超能力・旅立ち
私と麻也は学校に復学した。クラスメートは“お帰りなさい!”と迎えてくれて私達は嬉しかった。
相変わらずだな…この学校も。私達は学校の雰囲気は変わっていない事に安堵していた。
『はいはーい、皆んな静かにして!長篠さん、安岡さん、お帰りなさい。さてHRを始めるわよっ。』
私達はふと…念を彼女に放った。スルッ…彼女のスカートが落ちる、彼女の下着も同時にストンと落ちる。
『安西ちゃん、朝からエッチじゃん!』
『あはは!エロいー!何やってんの!』
私達の能力はやっぱり健在!調子いい…と私達はニヤッとしてしまった。
『キャーッ!』
安西先生…ごめんなさい。すっかり力が戻っていた事にホッとする私達。
さてそんな学校生活も佳境に入った。そう、“大学受験シーズン”到来!教室では進路の事で話題はもちっきり。私達は“逢羽女子大学”を受験しようと思っている訳だが、麻也は…かなり苦戦している。私は彼女にワンツーマンで麻也の家で勉強を教えつつ、麻也といる時間が楽しかったりする。
受験当日…
私と麻也は大学の門を潜った。ただ彼女とは会場が違うので校門で別れた。
夕方、校門で待ち合わせ…麻也はまだ来ない。暫くしてゲッソリとした麻也がフラフラしながら歩いてきた。
『美月ぃ…とりあえずやる事はやったけどさぁ…自信ないや…』
『麻也!大丈夫だよ。やるべき事はやったんでしょ。私と一緒に大学行くんでしょ!』
『うん、そうなんだけどさ…どうしよう、落ちてたら…』
そんなやりとりをしながら月日はあっという間に経ち、合格発表の日。私と麻也は…
まずは私…自分の受験番号を必死になって探す。
あった!私はガッツポーズをした。さて今度は麻也だ…
『美月ぃ…私、直視できないよ…緊張に押しつぶされそう…』
『麻也、麻也なら大丈夫だって!しっかりして!』
麻也はそーっと目を開けて自分の番号を探す…
『美月!美月!やったよ、私の番号あったよ!』
私は彼女の受験票を取り、番号を探す…確かにある!やった、大学も麻也と一緒に行けるんだ!その時、後ろの木がバサっと音がして振り返ると木の葉がドサッと降って来た。無意識のうちに私達は能力を使っていた…極度の緊張は力を暴走させてしまうのを忘れていた。その木は後に“ドリフの木”と大学内で呼ばれるのは後日談だが…。
私と美月は…大学生になった。所謂“女子大生、略してJD”だ。
逢羽女子大学…
あいばじょしだいがく、と読むのだが、他の大学にない固有の学部があってそれが人気で倍率が物凄く高く、麻也のような脳筋女が合格したのはまさに奇跡だと言われてきた。
ついたあだ名が“ミス・ミラクル”、奇跡を呼ぶ女として一部の間では有名になっている。
そんな麻也ではあったが、大学に入ってからガラリと180°イメチェンをしてきた。
茶髪だった髪を黒に染めて、スカートをやめてジーンズを履いている。靴は女の子らしくない、ハイカットのスニーカーを履くようになった。
ボーイッシュな感じにシフトチェンジした彼女…私はキュンとなってしまった。
『麻也、随分と大胆なイメチェンしたけど…大学デビュー?』
『うーん、私って元から男の子っぽい格好に憧れてたんだよね。スカートよりもジーンズ派。高校の時は制服ばっかりであまり履けなかったけどね。大学入れたし。』
『…やっぱり大学デビューじゃん、それ。』
『あはは…!それに私に変な虫がついた美月は嫌でしょ?』
んもう…私は思わず赤面した。
『美月、大好きだよ…美月は?』
麻也は小声で耳打ちする…
『私もだよ、麻也…大好き。言わせないで、恥ずかしいから。』
美月は照れ臭さそうにボソっと言った。
さて私と麻也、何故この大学に来たのかは理由がある、先程も言ったが、この大学には人気の学部があってその存在が…
“魔法学部”
なのだが、何故この学部が人気なのかはよくわからない。私と麻也は一応能力者だし、この能力の事に興味を持ったからであって。でも胡散臭いし、科学が発展した世の中でオカルトチックな要素が認識されるのかはわからないし、そもそも将来的に役に立つのか?麻也が行きたい!って言うから単に志願したんだけど、私は単に麻也がいるならどこでも良かったのだが。
麻也とはキャンパス内のカフェで待ち合わせているのだがなかなか来ない…暫くして、
『ごめんね、遅くなって…待ったかな?』
『相変わらず時間にルーズだよね、麻也は。』
『ごめんてば!』
さて、私はアイスコーヒーを口に含むと、
『ねえ、麻也…秩父の出来事を覚えてる?力が使えなくて、麻姫と月姫に会いに行った日。私達、あれから色々調べたけど全然見つからないし、何もない…だからここの大学の人気学部に入ったんでしょ?』
