11項)にあたる可能性があると考えられる。
 この点、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」との意味について、著作者の創作的意図や著作物の芸術的価値を害する行為と考える見解(加戸守行『著作権法逐条講義〔六訂新版〕』755頁~756頁)と、客観的に著作者の社会的声望名誉を害する行為と考える見解(半田正夫=松田正行編『著作権法コンメンタール3〔第2版〕』499頁~501頁)がある。
 前者の見解は、このような利用行為の例として、①著作者が希望しなかったと思われる場所に著作物を設置する場合(芸術作品である裸体画をヌード劇場の立看板に使うなど)、②香り高い文芸作品を商業ベースの広告・宣伝文書の中に収録して出版する場合、③およそ芸術性を感じさせることのない物品包装紙のデザインとして創作されたかのごとき印象を与える利用の仕方の場合(芸術的な価値の高い美術作品を名もない物品の包装紙に複製するなど)、④創作時における著作者の宗教的霊感を感じさせなくする利用の場合、⑤言語の著作物を悪文の例として利用する場合をあげている。
 他方で、後者の見解としては、たとえば、知財高判平成22・3・25判事2086号114頁は、「被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は、R(筆者注:著作者)が社会から受ける客観的な評価に影響を来す行為である。したがって、被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は、法(筆者注:著作権法)113条6項(筆者注:現11項)所定の、『(著作者であるRが生存しているとしたならば、)著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為』に該当するといえる」と判示している。
 また、音楽をCM上で商品のサウンドロゴと連続させて使用した場合に、「一般に、楽曲をこのような形でテレビコマーシャルに用いる場合、当該楽曲はコマーシャルの対象とする商品等の特定のイメージと結びつくのみならず、本来の楽曲自体が改変されて使用されることになるから、著作者がそのような使用を承諾していない限り、原則として著作者人格権(著作権法20条1項、113条5項(筆者注:現11項))を侵害するものというべきである」とした裁判例がある(東京地判平成14・11・21公刊物未登載)。
 このような見解や裁判例からすると、映画を、その内容にそぐわないような態様で上映することは、上記「①著作者が希望しなかったと思われる場所に著作物を設置する場合」に近い場合であると思われ、また、前揭東京地判平成14・11・21の判示に準じて、その映画のもつイメージを変えてしまうとして名誉声望保持権を侵害する可能性があるので、事前に、この点に関して、映画の著作者から許諾を得ておくべきといえる。
 具体的には、特定の上映方法について個別に許諾を得る場合のほか、著作者人格権を行使しない旨の同意を得ることが考えられる。

3.演劇の上演と著作者人格権

 脚本を変更して演劇を上演することは、脚本の翻案(著作権法27条)にあたることから、著作権者である脚本家の許諾が必要となる。
 加えて、脚本家は、演劇の著作者であると考えられるので、脚本の変更は、演劇の改変にあたり、脚本家の同一性保持権(著作権法20条)を侵害する可能性がある。脚本は、基本的には、配役ごとに台詞を決めているものであるので、特定の配役の台詞を観客に変更することや、観客の台詞を加えることなどは、脚本家の意に反した改変となる可能性がある。また、これによって脚本以外にも、たとえば、照明の構成などを変更した場合、舞台照明家の許諾を得る必要がある。
 さらに、そのようにして行われた観客参加型演劇を撮影しビデオグラム化した場合、そのビデオグラムに対しても元の演劇の著作権者の権利が及ぶことから(著作権法28条)、この点に関する著作権者の許諾を取得する必要がある。また、当該演劇は観客参加型であり、観客が当該ビデオに映し出される場合には、観客の肖像権が問題になる可能性があることから、少なくとも事前にその旨を告知し観客から了解を得ておくことが望ましいといえる。

執筆者:星 大介


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