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平塚市美術館「こどもたちのセレクション」エピソード⑩

 エピソード⑨の山本直彰さんの作品以降の展示区画では、子どもたちが不思議だと思う、さまざまに想像を喚起する作品をご紹介しています。

 そこに伊藤彬さんの作品を2作品、展示しています。調査対象の2015年以降、伊藤さんの作品が多数、展示される機会が多かったこともあり、上位90作品のうち3作品が入った結果となりました。他にも何人か、複数の作品が結果に出た作家さんがいらっしゃいました。

 同じ作家さんでも、時期により作風が変化したり、シリーズで少しずつ異なる作品を描いていらっしゃることも多いので、できれば1人の作家さんで複数、展示して、その違いを味わい、作家さんの足跡を感じていただけたらと思うのですが、いろいろな作家さんの作品が挙がっていましたので、今回は原則1作家1展示で構成。

(本稿の作品は、平塚市美術館さんの「所蔵作品データベース」で画像を見ることができます)
 https://jmapps.ne.jp/hiratukabi/index.html

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●「なぜ、なに?」想像がとまらない~

・伊藤彬『青幻記』(1976年 176.0×264.0cm 彩色・紙)

 保育園年長さんのツアーで、ものすご~く物語が展開する作品です。
 2歳の子はこんな疑問を持ちました。

 2歳10ヶ月 少年が手を出しているのを見て「どうして手を出しているの?」

 答えはないけれど、みんなで話すと、想像の物語がふくらみます。

・逃げようとしている
・丸いところお母さんが天国に行きそう
・お母さんと別れるのがかわいそう
・お母さんと別れるのがいやで手を伸ばしている
・うっすら見えるお母さんを鳥が食べようとしている
そして「なぜ、なに?」が尽きません。

・お花の近くの赤いぼんぼりはなに?
・お月様の人が何座かわかならい
・どうしてあの人たち逃げてるの?隕石がぶつかったから?
・自然が壊れたり・・・・どうして月の中に星座の様な人がいるの   etc.

 4歳 8ヶ月 ふしぎなきし
 6歳    まぼろしがつまってる

「まぼろしがつまってる」なんて言葉、どこから出てくるんでしょう!!すごいなぁ
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・伊藤彬『亡憶』(2000年 180.0×240.0cm 墨・紙)

 集計では「その作品を見た子どもの人数」が作品ごとにまちまちなので、分母を揃える計算をしています。この作品は、分母(この作品を見た子どもの総数)が少なかったことで、上位になった可能性があるので参考作品かなぁとご説明したところ、学芸員さんから子どもたちの様子が印象に残っているとのお話が出ました。私もこの作品の前で、しゃがんでじっと観る小さな子たちの姿が印象に残っていました。では出してみましょうかと相成りました。

 そして!学芸員さんはギャラリートークなどでは解説パネルに書いていないこともお話ししてくれることが多々あります。(だからギャラリートークにぜひ参加してみてくださいね!)
 
 この作品に関しては「これは作家さんの最愛の奥様が亡くなられた後に描かれた作品で、画面の中に人のように見えるところがあり、もしかしたら追悼の気持ちが込められているかもしれない」といったお話をしてくださいました。
 そんなお話を聞くと、大人はジーンときちゃいます。そして作品をじーっと見る子どもたちの姿に、またジーンとしてしまうのです。

 0歳 8ヶ月  ジーッと見ていた
 1歳     まっくら
 2歳10ヶ月 お月さま、夜
 8歳     うちゅうみたいですてきだった 

●モノクロームの作品も見るの? 子どもへの固定概念

 小さい子たちがモノクロームの作品もよく見ることを伝えよう、ということもこの作品を展示した理由の1つです。「子どもは赤青黄色などカラフルな色が好きだろう」と私も鑑賞会を手がける前は思っていたのですが、実施してみると、地味めな色合いの作品やモノクロームの作品に興味を持つ子も多くてびっくりしました。
 
 子育てでは「この子はこんな子だ」と、ついつい能力や個性を決めてかかってしまうことがあります。特にきょうだい児で、大人たちが何気なくキャラクター分けしてしまっていることが多い。でもその固定概念が、子どもの成長を阻んだり、心苦しく思わせてしまったりするケースをたくさん見てきました。
 大人の思い込みを払拭することで、子どもたちが楽になれますよう。そんな気持ちで、子どもたちの声をすくいとり、大人の方々へ伝わるよう「翻訳」するのが自分の仕事かなと思っています。


平塚市美術館「こどもたちのセレクション」は2022年9月19日まで開催中です!
https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/20162006_00019.html
(本稿は美術館ご担当者様に確認いただき掲載しております)


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