Q3 ゆるキャラ
エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行
より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク
Question
デザイナーが制作した「ゆるキャラ」のデザインを変更して使用したり、他人が無断で使用した場合には、どのような法律関係となるか。
Point
① キャラクターの制作に関する契約
② 制作者の著作者人格権
③ キャラクターの保護
Answer
1.キャラクターに関する法律関係
ゆるキャラは、地方公共団体等でPRキャラクターとして使用されたことをきっかけとして、企業などにも広がっている。そのようなキャラクタービジネスは、関連グッズ等の派生ビジネスに広がっていくのが通常であり、その源泉であるキャラクター自体の権利を適切に取得・管理できなければ、ビジネスが途中で頓挫してしまうことになりかねず、注意が必要である。
地方公共団体等におけるゆるキャラは、使用する事業等の概要を明示したうえで公募するなどして応募されたイラスト原画の中から選び、その制作者との間で当該イラストの著作権等の譲渡や使用許諾等を定めた契約を締結するのが一般的であるが、企業等においては、特定のデザイナー等にその企業イメージに合ったキャラクターの制作を依頼することが多いと思われる。
この点、翻案権(著作権法27条)や二次的著作物に関する原著作者の権利(同法28条)は、「譲渡の目的として特掲」しなければ、元の権利者に留保されたものと推定されてしまうことから(同法61条2項)、デザイナー等との著作権譲渡契約において、この点を明示しておかなければ、キャラクターの関連グッズの販売や映画化を展開することもできなくなってしまうため、注意が必要である(契約書において「全ての著作権を譲渡する」と記載されていてもこれを満たさないと解されることから、契約書の作成やその文言は重要である)。
ただし、仮に、譲渡契約において、翻案権や二次的著作物に対する原著作者の権利を含む著作権の譲渡を明記したとしても、デザイナー等の著作者は、当該著作物に関して、「意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」権利(同一性保持権。著作権法20条1項)を有していることから、デザイナーに無断でキャラクターに変更を加えた場合には、その改変の差止めを求められる可能性がある。この同一性保持権を含む著作者人格権は譲渡ができないので(同法59条)、一般的には、著作権の譲渡に関する契約において、著作者が著作者人格権を行使しない旨定めることが多い。ただし、デザイナー等がこれに応じない場合等には、協議のうえ、可能な限り具体的にキャラクターの使用方法や表現のバリエーションを特定して、その限りでの改変は認め、それ以外のものは別途協議する等定めることも考えられる。
2.キャラクターの保護
ゆるキャラが有名になると、そのキャラクターが無断で使用され当該キャラクター保有者のブランド価値が毀損されてしまうといった事態が生じることがある。このような場合、商標法、不正競争防止法、そして著作権法に基づいて、その使用の差止めを求めることが考えられる。
まず、商標法に基づいて無断使用の差止めを求める場合には、当該ゆるキャラが商標登録されている必要がある。そして、当該ゆるキャラが、商標登録されている指定商品・役務と同一または類似の商品・役務に「使用」されている必要がある。加えて、その「使用」に関しては、商品の出所を表示するものとして使用されていることが必要であるので、たとえば、Tシャツの図柄としてキャラクターが使用されているといった場合には、自他識別表示として使用されているものではないとして、商標権に基づく差止請求が認められないこともある(大阪地判昭和51・2・24判夕341号294頁参照)。
また、不正競争防止法に基づいて差止請求を行う場合には、まず、当該キャラクターが、その企業等の営業や商品を示す標章として周知または著名である必要がある(不正競争防止法2条1項1号2号)。当該キャラクターが周知ではあるものの、著名ではない場合には、当該企業等の商品等と無断使用者の商品等との間で混同が生じていることが必要にはなるが、周知性は全国的でなくとも対象の地域で認められれば足りると解されている。
キャラクターの著作権に基づく保護については、漫画のキャラクターに関しては、漫画での記述とは別に具体的なキャラクターがそれ自体として保護されるのかが問題となるが、ゆるキャラの場合にも、それと同様、「具体的表現から昇華した登場人物の人格というべき抽象的概念」であるキャラクターは、それ自体では保護されないと考えられる(最判平成9・7・13民集51巻6号2714頁)。また、著作権侵害が認められるためには、相手方が当該ゆるキャラのイラストに依拠して、新たなキャラクターを作成しているなどの必要があり(いわゆる「依拠性」の要件)、依拠された具体的なイラストを特定する必要があるが、当該ゆるキャラがさまざまなバリエーションをもって使用されている場合には、厳密にイラストを特定しなくても、相手方が、当該ゆるキャラの権利者が保有するイラストのいずれかに依拠して複製または翻案したものと認定される可能性が高いと思われる(大阪地判平成21・3・26判タ1313号231頁参照)。特に、元のキャラクターと相手方のキャラクターとの類似性が強い場合には、比較的容易に依拠性が認められるものと思われる。
なお、ゆるキャラは、果物等の地域の特産物をモチーフに制作されていることも多く、他人がそのモチーフとなった部分(特産物など)について似たキャラクターを制作して使用した場合には、依拠性の要件を立証するのは難しく、また、「表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない」(最判平成13・6・28民集55巻4号837頁)として、翻案にもあたらないとされる可能性がある。
執筆者:星 大介
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
アーティスト等の持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげていくため、2023年10月に総合オープンしました。オンラインを中心に、弁護士や税理士といった外部の専門家等と連携しながら、相談窓口、情報提供、スクールの3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を総合的にサポートします。
公式ウェブサイト https://artnoto.jp