『うん、覚えてる…って言うか忘れもしない。私達は彼女達の試練を受けた。私は月姫に美月は麻姫に会ったはず。二人で試練をパスした…残るはあと一つ。何処で誰が待つのかな…』
『私はあれから考えたんだけど仮説ね…麻也、貴女は何処の山で月姫と会ったっけ?』
『三峰山、正確に言うと三峯神社の奥宮。』
『うん、正解!じゃあ、私は?』
『武甲山!武甲山御嶽神社。』
『そう、麻姫と月姫は山にいた。さらに麻也に質問。麻姫と月姫の力をくれたのは?』
『名前はわからないけど神様…だったよね。』
『そう!つまり…彼女達より格が高い人だから“彼女達がいた山よりも高くて神社がある場所”って限られてくるでしょ…?』
『うーん…エベレスト?』
…ドリフの木の方でまたバサっと葉が沢山落ちた音がした。
『麻也って本当に脳筋女だよね…それにエベレストは外国じゃん。神社とかないし!』
『あはは…冗談だって!わかってるよ。富士山でしょ?浅間神社って神社があるはず。』
『そういうこと!私なりの予想だけどね…』
『そこで提案。また秩父に行って姫様達に会ってみない?彼女達なら情報を持っているんじゃないかって。私は月姫様に会ったことないし、麻也だって麻姫様に会った事ないでしょ?お互いのご先祖様にまだ会っていないのは変でしょ?』
麻也は納得したようだった。
『今の時期なら山にも登れるはず。どっちから行く?』
『じゃあ…武甲山からにしない?理由はないけどね。』
私達は久しぶりに旅館に行った。勿論…お客として。
『いらっしゃいませ…って美月ちゃんじゃない!麻也ちゃんも!今日は?』
私達は今回はほぼ正直に話した。力の事は避けて。
『なるほど…つまり、三峰山と武甲山に登山に来たって事?そこにはある人が待っていると?あんな場所にねぇ…』
『はい、私達は行かなければならないし、あとは登山の魅力に惹かれたのもあるんですよ。』
女将さんは真摯になって話を聞いてくれた。
翌朝、私達は朝早く出発した。前回と違い、陽はすでに登っていて明るく、すぐに登山口を見つけた。私は一度登った事があるので思ったよりも早く頂上の神社に着いた。私達は賽銭を投げパンパン!と柏手をした。すると…
『ほう…美月ではないか。今日はもう一人、ん?其方は…?』
『初めまして、ご先祖様。私は長篠麻也…貴女の子孫です。』
『其方が…私の子孫か。雰囲気は私によく似ておるの。』
ボゥ…と現れた麻姫。
『麻姫様、実は…』
『わかっておる。私達が力を授かった神様の事についてじゃろ?私が知っているのは“神々が集う霊峰と呼ばれる場所に住まう高貴な人物”としか言えん。それ以上は私にもわからないのじゃよ。私達は日本中をあちこち探し回ったのじゃが、結局会う事ができなかったからな。麻也よ…私も同行しようぞ。』
麻姫様は私の左肩の紋様の中にスゥーッと吸い込まれた。なんだか左手に違和感を感じる。
『違うわっ!決して私が太っているわけじゃあないからな。念の為!』
私は左腕に違和感を感じながら、下山した。
『お帰りなさい、麻也ちゃん、美月ちゃん。』
女将さんは安堵した様子で答えた。あれ?そういえば…あの人がいない。家と幸せを求めていた“お姉さん”が。
『あの人?どうやら麻也ちゃんや美月ちゃんの姿を見ていたのか、あの人も旅を再開するから…と言い出して。なんでも“幸せを得るには自ら動かねば…”って。あの人は旅をするのが宿命みたいな感じだったのよね。でも彼女は色々と考えての事だから…』
女将さんは残念そうだった。
『このお屋敷…彼奴の気がうっすら残っている…』
麻姫様が突然姿を現した。
『麻姫様!マズイですって。ここで姿を見せたら…』
麻也が慌て腕を抑えた。
『大丈夫じゃ、その女中に私の姿は見えんよ。まさか…彼奴の子孫がここにいたのか?』
『アヤツ…?』
美月が答えた。
『そう…彼奴。“萬屋金兵衛”じゃ…私と月の間に入って商売をしていた人物じゃ。私らの桑の葉を月に売り、月の国のお蚕様が作られた眉…絹糸を買取り、商売をしていた商人(あきんど)じゃよ。まさか知り合いに会えるとはの…萬屋金兵衛、伝説の旅商人、渾名は“わらしべ長者”と言われておる。』
『へぇ…あの人、そんなすごい人の子孫だったんだ…』
確かわらしべ長者の話は藁を持って旅に出て行く先々で物々交換をしてお金持ちになる…って話だ。昔、おばあちゃんが良く話をしてくれた御伽話だったりする。
『金兵衛もその女と同じく、日本中をあちこち旅をしたと聞く。あの一族は一ヶ所に留まる事を知らぬ人間ばっかりだったな…』
思わぬところで意外な人物の名が出た。私は登山の疲れを癒すべく眠りについた…次は武甲山、美月の御先祖様、月姫が待っている…
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