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超能力⑦・前編

『試練は三つ。ただ最後の一つは二つの試練を成就しないとわからないし、何があるのかもわからない…気をつけて行くのじゃよ?』

おばあちゃんがいう試練とはなんだろう。そして最後の一つは二つの試練を成功させないとわからない…まずはどうしたらいいか…。私が調べたところ、私の祖先である“麻姫”は関東の山岳部の武家の娘として生まれ、私の住む旭ヶ丘の大名の元に嫁いだのだが、大名は流行病に倒れてしまい亡くなってしまったのだそうだ。そこで彼女は大名の亡き後城主となったのだそうだ。

“…武蔵の国じゃ。武蔵の南西部の大地、三峰の山で妾は待つ…”

『ねえ、麻也。なんでここに来たの?』
『昨夜、私…夢を見たんだけど夢の中で女の人が言ってたんだよ。』
『女の人ね…』

私は埼玉県の秩父市に着いた。都心からはリニアトレインに乗り、西武秩父駅には一時間もかからずに着いたのだが、駅に着いた途端に美月はバタっと倒れてしまったのだ。
美月はかなり無理をしていたらしい。すると…

『あらあら、大変!この子具合悪そうね。貴女、この子を見てて。私は車持ってくるから。』

すると5分も経たないうちに女の人は駅のロータリーに車を持ってきた。
私はその女の人と一緒にいたお姉さんと美月を車に乗せるのを手伝ってくれた。

『こんなになって!ダメでしょ!病人を引き摺り回したら。』

私はすみません…としか言えなかった。なんでもその女の人は近くで旅館で働いてる女将さんと従業員の方だった。女将さんの車で近くの病院に駆け込んだ。医師は…

『軽い脱水と疲れからでしょう。点滴をしましょうか。大丈夫、入院はする程でもないですよ。』

美月の顔色が良くなってきた。

『ごめんね、麻也。迷惑かけちゃって。こちらの人達は?私をここまで連れて来てくれたの?申し訳ありません、助けて下さって。』
『いいのよー、気にしないで』

2〜3時間くらいしたら点滴のせいか美月は回復したようだった。時間は15時を過ぎていて空は薄暗い。

『なんでこんなところに来たのかは後で聞くとして、もう薄暗いからうちの旅館に来なさいな。え?お金はそんなに持ってない?大丈夫大丈夫。タダでいいから。病人からはお金取れるわけないでしょ。』

私達は強引だけど優しい女将さんの提案に乗る事にした。

『貴女達、高校生でしょ?何でここに?』

女将さんは私達を部屋に案内し、お茶を淹れながら尋ねて来た。超能力が使えなくなったからある人に会いに来た…とは言えず、誤魔化しながら話した。

『なるほどね。そんなところでそちらのお友達が…って感じかな。旅って言えばさっき私と一緒にいた女の人も旅をしている途中って言ってた。今はああしてうちで働いてもらってるのよ。』

へぇ…そうなんだ、あのお姉さんもね…。

美月は旅の疲れか、私の横で可愛い寝息を立てて眠っている。翌朝、美月は元気になったのだが、女将さんのご好意で旅館に残る事にした。

『麻也、気をつけてね。』
『うん!』

私はお姉さんの運転する車に乗り込んだ。駅に戻り、国道を道なりに進むと段々とカーブが多くなり、上り坂が多くなってきた。エレクトロニクスが発達した電気社会となった今の世の中、こちらの方はまだまだ発展途上なんだな。と不思議に思っていた。

『三峰って言ったらやっぱり神社よね!山の奥に神社の奥宮って言われる場所があるんだけど、そこに行くの?大体片道2時間くらいだし、雨の降る予報は出てないけど気をつけてね。』

…とお姉さんが見送ってくれた。神社の奥宮までは一応整備はされているけど社務所に登山届けを出した。
私は山道をひたすら歩く。急に上り坂になったかと思えば凸凹した荒れた道になったり。私は無我夢中になって歩き続けた。

登山道

私は体力には自信がある方だと思っていたが、登山は未経験。奥宮につく頃には汗だくで荒っぽい呼吸をしながらも…やっと奥宮に着いた。

これが奥宮?

奥宮まではかなり大変。


私が感じた第一印象だ。私はパンパン!と大きな柏手を打つ。すると祠の方からボゥ…と女性が現れた。

『其方じゃな、あのお転婆の子孫。ほう、名は麻也…と申すのか。妾は安岡の月、月姫じゃ。其方は本当に妾達が二人でいた頃のあのお転婆にそっくりじゃな。妾と麻の出会いはもう酷かった。会えば争い、話せば争い…其方らもそうじゃったじゃろ?そんな中で妾達はある脅威となる出来事が起きた。徳川と石田の群勢が妾達の国に押し寄せできたのだ。徳川と石田の戦は下野国の大地で起こったのじゃが、その大地は両軍の兵が流した血を糧にして封印をあやつらは解いてしまった…徳川と石田の群勢に囲まれ、更に封印が破れたのをきっかけに異形の者…魔物達も妾達の国を取り囲んだ。こんなちっぽけな小国に何故…?と思うじゃろ?まあ、それは麻が話すだろう。
妾とお転婆…麻は必死になって三軍と戦った。傷つきながら、妾達はあるお方から授けて貰った力を使った。そのおかげで徳川と石田の軍は後退し、魔物の群勢は再び封印された訳なのじゃがな。』

