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10_マクロファージの自爆から炎症が始まる

マクロファージは全身の組織にいて、侵入してくる病原体と戦っています。それだけでなく免疫を起動する司令塔でもあり、さらに戦いが済んだ後の、傷んだ組織の修復にもあたる万能細胞なのです。そんな働き者の細胞にかけられている、あらぬ疑惑の話です。

マクロファージには炎症をおこす犯人との疑いがかけられている

この働き者の細胞は、あらぬ疑いをかけられています。それは炎症を起こして認知症の原因をつくっているだの、動脈硬化も、関節リウマチも、ほとんどの炎症性疾患はマクロファージのせいだと、されているのです。

ミクログリアも炎症の犯人?

ミクログリアは、脳内にいるマクロファージであり、損傷した神経を食べて片付けたり、集積したアミロイドβを分解する役割を果たします。また脳内の免疫細胞として病原体から脳を守る仕事もします。

それにもかかわらず、ミクログリアもまた、マクロファージと同じく非難されています。ミクログリアが過剰に活性化すると、毒性物質を放出して神経を変性させ、脳内の炎症を引き起こすとされているのです。

例えばアルツハイマー病では、たまったアミロイドβに反応して活性化したミクログリアが、他のグリア細胞や神経細胞にダメージを与えると考えられています。

このように、マクロファージやミクログリアは私たちの体にとって味方でもあり敵でもあるとされているのです。

このような不思議な行動をとるマクロファージの働きを理解するために、活性化して炎症を起こすマクロファージ(ミクログリア)をM1型、炎症をおこさないマクロファージ(ミクログリア)をM2型と呼んで区別します。

マクロファージとミクログリアはM1とM2の二つの仮面を持ています。いったいマクロファージとミクログリアは、私たちの体の中でどんな戦いをしているのでしょうか。

マクロファージとミクログリアは二つの仮面を持つ

多細胞生物の細胞死は全体のため

細胞がなぜ自爆するのかを理解するためには、生命の進化を理解する必要があります。生命の誕生において、細菌と古細菌の二つのグループが発生しました。それらは原核生物といわれます。

私たち真核生物の祖先は古細菌と考えられています。当時の地球は、酸素がほとんどありませんでしたが、シアノバクテリアが酸素をつくり始めて地球上の酸素濃度が上がり始めました。

当時の嫌気性生物にとって酸素は毒であり、窮地に立たされました。そしておよそ16億年前に、酸素を利用できなかった真核生物の祖先は、好気性細菌を取り込んでエネルギーをつくらせたのです。

実はその時からある宿命を背負うことになったのです。それが老化と死です。ミトコンドリアは酸素を使ってエネルギーをつくりますが、同時に活性酸素を発生させてしまいます。

その活性酸素が組織を痛め、老化を引き起こします。酸素呼吸とともに真核生物が手に入れたのが「死」なのです。

死には、「突然の死」と「計画した死」があります。突然の死は「壊死(ネクローシス)」といい、計画した死は「プログラム細胞死」です。
真核生物が発明したのは、後者の「プログラム細胞死」です。原核生物にはこの死はありません。

真核生物は単細胞生物から多細胞生物に進化しました。この過程で、細胞は自分の利益よりも全体の利益を優先するようになりました。

細胞が自爆するのは、全体の生存にとって必要だからです。例えば、細胞がウイルスに感染した場合、マクロファージは自爆してウイルスを攻撃し、他の細胞に感染を広げないようにします。

細胞が自爆するのは、生命の進化の結果として生まれた戦略だと言えます。このような細胞死には、いろいろな種類がありますが、最も研究されているのが、パイロトーシス(pyroptosis)という死です。

そのほかにもいろいろな細胞死があって、一つの死の経路がふさがれると、他の経路を使って、細胞は何とかして死のうとします。


細胞の自爆死から炎症が始まる

けなげなマクロファージにかけられた疑惑を晴らす

マクロファージが自爆するのは、そんな背景があるのです。この何とかして死のうとするマクロファージは、炎症をおこすので炎症性(またはM1型)マクロファージと呼びます。生き残ったマクロファージは炎症を収める抗炎症性(またはM2型)マクロファージと呼びます。

それではマクロファージが自爆するきっかけは何でしょうか。
その謎を解くには、細胞の死を決めているのは、だれなのかを知る必要があります。細胞の死を決めているのは、実は、外から入り込んで進化した「ミトコンドリア」なのです。

それではミトコンドリアが犯人だと、早合点してはいけません。ミトコンドリアは元は外の細菌でした。最初の生命が誕生して少したってから、私たちの祖先がまだ酸素を利用できないときに、酸素を利用できる細菌を取り込んで窮地を脱することができました。

その後、真核生物が大躍進を遂げられたのも、ミトコンドリアのおかげであると断言できます。

ミトコンドリアは動物が使うエネルギーのほとんどをつくる原子力発電所みたいなものです。そのミトコンドリアはエネルギーをつくるという大役を引き受けた上に、その時にできる活性酸素に最も近いところにいて、大変過酷な作業を強いられているわけです。

一つの細胞には数百個以上のミトコンドリアがありますが、ダメージを受けて働かなくなったミトコンドリアがあると足手まといです。そこでミトコンドリアがとった戦略は、「怠け者は消す」という作戦です。

多細胞生物の免疫まで引き受けることになったミトコンドリアは、「やばい細胞も消す」という厳しい基本方針を貫きます。そのおかげで私たちの健康が保たれているのです。

ミトコンドリアは細胞の死を決定します

外から入ってきた元細菌のミトコンドリアに、そこまで仕切られていいのかという感じがしますが、判断基準はミトコンドリアの方にあります。炎症をおこして死ぬか(パイロトーシス)、炎症をおこさないで死ぬか(アポトーシス)もミトコンドリアが決めます。

しかしその判断基準は、時として揺れ動くことがあります。ミトコンドリアも疲れてくると判断がくるってきます。ささいな原因で炎症をおこしたり、死ぬことができずに炎症性の物質を出し続ける細胞が出てきます。これらは老化細胞あるいはゾンビ細胞といわれます。

ミトコンドリアを動かしているものは何でしょうか。

ミトコンドリアにはカルジオリピン(CL)というリン脂質があり、これがエネルギーをつくるときに必要になります。

ミトコンドリアがつくるエネルギーは、膜のCLの量によります。CLがATP合成酵素を引きとめているからです。ミトコンドリアはCLの少ない弱ったミトコンドリアを自殺させます。これはミトファジーと呼ばれ、自分に厳しく、他人にも厳しいミトコンドリアの真骨頂といえます。その基準がCLの量と考えられます。

このCLは動物の細胞ではミトコンドリアにしかありません。しかもこのCLは細菌の細胞膜に多いのです。ミトコンドリアと細菌は親戚なのです。

次回予定

11_ミトコンドリアの量が細胞の生死を決める
マクロファージは炎症を左右する重要な役割を演じています。それを陰で仕切っているのがミトコンドリアです。そのミトコンドリアの活性はカルジオリピン(CL)に依存しています。
炎症をコントロールするには、ミトコンドリアを増やす、つまりCLを供給するのがいいのでは?
次回は、ミトコンドリアの量を増やすLilac01-EVのお話です。

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