見出し画像

超能力⑦・後編

今、私は旅館でここの女将さんのご好意でお世話になっている。何故旅館にいるかと言うと、駅に着いた私はバタっと倒れてしまい、そこにたまたま居合わせた女将さんに助けられた訳だ。

私は部屋の一室を借り、休んでいたのだ。ただいつも傍にいる“長篠麻也”の姿がない。彼女はある人物に会う為に登山をしている。

『美月ちゃん、入るね。』

扉が開かれるとあの時のお姉さんがいた。

『美月ちゃん、何も食べてなかったでしょ?女将さんがお粥を作ったから食べてみて。女将さんのお粥って凄く美味しいんだよ。』

私は、出来立てで湯気が立っているお粥を食べる、口の中でフワッと柔らかくなったご飯が溶けるような感触が伝わって来る。

『美味しい!』

と私は素直に思った。気がつくと私は全部食べ終わっていた。丁度そのタイミングでお姉さんが入ってきた。

『ご馳走様でした…』
『はい、お粗末様でした…ね?凄く美味しいでしょ?私もこのお粥に助けられたんだよね。実はね、美月ちゃん…私も旅をしているの。家を失くしちゃって…本当の幸せと家を求めて日本中を旅していたんだけど私、倒れちゃってね。気がついたら私も女将さんの下で働いているの。美月ちゃん達は何の為にここへ?』

私は返答に困っていた。“能力が使えなくなったからある人に会いに来た”と正直には言えなかったのでつい観光です!と咄嗟に言ってしまった。

『そうなんだ?でもね、無茶な計画は立てずに無理をしない事!身体がいくつあっても足りないから。…なんて人の事言えないけどね。』

彼女は私と少し話って部屋を出た。“家と幸せを求めて…”か。私の幸せって何だろうな、と考えているうちに眠ってしまった…

『…ろ…きろ…』

私を呼ぶ声がする。幻聴?  

『起きろ…起きるのじゃ…』

いや、違う。明らかに私を呼んでいる。

『私はお前に話したい事があるのじゃが…武甲山で待っておるぞ…』

私はそこで目が覚めた。麻也は三峰、私は武甲山…か。再び眠りに着いた。そんな夜遅く…麻也が帰って来た。左肩からは血が滲んでいて、麻也は…

『はぁ…はぁ…美月、ただいま…』
『おかえり、麻也!貴女…怪我してるけど…大丈夫?』
『う…うん、大丈夫…神社で消毒してもらったから…』

麻也はフラフラ…と歩き、私の部屋に敷いてあった布団にバタっと倒れるように眠ってしまった。あの麻也がこんなになるなんて、どんな試練を受けたんだろう…麻也と入れ替えに私は体調が良くなって来ているのがわかる。

私は女将さんとお姉さんがいる部屋の扉をノックした。“どうぞ〜”と声がしたので入った。そこは従業員の休憩室で二人はテレビを観ていたのだが。

『お疲れのところ申し訳ありません、実はご相談したい事がありまして。』
『美月ちゃん!もう大丈夫なの?』
『はい、女将さんのお粥パワーで復活です。ただ逆に麻也の方が…』


『麻也ちゃんも無理してたんだね…美月ちゃんに心配かけないようにって。わかった!麻也ちゃんの事はおばさんに任せて!』
『んで美月ちゃん、行く宛が決まったみたいだね。私が相談に乗ってあげる。』

