夢日記 ~旅のおわりに~
昼飯を食ったあと眠気に襲われるのはヒトの常というものですが、みなさんどうですか。
とある昼下がり――うっかり30分ほど、うたた寝をしてしまった際に見た、夢の記録。
*
時刻は昼時、天気はくもり。
俺はひとり、旅先のとある"道の駅"にいる。
距離感を読者と共有したいので、俺の自宅は静岡県静岡市――そして夢の現在地である旅先を福島県福島市としておく。
旅の最終日、道の駅で昼飯でも食って、そろそろ帰路に着こうかというシチュエーション。
俺は道の駅の中にある、食堂の入口にいる。
その場所の光景に覚えはないが、「道の駅伊豆のへそ」(静岡県伊豆の国市)の雰囲気に近い気がした。
食堂はアジアンレストランとでもいうのだろうか、ガパオライスとかが出てきそうな感じの店。
入店してまず、入口にあるカウンターで料金を現金で先払いする。東南アジア系の店員が応対してくれる。
ただし、料理を選んだ記憶がない。メニューも料金も固定の店なのかも。「ランチタイムは店長おまかせプレートのみです」みたいな。
そして俺は席に着こうと辺りを見回す。
店はドームのような作りになっていて、その直径は50mはあっただろうか。
とにかくだだっ広い店内だが、客席は壁に張り付くように配置されているのみで、空間の中心付近には何も置かれていない。
そんなわけだから自然と壁に沿うようにして歩きながらテーブルに向かうのだが、いずれの客席も――おそらくは経営者やその家族、従業員のものと思われる私物で埋め尽くされている。なんだか気持ちが落ち込んでくる。
最後に辿り着いた客席もそれなりに私物らしきものがわんさと置かれていたが、他に比べるとその程度は許容範囲だったので、荷物を壁の方へ追いやるようにしてなんとかひとりぶんの食事を置けそうなスペースを確保し、ようやく俺は腰を下ろした。
着席して間もなく、店主らしき人が鉄板に乗ったステーキ料理を運んできた。
店主はそれを俺の前に置くと、鉄板の上の肉片をひとつ、指でひょいとつまみ上げ、その一部を食べたあと、残った肉をふたたび鉄板に戻してきた。
その一連の「奇行」には陽気というか、どこかおどけた雰囲気があったので、あるいはどの客にも決まってやるパフォーマンスみたいなものだったのかもしれないが、あいにく俺はそれを受け容れるわけにはいかず、出された料理に手をつけることなく店を出ることとなった。
外に出る扉に手をかけたとき、自分が会計をしたかどうか不安になってしまったが、入店時に済んでいることを思い出し、店内を振り向きもせず、そのままドアを開けて店をあとにした。
――ここでシーンが突然切り替わる。
次の場面で俺は、首都高や名古屋高速のような、都会のビル群を縫うようにして走る高速道路を運転している。
時系列は前段より連続していて、あの妙ちきりんなアジア料理店を出たあと、もうメシを食う気にもなれず、とりあえず帰るか…と車を出し、最寄りのインターチェンジから高速道路に入ったところで、ふたたびイメージが接続されたものと思われる。
高速に乗ってしまえば、あとはひたすら一本道――ただただ車を走らせていれば、難なく帰宅できる感じ。所要は約6時間ほどか。
車を走らせながら、俺はとある思慮にとらわれている。
冒頭で仮定した現在地は福島市――自宅のある静岡市に帰るには東京を通過するわけだが、その東京で、誰かと会う約束をしていた気がする――しかし相手が誰なのか――そもそも約束自体があるのかないのか――そんなことに気を取られながら運転していたところ、間違って高速道路を降りるレーンに入ってしまう。まだ乗ったばかりだというのに。
現実であれば、一度料金所を出て、どこかでUターンし、再度高速に乗るみたいな感じの局面だが、夢の俺は何故か、出口につづくスロープの途中の路肩に車を停め、車を降り、徒歩で出口に向かい、そこにいるであろう係員に事情を説明するつもりのようだった。
歩きながら、自分が靴を履いていないことに気付く。
加えて、その時俺は――現実では一足も所持していない、柄もロゴも一切ない、真っ白い靴下を履いていた。
坂を下りきって一般道に出たが、出口――料金所らしきものが見当たらない。
近くの歩道では、部活上がりの高校生らしき男子がふたり、自転車にまたがりながら、スマホをいじってニヤニヤしている。ゲームをしているのか、面白い動画でも観ているのか。
俺はとりあえず車に戻ろうと、先刻下ってきたスロープの方へと向き直ると、巨大なシャッターみたいなものに、来た道を遮られてしまっていた。
そのシャッターは無色透明だったので、それ越しに、路肩に停まったままの自分の車が見て取れる。
当然、このままでは困る――シャッターを開けるか、別のルートでもって、俺は車に戻らなければいけない。
その手段を探すため辺りを見回すと、高速道路の高架下に、何かしらの施設のあることに気付く。
施設の入口に近づいても、看板が出ているでもなく、どういった場所なのかを察することすらできない。しかし何故か、それが自治体の管理下にある公共施設であることを、夢の中の俺は認識している。
扉を開け、中に入ってすぐ――俺はそこへ足を踏み入れたことを後悔した。
凍えるほどではないが、室温が異様に低い。
設定温度の低すぎる冷房の切り忘れとかそういうレベルではない。
”寒い”ではない――"冷たい"。
辺りには、白い煙のようなものがゆっくりと浮遊している。
俺は、いま自分のいる場所が此岸と彼岸との境界なのではないかと察し、にわかに全身に緊張が走る。
身じろぎせず、感覚を研ぎ澄ませ、辺りの様子を窺っていると、どこからか楽しげな声が聞こえてくる。
その施設の奥の方には小さな公園があり、何組かの家族連れの遊ぶ姿が、窓を通して、屋内からも確認することができた。
あの公園に出れば、どこかを通じて、自分の車に戻ることもできるかもしれない――そう思って足を踏み出そうとしたその刹那、俺はとあることに気付いてしまう。
公園に遊ぶ家族の姿――やけに白く見えていて、それは強い陽射しによるものと思っていたのだが、今日の天気はくもり、そして――彼らには、”色”がないことに気付く。
肌の色も、着ているものの色も、すべてはグレースケールによって表すことのできる――モノクロームなのであった。
どうやら、この世の者ではなさそうだ。
ダメ押しに、彼らの身体は、少し透けていた。
となると、やはりあの場所は――というところで目が醒めた。
それではさようなり。