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エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 コミックマーケット(いわゆる「コミケ」)においては、漫画等の商業コンテンツにつき著作権者の許諾を得ずに複製や翻案をした作品が多数存在するが、これは著作権法上いかなる問題があるか。
 また、近時の著作権侵害の非親告罪化の動き、およびそのコミケへの影響はいかなるものか。

Point

① コミケ作品と著作権法の関係
② 実務の状況
③ 著作権侵害の非親告罪化の動き


Answer

1.コミケ作品と著作権法の関係

 コミケとは、コミックマーケットの略称であり、既存の漫画等のコンテンツのキャラクターや設定を「使った」作品が多く出品される。このように既存の漫画作品のキャラクターや設定を使った作品は、原著作物に対して二次的著作物(著作権法28条)であると解される。
 ただし、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに創作された表現に及ぶが、原著作物ですでに創作されていた部分には及ばない。
 また、漫画等のキャラクター自体が直接「著作物」として保護されるという法律構成ではないことに注意を要する。ポパイネクタイ事件上告審(最判平成9・7・17民集51巻6号2714頁)は、下記のとおり判示している(下線は筆者)。この判例によると連載漫画においては、後続の漫画は、その漫画の作家自身が描いても翻案であり二次的著作物であると解されている。

2.実務の状況

 コミケに出品される同人作品は、漫画等の既存の作品の著作権者から許諾を得ていないものが多いであろう。それは、無許諾で原著作物を翻案した、二次的著作物と解される。
 したがって、原著作物(コミケ作品の基となった作品)の著作権者の同一性保持権(著作権法20条)や翻案権(同法27条)を侵害することとなる。
 事件として以下があげられる。
 ① ポケモン同人誌事件
   1999年(平成11年)に起きた事件である。ポケモンの同人誌(18禁の
  内容であったらしい)の制作者を著作権者の法人が刑事告訴した結果、
  制作者が逮捕され、結果として罰金刑となった。
   刑事手続で対応するのが適切かどうかはともかく、一般法理(可罰的 
  違法性等)以外の個別の法理論では、制作者の行為が著作権侵害であり 
  違法であることは否定できない。
 ② ドラえもん最終話事件
   2005年(平成17年)に起きた事件である。ドラえもんの最終話とされ 
  る同人作品がインターネット上で広まり、著作権者の法人が制作者に対 
  し著作権侵害であると通告した。制作者は謝罪し、在庫を廃棄してイン 
  ターネット上からも削除した。
   民事的に和解で解決されたので、今後の同人誌紛争の解決方法の参考
  になる。

3.著作権侵害の非親告罪化の動き

 著作権侵害の非親告罪化については、従前から文部科学省の諮問機関である文化審議会の著作権分科会にて議論されていた。そして、2016年(平成28年)3月、TPP関連法案(の一部)として国会に提出され、同年12月、可決成立した。
 この法案の発効はTPP協定が日本国について効力を生ずる日であり、2017年(平成29年)1月に米国トランプ政権がTPPから脱退したものの、2018年(平成30年)12月30日に発効した。
 TPP発効に伴い、改正著作権法は同日に施行された。ただし、そもそも同法の定める非親告罪化はコミケには影響がない内容とされていた。
 著作権侵害が親告罪であることは、著作権法では123条1項に定めている。

そして、著作権法の内容は次のとおりとなっている(下線は筆者)。

 つまり、「原作のまま」であること、「著作権者の利益が不当に害される」こと、これらの要件から、同人誌は親告罪のままと解される。
 2016年(平成28年)3月内閣官房公表の「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要」にも以下のとおり、同人誌は対象外と明記している。

 そして、文化庁のウェブサイトの「平成30年通常国会 著作権法改正について」の「(改正の趣旨・概要等)」の「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)について」の「3.改正の概要」の「(2)著作権等侵害罪の一部非親告罪化(第123条第2項及び第3項関係)」においても、以下のとおり記載されている(下線は筆者)。

執筆者:小早川真行


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