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07_若返り美容で人気のエクソソームには、老化とがんのリスク

若返り美容で人気のエクソソームですが、本当に安全なのか、効果はどうなのか、気になるところです。さらに培養上清とは何なのか、謎に満ちた若返り美容は本当なのでしょうか。

MSC培養上清の実体

MSCとは、間葉系間質細胞のことです。間葉系幹細胞としている場合もあります。幹細胞というのは、いろいろな細胞に分化することができる細胞のことで、MSCの場合は細胞レベルでは、骨や軟骨、血管、心筋細胞などに分化する能力が確認されています。しかし生体内で増殖する細胞は非常に少なく、議論が続いています。

「間葉系幹細胞」と名付けたカプラン自身が、後に名前を変えるべきだと主張しました。「幹細胞」という名称が続くのは、供給者と使用者の双方に魅力的なのかもしれません。

MSCは膝関節の軟骨再生術などで利用されていますが、期待された軟骨細胞の生着と増殖はあまり認められませんでした。その代わり関節の痛みを和らげる効果があり、良く調べてみるとそれはMSCが放出するエクソソームの効果であることがわかってきたのです。

さまざま試験が実施されるエクソソーム

MSCエクソソームには様々な効果が認められており、大きな期待がかけられています。一つはアルツハイマー病などの神経変性疾患の改善です。神経の炎症を抑制して神経細胞の死を抑えることが期待されています。

次に自己免疫疾患の治療への期待です。MSCによる治療効果は確認されていますが、安全性の確認が必要です。

さらに心臓や肝臓、腎臓の修復と再生の促進が確認されています。またがん治療への新しいアプローチを提供する可能性があります。

このような有望な効果がありますが、まだまだ課題が多いというのが現状です。そのような中で、先行する若返り美容に安全上のリスクはないのでしょうか。

間葉系間質細胞の実体

間葉系間質細胞(MSC)とは何でしょうか。間葉系というのは、受精卵が分割して細胞数が増えていくときに、中ほどにできる中胚葉という部分からできる組織のことです。

間質細胞とはサポート役の細胞のことで、実質細胞のサポートを行う細胞です。実質細胞は臓器としての役割をする細胞です。
間質細胞はサポート役ですが、非常に重要な役割があります。臓器が活動できるのも間質細胞のおかげなのです。

間質細胞の重要な役割のひとつとして細胞増殖をして組織を支える仕事があります。MSCにも細胞分裂をしたり、増殖に必要な成分を分泌する仕事があり、エクソソームを大量に放出するのもその一つです。

MSCの細胞移植術や正規のエクソソーム注入治療は、若返り美容という目的にはふさわしくありません。なぜならMSCの細胞移植やエクソソーム注入には、自分の細胞を採取して2~3週間培養する必要があるからです(自家培養といいます)。

これには安全基準が定められていて、費用も100万円以上かかるようです。
骨髄由来の造血幹細胞とは異なり、MSCは免疫を逃れることができるため、他人のMSCを培養して注入する(同種異系といいます)方法が検討されました。

多くの臨床試験が実施された結果、損傷組織へのMSCの生着は非常に少なく、その作用は細胞の分泌物、特にエクソソームがかかわっていることがわかってきました。

そのためエクソソームだけを精製して用いたり、精製せずに培養上清液として用いたりするようになりました。

しかし米国では食品医薬品局 (FDA) が、MSC およびその誘導体を含む細胞療法製品を規制しており、現在のところFDA が承認したエクソソーム製品は存在しません。
またFDA は未承認のエクソソーム製品のリスクについて警告を発しています。

米国がエクソソーム製品に対して安全運転なのに対して、日本政府はエクソソームを含む再生医療に対して、かなり前のめりの姿勢を示しています。
日本では上清療法は再生医療として分類されておらず、規制がないために自由診療の範囲で実施されています。

MSC培養上清の培養方法


MSC培養上清の培養方法

上の図はMSC培養上清の培養方法を示しています。上清液には細胞はなく、エクソソームや成長因子、サイトカインなどが含まれているとされています。MSCの採取は脂肪細胞が用いられる場合が多いようです。

ここで一つ問題があります。正式なMSC細胞移植やエクソソーム注入では自分の細胞が用いられるのですが、培養上清では脂肪吸引で集めた他人の脂肪細胞が用いられるのです。

培養上清の危険性については問題になるほどではない、というのが供給側の主張です。

MSCエクソソームの効果と副作用

MSC の非常に重要な機能は、免疫調節効果です。MSC の免疫調節機能は、細胞によって分泌されるエクソソームと関連しています。MSCエクソソームの効果と副作用については、多くの動物試験とヒト臨床試験が実施されて確認されています(Dabrowska et al, 2020)。

最も多く使用された方法は、ヒトをドナーとしててネズミに投与した異種移植試験ですが、特に悪影響は示されませんでした。これで免疫上の適合を必要とせず、異なるドナーのエクソソームでも安全とされました。ただし信頼できるデータのほとんどは骨髄由来のMSCエクソソームです。

また別の研究では、骨髄由来MSCの加齢による変化を調査しました(Lepperdinger, 2011)。この研究では高齢者ドナーから採取したヒトMSCの成績が悪かったと報告されています。

加齢に伴って生理機能や細胞増殖などの能力が落ちてきたり、細胞内の老化物質の処理が追いつかなくなって蓄積することがわかっています。
このような加齢による変化がMSCにも起こっています。たとえば血管壁内のMSCは、炎症状態になると脂肪細胞に分化します。慢性炎症は高齢者には一般的で、加齢と炎症は同時に進行します。

炎症状態のMSCではミトコンドリアの老化が進んでいます。特に肥満者のミトコンドリアは炎症状態が進んでおり、活性酸素によるミトコンドリアの酸化が進みます。酸化(老化)したミトコンドリア成分は小胞となって細胞内のゴミ処理工場に運ばれて処理されるか、細胞の外に放出されエクソソームとなって全身を回ります。

このように老化した細胞は、老化ミトコンドリアや炎症物質の発信源になっており、がん化している場合にはがん転移の可能性もあります。

ひと口にMSCと言っても、若い人と老人では品質が異なりますし、ホストが病気の場合や肥満の場合には品質が著しく低下します。脂肪吸引で採取した脂肪細胞には、炎症物質が含まれている可能性が高く、他の病気を抱えていること少なくないと考えられます。

また細胞採取の手間を省くために、不死化細胞を用いようという動きもあります。不死化とはがん細胞のように死なない細胞に工夫した細胞のことで、不死化細胞のエクソソームではがん化するリスクが高まり、肝機能障害、心不全、アレルギー性発疹などのリスクがあります。

さらに別の隠れた副作用の可能性もあります。MSCエクソソームは電荷が小さいために凝集しやすく、血栓症をおこす可能性があります。また初期には培養の失敗による敗血症の死亡例もありました。

要するに医療に携わる者自身が安全性を理解せずに上清施術を行っている場合があり、このような新しい医療に対しては受ける側がより慎重に対処する必要があると考えられます。

次回の予定

08_ライラック乳酸菌はなぜEVを大量に出すのか?
今回はエクソソームについて深堀りしてみました。エクソソームは将来有望な技術と考えられていますが、良く調べてみるとそう単純ではないことがわかります。
エクソソームの問題点は、その純度のほかにも、培養する細胞の問題もあります。つまり細胞を採取して培養する必要があり、生産性がよくないのです。
乳酸菌由来のEVは、乳酸菌の大量培養技術を使えるうえに、安全性の面でも問題ありません。次回は乳酸菌EVの話です。

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