12_ミトコンドリアは全身に元気と炎症を広めている
ミトコンドリアは、俵状のゾウリムシのようなものを創造する方が多いかもしれませんが、実際は上の写真(橙色の部分)にあるように、細胞内を埋め尽くすひも状のもので、虫のように動いて活動しています。
ミトコンドリアは自然が好き
ミトコンドリアは赤血球以外のすべての細胞の中にありますが、ミトコンドリアの量が減ると細胞死をおこし、炎症を起こすことがわかってきました。ミトコンドリアは私たちが生きていくうえで欠かせない存在のなのです。
私たち人類は大地に育まれてきました。動物も、植物も、微生物も、同じ環境の中で一緒に進化してきたのです。免疫の進化も、それらが一緒に生きていることが前提になっています。
アメリカのアーミッシュと呼ばれる人々にアレルギーが少ないのは、小さいころから家畜とともに育ち、微生物を摂取する機会が多いためといわれています。
ただ単に不衛生であればよいのではなく、幼児期にさまざまな微生物に触れて、皮膚や気道、腸管の常在細菌叢が多様になることが重要だとされています。
これは衛生仮説とよばれ、外の世界と交流を持つことが免疫の世界でも重要であることを示しています。
私たちは感染病を恐れるあまり、過剰に衛生的な環境に暮らしています。そのことが免疫に狂いを生じさせている可能性が高いのです。
腸内細菌には、グラム陽性菌とグラム陰性菌があります。グラム陰性菌はグラム陽性菌に比べて強いので(胆汁酸耐性が高い)、外部からの補充がないと腸内細菌はグラム陰性菌によって支配される可能性があります(Urdaneta et al, 2017)。
グラム陰性菌のEVには、LPS(リポ多糖)という毒素(エンドトキシン)がついています。
LPSはマクロファージやミクログリアを刺激して、細胞の死(アポトーシスやパイロトーシス)をおこすことがわかっています。
細胞の死を決めているのがミトコンドリアの元気さなのです。ミトコンドリアはエネルギーをつくるときに活性酸素ができて酸化されやすく、酸化されたミトコンドリアは老化の原因になります。
ミトコンドリア由来EVが全身に散らばる
血液中にはミトコンドリアが放出するEV(mitoEV)が含まれることがわかってきました。
ある研究では、虚弱(フレイル)の人と虚弱ではない人(45~55才)の血液中のmitoEVと炎症物質を調べました。虚弱な人ほどmitoEVの量が多く、炎症物質も多いことがわかりました。炎症物質がmitoEVの積荷として全身に運ばれて、虚弱の一因となる可能性が示されました(Byappanahalli et al, 2023 )
なぜミトコンドリアはEVを放出するのでしょうか。ミトコンドリアは外の細菌から進化したため、細菌と似たような性質を持っているためと考えられます。それは大量のEVを出すということです(Popov, 2022 )。
ミトコンドリアは活性酸素が発生する現場ですので、ミトコンドリア膜はその攻撃にさらされます。ミトコンドリアの酸化された膜はミトコンドリア小胞(MDV)として放出されて、細胞内のゴミ処理工場であるリソソームに向かいます。
細胞内のゴミ処理工場で処理しきれないMDVなどの小胞は、エンドソームという袋に集められて、細胞外に一気に放出されます。
ミトコンドリアの成分 (タンパク質、ミトコンドリアDNA、およびカルジオリピン) が細胞の外に分泌されることが、多くの研究によって示されています(Amari et al., 2021 )。細胞外に放出されたMDVは、ミトコンドリアEV(motoEV)になります。
mitoEVには2種類あります。一つは炎症を促進するもの(炎症性)、もう一つは炎症を抑制するもの(抗炎症性)です。炎症性のmitoEVは炎症をおこしている細胞、例えばLPSで刺激された炎症性マクロファージから出ています。抗炎症性のmitoEV は元気な細胞から出ています。
EVはBBBを超える
BBBとは血液脳関門のことです。脳は化学物質などを通さないように、特別に厳重な関所を用意しています。それが血液脳関門(BBB)です。
EVはそのBBBを通過することができます。体のどこかで起こった炎症は、炎症性のmitoEVによってBBBを越えて、脳内に持ち込まれます。
また腸内細菌がつくるEVもBBBを越えて脳内に侵入できると報告されています。
炎症性のEVがBBBを越えて脳内に侵入し、脳内炎症をおこすことが多くの論文で報告されています。
ミトコンドリアは細胞の死をコントロールし、炎症をおこす発信源と考えられます。ミトコンドリアを出発したmitoEVは、全身に元気を届けますが、炎症も届けるのです。
次回予定
13_Lilac01-EVは「痛み」を抑える
Lilac01-EVは、マクロファージ(ミクログリア)の自爆死から始まる炎症を抑えます。これがなんと「痛み」を抑えてくれるのです。