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02_炎症を抑えると、老化を予防できる

日本は長寿大国ですが、健康寿命と平均寿命の差は、男性で約9年、女性では約12年もあります(2019年)。健康寿命を延ばすことは、いま最も重要な課題です。この難問を解決する可能性がある素材、それが細胞外小胞EVです。

世界的にアンチエイジングが注目されている

アンチエイジング(抗老化)の技術が世界の注目を集めています。老化(エイジング)は炎症(インフラメイション)によって進むことがわかっており、インフラメイジングという言葉も使われるようになりました。

できるだけ長く健康でいたいと思うのは、だれでも同じです。いまなぜ、アンチエイジングが注目されるのでしょうか。それは老化の原因がわかってきたからです。その原因とは、「炎症」です。つまり炎症を抑えることが、老化を制するカギなのです。

一方で、生物の寿命はDNAで決まる、と主張する研究者もいます。DNAのテロメアは、寿命の長さを表すといわれていますが、テロメアは炎症によって短くなることが報告されています。
DNAの変異がある病気でも炎症を伴うことが多く、炎症が老化とかかわっていることは間違いありません。

炎症はがんの発生や進行にも深くかかわっていることがわかっています。さらに炎症はアレルギーなどの免疫疾患の原因でもあります。よくアレルギーは「免疫の誤作動」などと表現されますが、「誤作動」ではなく、「炎症」が過剰に働くことが、その理由なのです。

アレルギー疾患と認知症は関連することが、多くの研究で明らかになっています。認知症を発症するリスクは、アレルギー疾患の数に応じて増加します。

炎症と老化の関係はわかってきましたが、炎症を抑えることは非常に難しいという問題があります。

ステロイドは強力な抗炎症薬で、頻繁に使用されていますが、ステロイド離脱の問題があります。ステロイド離脱は見過ごされている場合が多い問題ですが、ステロイドをやめた後に、炎症の再発や重度の疲労、痛み、発熱、その他の症状がおこることがあり、新たな炎症性疾患に至る可能性もあります。

また一部の抗ヒスタミン薬の長期使用は、認知症のリスクが指摘されています。非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID)は、消化器系の不調や心血管のリスク、腎障害などの副作用をおこす可能性があります。

花粉症や食物アレルギーなどの自己免疫疾患のまん延は、炎症が老人だけでなく若者にも及んでいることを示しています。老化は炎症と関連していることは疑いようがなく、年齢を重ねるごとに、炎症との戦いは生命を脅かすほどに重大になります。

このように抗炎症薬には様々なリスクを伴うものが多いのが現状です。安全に「炎症」を抑える技術があれば、アンチエイジングを可能にするばかりでなく、炎症による様々な課題を解決することが可能になります。

図1 炎症は老化などの原因になります

「免疫」は、「炎症」と「抗炎症」のバランスが大切

よく「免疫力」という言葉を使いますが、「免疫力」とは通常、「病原体から体を守る力」という意味で使っていると思います。

そこで質問です。「免疫力」とは具体的に、何がどうすることだと思いますか。「免疫力」はどうやって病原体から体を守るのでしょうか。
実は、体を守っているのは「炎症」です。「免疫力」とは、免疫細胞が「炎症をおこして病原体を攻撃すること」なのです。攻撃によって自分を守るという意味では戦争に似てます。

それでは、免疫細胞はどうやって炎症をおこすのでしょうか。病原体が体内に侵入すると、まずマクロファージなどの自然免疫の細胞が、炎症物質を出して炎症を起こします。炎症物質をまき散らして標的の病原体を攻撃しますが、同時に自分の細胞まで、その被害にあってしまいます。

そこで「炎症」の後に、「再生」が必要になります。この「再生」も含めて、「免疫」の仕事なのです。
この攻撃や再生に使う道具が、サイトカインといわれるタンパク質です。サイトカインには炎症性と抗炎症性のものがあって、炎症性のものは攻撃用、抗炎症性のものは再生用に使われます。

私たちは「免疫を上げる」ことに目が向かいがちですが、免疫を上げすぎると、逆に自分自身を傷つけることになります。それがアレルギーや自己免疫疾患といわれるものです。

「炎症」は自分を攻撃することによって、老化の原因にもなり、時には暴走して死をもたらすこともあります。「炎症」は両刃の剣であり、「炎症」をコントロールすることは非常に重要な技術です。

炎症は、細胞の自爆死から始まる

自然免疫は下等動物で確立された初歩的な免疫機能と思われています。そのため病気の予防には、もっぱら「獲得免疫を上げる」ことが考えられます。しかし従来の方法では「炎症」を上げるばかりで、免疫のコントロールができていません。

近年の研究で、自然免疫には獲得免疫を含めて、免疫をコントロールするすごい力があることがわかってきたのです。

マクロファージは全身にいる、自然免疫の細胞で、死んだ細胞や異物を食べて掃除するのが仕事です。脳内のマクロファージはミクログリアといいます。ふだんは突起を伸ばして死んだ細胞などをさがして、食べて処理する仕事をしていますが、病原体の侵入などの異常があると活性化して丸くなり、破裂して死んでしまいます。

実はこの破裂は高度な軍事作戦なのです。破裂することで炎症物質を放出して相手を攻撃するとともに、T細胞などの援軍を要請します。つまりマクロファージの自爆死から免疫が作動するのです。

私たちはネズミ(ラット)の脳の細胞を使って、簡単な実験を行いました。ミクログリアの生きた細胞を容器に入れると丸い形になって、容器の接触刺激を感じてパンパンと自爆して死んでいきます。

この自爆死は「パイロトーシス」といいます。次のビデオではミクログリアの自爆死がご覧になれます。このような自爆死が脳のミクログリアだけでなく、全身のマクロファージなどの細胞でも実際に起こっているのです。

ミクログリアの自爆死 黒っぽい細胞が白くはじけて自爆死をおこす。80分を8秒に短縮

次回予定

03_ライラEVはミクログリアの自爆死を抑制するか
脳内のミクログリアが自爆して炎症をおこすと、ニューロンやほかの細胞に重大な影響があります。最新の研究によって、「細胞の死」は外敵に対する積極的な防御戦略であることがわかってきました。
なぜミクログリアは自爆するのかがわかれば、自爆死を抑制することが可能かもしれません。はたして、ライラEV(Lilac01-EV)は、ミクログリアの自爆死を抑えることができるのでしょうか。

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