月姫は淡々と語ったのだが、私は彼女の話を真剣に聞いていた。

『さてお転婆の末裔、麻也よ…妾に会いに来たという事は試練を受けに来た、という事じゃな?』

その瞬間、奥宮の風景がグニャと歪み、場面はあたり一面、花が咲き乱れ、蝶がヒラヒラと舞う草原というか花園といった雰囲気の場所だが夕方…空は赤く染まっている。

『妾と麻はよくここで会ったもんじゃ。二人で語り合ったり、時には勝負をしたりもした。妾はどちらかというと、夕暮れ近く…この刻が一番好きなんじゃよ。さて…麻也、妾と勝負じゃ。』

月姫は着ていた服を脱ぎ出した。

『何をしとる!其方も脱ぐんじゃよ。ここは妾達にとって神聖な場所…小細工なしで勝負がしたいのじゃ。其方…“あかがね”を忍ばしているしな。』

…バレていた。私はイソイソと服を脱いだ。

『さて、これで妾達の間に枷は無くなった…行くぞ、麻也!』

私達はサッと構え、念を練る…空気と念が擦れる音だろうか、ピシッピシッ…と音がする。月姫は念の練り方が早く、私は彼女のスピードに着いていくのがやっと、じわじわと追い詰められている。私はひたすら念を溜め、溜めに溜め…溜める事を専念する…月姫は…

『妾にその念を受け止める力がない…!やるな、麻也…妾の体力がない事を知っていたな?』

月姫は念を抑えられなくなり、ガクッと膝をついた…はい、その通りです。知ってましたから。

『妾は元から体力がなく、いつも麻に助けられていた。私は病弱だったし、大した事がない病に罹っても妾はいつも拗らせたりする。そんな中で、麻はいつでも傍にいてくれた。喧嘩はしてもお互いに惹かれていたものがあったのかもしれんな。そんな中で妾達を惑わす事が起きた。妾達は其奴にそそかされたのだ。幼かった妾達に決定的な溝を作った…誰だと思う?それは人間に化けた魔物だ。魔物が化けた…人間はそれぞれ、一人の時に妾達の近くに来て妾達は口車に乗ってしまったのじゃよ。国は二つに割れ、些細な事で戦になった…妾は必死になって使いを麻の元に送ったりもしたが、溝は深く、直す事は不可能に近かった。そんな妾達の事を見捨てずに救いの手を差し伸べたのが神様じゃったのじゃよ。』

仲が悪かったのは必然的にだった訳でそれまでは二人の姫は仲が良かったのだ。

『徳川・石田と魔物の軍を退けた妾達…そんな中で麻は病に倒れた。頑丈にできたいた麻が病に?妾は焦った。魔物は悪足掻きを麻に施したのじゃが、それは其方らの世界でもあったじゃろ?なす術もなく麻は…天に召されてしまい、妾も麻と同じ病に罹り妾も志半ばで世を去った…今はあの魔物達の悪足掻き…“ころな”と呼ばれる病…今の世の中、大陸からと世間は騒いでいるようじゃが、実は違う。あれは封印した魔物達が残した遺産が風に乗って大陸に流れた訳じゃ。』

一昔前に世界を震撼させたあの猛威、封印された魔物達のせいだったのか!

『実は妾と麻…友情とは違う関係だったのじゃが、亀裂が入っても心の中の感情はまだ残っていたと思う。それは麻も同じだったようじゃな。妾達は…“禁断の恋”をしていた。妾達は志半ばで成就できなかったが、麻也よ…世間がどう言おうと、自分の思いを大切にせえよ。まあ、今では仲良くさせて貰っているがな。さて…麻也、妾の試練と想いを其方は成し遂げた。その証を其方に託そう。少しばかり苦痛を伴うが許しておくれ。』

突然、私の左肩に違和感を感じたかと思うと激痛が走る…刃物でグリグリと弄られる感触がある。その痛みに我に返ると元の奥宮の風景に戻っている。左肩には血が滲んでいるのがわかる。痛みに耐えながら私は来た道を戻り出す…。

三峯神社に戻って来た時にはうっすらと空が赤く染まり出した頃になっていた。

『どうされたんですか?その肩は!血が滲んでるじゃないですか。』

社務所の職員が私の肩を見て驚いていた。傷からの出血はすでに止まっていたが何だか模様にも見える。半円の中に桑の葉らしき物が刻まれている。
慌てて神主さんが救急箱を持って来て中から消毒液を取り出して傷にプシュと散布する…滲みる!

私は職員の方々にお礼を言った。
バスで帰ろうと思ったが生憎、最終便の時間はとっくに過ぎていたので神主さんの車に便乗する事にした。
駅まででいいと、言ってあったので私は駅で降りたのだが、降りてすぐ、旅館の車が待っていた。

『お帰りなさい!随分遅かったんだね。あ、左肩血が滲んでるじゃん!』

私は神社で手当を受けたから大丈夫!と腕を捲るとお姉さんはホッとした様子で安堵した。旅館に着く頃には夜になっていて女将さんと美月が迎えてくれた。美月はわんわんと泣きながら私に抱きついてきた。

美月はだいぶ調子が良くなったようで旅館の食事もペロリと平らげてしまう勢いだったが、私は疲れからあまり食べれなかった。私は美月に山であった事を話した。

『大変だったね。でも脳筋の麻也がそこまでヘロヘロになるなんてよっぽどキツい試練だったんだね。でも良かったよ、麻也が無事でさ。ところで左肩は大丈夫?痛くない?』

私は左肩のガーゼを剥がした。血はもう出る様子はない。

『ねえ、この傷、なんか模様に見える…葉っぱ?私の家の紋にも見えるけど、それが試練の証?痛そう…』

美月は薬を塗りながら言う。美月は手際がよくあっという間に手当を終えてしまった。私は疲れが出たせいか布団の中で眠っていた。美月はお姉さん達の部屋に行ったきり戻ってこない。

深い眠りの中、私は次は美月の番か…と思っていた。

ゆの華、和どう秩父でオススメの旅館です。

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