私はお姉さんと登山について夜更けまで話し合った。私は一日かがりで登山道具を揃えた…というより女将さんから借りた物ばっかりだが。

次の日の早朝、私は身支度をし、従業員入り口前にはお姉さんがいて車を出してくれるという。

『行ってきます!女将さん…麻也を頼みます』
『うん、任せて!美月ちゃんもまだ万全…とまで行かないから充分気をつけてね。無理だと思ったら引き返す事も考えてね。』

私は笑顔で手を振った。
さて私が行く武甲山登山はまず車で秩父鉄道の浦山口の駅まで行き、そこから登山道に入り登山開始。山道をひたすら歩き頂上を目指すのだ。

浦山口の駅は早朝の為駅構内の灯りしかついていないのでほぼ真っ暗…電車は始発でさえ動いていない。

秩父鉄道・浦山口駅。

『美月ちゃん、気をつけてね!』

私はお姉さんと別れた。さて私は装備を整える。それと女将さんからある機械を借りた。“クライムドローン”だ。ソロ、つまり一人で登山する場合はこのクライムドローンが必要であり、携帯が義務付けられている。まあ、山で使うナビみたいな物だ。GPSを搭載し、リアルタイムで登山者をサポートする。登山届はクライムドローンが作成し、オンラインで自動送付する。今回は武甲山登山なので秩父警察に提出する。  

“ピピッ…所轄警察署ニ登山届ヲ送付致シマシタ…ナビゲーションヲ開始致シマス。”

よし、行くぞ!と私は気合いを入れ、歩き出した。ドローンは機械音を出しながら私を誘導する。

ドローンも進化し、AIを搭載している。

視界が暗く悪戦苦闘してながら登山口を目指す。林道をひたすら歩き、途中、迷いながらもドローンが位置修正をし、ナビゲートを頼りに歩くと真のスタート地点である登山口を見つけた。

登山口、つまりここからが真のスタートだ。

整備されているとはいえ、足元には不安があるが…私は歩いていく。私は考える…頂上で待つのは誰だろう…麻也は私のご先祖様、月姫に会ったと言う。なら私の場合は?おそらく“麻姫”なのだろうか。もしそうだとしたら、彼女が出す試練とは?
色々わからない事だらけ。
さて道は段々と険しくなってきた。急な登り坂が私の体力を奪っていく…空はだいぶ明るくなってきたし、照明を使わなくても目で確認できるようになった。坂を登り切ると少し広い場所に出た。

坂を登り切ると広い場所に出る

私はここで休憩を取る事に。麻也はどうしてるだろう…大丈夫なのか。私は麻也の事を考えてしまう。私はリュックの中からチョコレートを出し、かじりながら空をみわたす。余談ではあるが、チョコレートというお菓子はカロリー、つまり熱量がかなりある為行動食としては人気が高い食べ物だ。

道はまた険しくなり出したし、しかも雪が残っている場所もある。つまり、頂上が近い事を意味する。

冬でもないのに積雪…つまり頂上は近い事を意味する。

ところどころ雪が私の邪魔をする。私は何度か滑りそうになるが、必死になって姿勢を整えた。雪道に苦労していると前方が突然開けた場所に出る。横から風を感じるようにもなる。

頂上は近いと知ると私はひたすらまた歩いていく。ただ足取りは早い!

この看板が見えたら本当にあと少し。
武甲山御獄神社。

着いた!私は登山をやり終えた事に達成感を感じていた。だが私は気を引き締める…これから私は…鳥居を潜った瞬間!異様な気配を感じた。境内の中だけ気の流れが明らかに違う…私は感じ取った。

“…やっと会えたな、じゃじゃ馬の末裔よ。”

キョロキョロとしていると私の後ろにいつの間にか女の人がいたのでびっくりして尻餅をついてしまった。 

『すまんの、じゃじゃ馬の末裔よ。私は長篠の麻という。麻姫と呼んでくれ。』

やはり私を呼んでいたのは彼女だったんだ…

『さて、其方…名は?“美月”と申すのじゃな。まずは…よく私に会いに来てくれたな…嬉しく思うぞ。すでに話は大分聞いているかと思うが、二つの国が一つになった後私達は徳川と石田の争いに巻き込まれてしまった。更に徳川と石田は戦をしており沢山の血が流れてしまい、その血で大地に封印されていた異形の者…魔物達も現れてな…攻め込んできた。三軍から睨まれてしまった私達、なす術もなく私達は死を覚悟した。そこで私と月は授かった力で魔物を再び封印すること成功したのじゃ。徳川や石田、そして魔物達は何故私達に拘るのか其方にはわからないじゃろ?』

