Q26 戦時加算
エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行
より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク
Question
古い映画作品のフィルムを入手したことから、自主上映会の開催を検討しているが、その際の注意点は何か。
Point
① 現行法上の映画の保護期間
② 旧法における映画の保護期間
③ 戦時加算
④ その他の著作権・著作隣接権との関係
⑤ 営利を目的としない上映
Answer
1.現行法上の映画の保護期間
映画の著作物の保護期間について、現行著作権法施行当初は、公表後50年とされていたが、平成15年改正により、公表後70年(あるいは、創作後70年以内に公表されなかったときは、その創作後70年)とされている(著作権法54条1項)。
保護期間の計算方法は、「著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する」とされているため(著作権法57条)、保護期間の終期は、原則として公表された年から70年後の12月31日となる。
2.旧法下で創作・公表された映画の保護期間
では、旧著作権法(昭和46年1月1日現行法施行前の著作権法。以下、「旧法」という)時代に創作・公表された映画については、その保護期間はどのように考えればよいか。
⑴ 旧法における保護期間の定め
旧法においても、映画は、「活動写真術又は之と類似の方法に依り製作し
たる著作物」、いわゆる「活動写真」として、その著作権が保護されていた。
旧法では「独創性を有する」活動写真か否かにより保護期間に区別を設けていたが、大衆向けに上映される劇場向けの映画については、いずれも独創性を有するものと考えられていた。そして、独創性を有する映画の著作権の保護期間は、自然人著作者で生前に公表されたものについては著作者の死後38年(旧法3条)、自然人著作者で死後に公表されたものについては公表後38年(同法4条)、無名あるいは変名で公表されたものについては公表後33年(同法5条)、「団体に於て著作の名義を以て」公表されたものについては公表後33年(同法6条)と、規定されていた(いずれも改正により延長される以前は、各期間とも30年)。
⑵ 旧法下での映画作品と現行著作権法との関係
旧法下で創作・公表された映画作品についても、現行法が施行された昭和46年(1971年)1月1日において著作権がなお存続していたものについては、原則として現行法が適用され、保護期間が決定されることとなる(著作権法附則2条)。ただし、現行法の保護期間よりも旧法下での保護期間のほうが長い場合には、旧法による保護期間が適用されるため(同法附則7条)、旧法下で創作・公表された映画作品については、旧法による保護期間が適用されたとすれば何年までとなるか、との点についての検討が必須となる。しかし、現行法の改正により現行法の保護期間が50年から70年へ延長された影響から、現在においては、旧法下と現行法下の保護期間を単純に比較するだけでは保護期間を把握することはできず、以下の順で検討しなければならない。すなわち、①まず昭和46年1月1日時点において著作権がなお存続していたか否かを確認し、②著作権が存続していた場合に、旧法の規定によれば保護期間は何年となるかを調べ、③当該期間と、現行法下の保護期間(ただし施行時の保護期間である公表後50年)とを比較して、より長期に及ぶものを採用し、④さらに、平成16年(2004年)1月1日時点において著作権がなお存続していた場合には、旧法による保護期間と、改正後の現行法下の保護期間(公表後70年)とをあらためて比較し、より長期に及ぶものを選ぶ必要がある。
⑶ 旧法下の映画作品の著作者
上記に述べたとおり、旧法下の映画作品に関する保護期間を把握するためには、誰が著作者であるかが重要となる。
旧法においては著作者の特定に関する規定は存在していなかったが、解釈上、現行法16条と同様に、「その全体的形成に創作的に寄与した者がだれであるか」との基準により判断されるべきものと解されている(最判平成21・10・8判時2064号120頁)。
また、上記の基準により特定の自然人(複数の著作者による共同著作物となる場合もあり得る)が著作者とされ、その者の名前が実名により当該映画のクレジットに表記されている場合には、仮に「製作 A株式会社」などと団体名義による表示があったとしても、旧法6条ではなく同法3条(ないし同法4条)により保護期間を取り決めるものと解されている(前掲最判平成21・10・8)。
3.戦時加算
さらに、特定の国と関係のある著作物については、戦時加算による保護期間の延長に留意しなければならない。
