見出し画像

「科捜研の女」と「ミスマープル」ではない「わたし」の小さな発見

前回の記事でフェルメールの《窓辺で手紙を読む女》の修復に至る経緯について書かせていただきました。
いや、本当に科学の力で色々なことがわかるようになりましたね。

私が美術史を勉強していた四半世紀前(そんなに経ったか!)丁度、美術史の世界に科学的な調査がどんどん取り入れられ始めた頃だったと思います。
完成した絵の下に何が描かれているか、絵の具の年代、板絵の年輪の調査などなど。
それはエキサイティングな発見があり、わくわくしました。
でも、私はそれと同時にちょっとつまらないな、と思わなくもなかったのです。

小さな村で殺人事件が起こりました。
ミスマープルは村の噂話を集め、自身の経験と洞察力で犯人を特定していきます。
ところが、ある日突然、科捜研の女が村に現れDNA検査で牧師の奥さんが犯人として特定される!
「はぁ?」
ですよね。
私は「はぁ?」っと思ったのですよ、その時。
ミスマープルの立場はどうなる?(笑)

なかなか、日本にいながら西洋絵画の論文を書くのはリスキーだな、とその頃の(今よりは)若き日の私はちょっとがっかりしました。
でも、まあそんなことはない訳で、科学の調査ではわからないことが、いわゆる村の噂話集めみたいな作業で分かります。
教会や画家組合の記録、物品の売買記録、借金の記録など。
文書だけでなく、もちろん作者が描いた作品そのものからも多くのことがわかります。

うちに帰ってから、《窓辺で手紙を読む女》が昔の資料でどのように解説されていたか読みたくなって、いろいろと昔の本を引っ張り出してきました。
その中で、フェルメールの他の作品を眺めていて、このキューピッドは《ヴァージナルの前に立つ女》のキューピッドとそっくりだわ、とか、この赤っぽい絨毯はほかの絵でも何回か描かれているわ、とか楽しい発見がありました。
何度も同じ絨毯が描かれているということはフェルメールはこの絨毯を所有していたのでしょうね。
そしてきっとお気に入りだったのかと。

科捜研の女もかっこいいし、ミスマープルも捨てがたい。
でも、今自由に絵を楽しむことが許される身分の私たちは自分の好きなように絵を楽しむことが出来ます。
美術展のキャプションに書いてあることだけではなく、無責任に想像力を膨らませてみるのも楽しい絵の見かたではないかな、と。

ちなみに「わたし」の発見は、大発見でも新発見でもありません。
でも、別にそれで構わないですよね、楽しければ。

『ヴァージナルの前に立つ女』
眠る女


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?