私はわからなかった。

『其方達が住む場所の奥下には財宝と魔物が封印されてる。徳川と石田は財宝を、魔物は封印を…ってわけじゃな。財宝で欲に塗れた人間を誘い出し、生贄を探し、封印を強引に解こうとしている…だから私らは必死で守り抜いた訳じゃ。封印を解いてはならんのじゃが、その封印は年月と共に力が緩みつつある。その予兆は我ら一族の身体にも何らかの影響が出ているのじゃがな…其方は特にその影響を受けやすい。途中で体調が優れなくなったのはそのせいじゃ。月も其方と同じように身体は強い方じゃなかったしの。さて…美月よ、私は月と違って優しくはないぞ。私と力比べをしようか。具合が悪かろうと私は一切容赦せんよ?』

その瞬間山の景色がグニャと歪み違う場面になった…地面には花が咲き乱れ、蝶があちこちでヒラヒラと舞う…空は澄んでいるが私達の時代の清々しさは全然違う。

『…ここはな、私と月がよく遊んでいた秘密の大地。力を授かってからは修練場みたいな雰囲気になってしまったがの。さて…話はお仕舞いじゃ、美月…行くぞ!』

麻姫と私はササッと構える!

『ちょっと待った!すまんすまん…美月よ、“あかがね”を忍ばせでおるな!私は小細工とか嫌いでな。』

麻姫は着ている服をモゾモゾと脱ぎ出した。

『美月、其方も脱げ。裸なら小細工もできないじゃろ。』

恥ずかしいが仕方ない…私も脱ぎ出した。山の頂上で寒いはずなのに、裸でも寒くない。

『懐かしいの…真剣勝負の時はこうして裸一貫でしたもんじゃ。さて…今度こそ、美月!』

私は構えた。私達の間で念は段々と溜まり出し、念は大きくなっていく。ピシ…ピシ…と何か擦れる音がする。あの脳筋女のご先祖様だけあって体力面では明らかに私の方が不利…でも負けられない…念の塊はバチ、バチっと燻り出している…その時麻姫はグラっと一瞬体勢を崩し、膝をついた。

『私の負けじゃな。よく頑張ったの…月の末裔、美月よ。』

私は思わず麻姫に抱きついてわんわんと泣き出した。

『よしよし…其方も辛かったよの。これから其方達は奇怪な運命を辿るのじゃ…それまでは普通の女の子として居ても悪くはないじゃろうな…気が済むまで泣くといい…』

どれくらいの時間が経ったのだろうか…私、麻姫に膝枕をしちゃってる!だが彼女は私の身体に手を添えていてさすっている。まるで子供をあやす親のように…。

『美月…さて其方に最後の“ぷれぜんと”しないとな。ちょーと痛いが我慢しておくれ。』

私の右肩に激痛が走る。刃物でグリグリえぐられたような感じ…兎に角痛い。

『美月、これで私の試練はお仕舞いじゃ…私は其方に会えて楽しかったぞ…私達は常に其方達と共にある事を忘れるでないぞ…』

私は我に返った。麻姫もいないし、神社がポツンとあるだけだ。ただ右肩には血が滲んでいる。袖を捲ると…風が傷に当たって滲みるのだが半円に蝶の紋様が描かれているのがわかる。

『ピピッ…ピピッ…バイタルサイン、イエロー…要観察モードヘ移行…』

ドローンが反応する。私は女将さんが貸してくれた装備の中にエマージェンシーツールあるのでそこに消毒液とガーゼがあったのを思い出し、ガーゼを圧迫気味に固定した。
私は右肩の痛みを必死に堪えながら何とか下山する事ができたのだが…
ゴールは駅ではなく、鍾乳洞前に着いてしまった。

秩父の札所・二十八番、橋立堂。武甲山の登山ルートは橋立堂前にもあるが、結構大変。

旅館に電話をしたがお姉さんが出て、

『あー、はいはい!鍾乳洞がある寺の前ね。わかった、迎えにいくね。』

旅館に着くと…女将さんと麻也が出迎えてくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?