すなわち、わが国は、昭和26年(1951年)調印、昭和27年(1952年)に発効したサンフランシスコ平和条約15条⒞に基づき、同条約を批准した「連合国及び連合国民が有していた著作権」については、太平洋戦争の戦時下にあった期間を著作権の保護期間に加算しなければならない義務を負うこととなり、これに基づき制定された「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」により加算がなされている。対象となりうる国は45カ国あるが、ベルヌ条約等の条約により戦時期間中に日本法上の著作権が付与されていた国は15カ国のみであったため、実際上は当該15カ国が戦時加算の中心的な対象国となる。なお、それぞれベルヌ条約の加盟年月日および平和条約の批准年月日に相違があるため、各国で加算される日数が異なっており、具体的には、パキスタンは1393日、ニュージーランドは1607日、レバノンは2291日、オーストラリア、カナダ、フランス、スリランカ、イギリスおよびアメリカは3794日、ブラジルは3816日、オランダは3844日、ノルウェーは3846日、ベルギーは3910日、南アフリカ連邦は3929日、ギリシャは4180日がそれぞれ最長で加算されることとなる(ただし、戦時期間中に連合国または連合国民が著作権を取得した場合には、当該取得日から条約発効日の前日までの日数が加算されることとなる。また、戦時期間中に連合国および連合国民以外の者に著作権が帰属していた場合には、当該期間が加算期間から控除されることとなる)。
対象となる著作物は、上記15カ国の「連合国及び連合国民が有していた著作物」に限られ、著作権者の国籍により判断されるが、当該各国以外の国籍(日本を含む)の国民が取得した日本法上の著作権に関し、これが戦時期間中に連合国または連合国民に帰属することとなっていれば戦時加算の対象となるため、厳密には著作者の国籍だけでは判断することができない点には留意が必要となる。
4.その他の権利の存在
映画作品の上映を検討する際には、映画の著作物だけでなく、他の著作権等の存在にも留意が必要となる。
すなわち、映画作品において音楽が利用されている場合には、その著作権やこれに関する著作隣接権についても問題となり、あるいは映画作品に日本語字幕や吹き替えが付されている場合には、これらに関する著作権や著作隣接権についても問題となる。そのため、仮に映画の著作物の著作権は、保護期間を徒過していたとしても、これら他の権利がなお存続しているような場合には、各権利の処理が必要になる。
なお、映画作品に関連する他の権利のうち、原作小説等や脚本の著作権については、「映画の著作物の著作権がその存続期間の満了により消滅したときは、当該映画の著作物の著作権とともに消滅したものとする」と規定されていることから(著作権法54条2項)仮に当該各著作権が個別には保護期間内にあったとしても、上映等により映画をそのまま利用するのであれば、別途権利者から許諾を得る必要はない。
5.非営利目的の上映
⑴ 権利処理が不要となる場合
上記の検討の結果次第では、製作年の古い映画作品であっても、現在でも日本国内においては著作権が存続している場合があり得る。
ただし、仮に何らかの権利が存続している映画作品であっても、営利を目的としない上映等を行う場合には、一定の条件下において、権利者からの許諾を得ることなく、これを行うことができる。
⑵ 権利者からの許諾が不要となる要件
具体的には、①営利を目的としていないこと、②聴衆または観衆から名目を問わず一切の対価を徴収しないこと、③実演家等に対し報酬が支払われていないこと、との各要件を充足した場合には、著作権者の許諾を得ることなく、公に上映等を行うことができる(著作権法38条1項)。
映画作品の上映の場合、多くの場合③の要件は問題とならないが、入場料との名目では対価を徴収していなくても、会場利用等のための実費や会費等の名目での徴収が行われれば、それだけで②の要件に反することとなるほか、仮に入場料等を徴収することなく上映会を開催したとしても、チャリティー目的などとして入場する際に必ず寄付を求めたりすれば、仮にそれらの寄付金を実際に第三者へ寄付する場合であっても、やはり②の要件に反することとなる。また、名目を問わず一切の対価をとらなかったとしても、宣伝目的など、その目的において営利性が認められれば①の要件に反することとなるため、注意が必要となる。
執筆者:川野智弘「Q26 戦時加算」
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
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