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感覚のチャンネルが合う時。

残業が終わらない午前2時、なかなか開かない踏切の前できれいな石を拾った話。

診断結果を元に。

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終業1時間前に作業の確認をしなくても判っていたこと。
就業開始間もなくして、すっと頭の中が冷えた気がした。メントールだか、キシリトールだか、なんかそういうやたら清涼感を煽るものを口に含んだ時のような、そんな感触。

変化に目敏い同僚が隣席から体を傾けると、内容を表示したままの画面を見て、何も言わずに自席の引き出しからとっておきの菓子を出す。それをこちらに、そっ…と置くものだから思わず手の平で顔面を覆った。

「終電危ういかなとは思ったけど、それ以上だったな」

気分転換に線路沿いにある近くのコンビニへ出て、兵糧を見繕う。
ラスボスの作業以外で、他にお願いできるものや間に合いそうなものはとにかく自分の手から切っていった。それでも、細かい作業や説明に必要な資材を忘れないよう保存に追われて、時々、誰かの仕事上がりの挨拶に返して。
最後に上長が「体だけは壊すなよ…」と忠告がてらに来たのを力なく笑い返した気がする。

いっそ、上長と一緒に終業すっかと思いもしたが、自分が嫌なことほど記憶が吹っ飛びやすい質なのを解っているために諦めた。

目処が見えない絶望からは脱したものの、始発を待つ絶望もなかなか精神にくる。
仮眠を取るにしても、そこまで持つのか判らない疲れにふーっと息を吐いた。
上手く消せない疲れを紛らわすために煙草はできたんだろうか。愛煙家でもないのに思考が過った。

眠気の中にある頭にはよりけたたましく感じる音に我に返った。思わず走るが、急に走ったところで寝ぼけている体が間に合うはずもなく。
目の前で虎模様のバーは降りた。

「ああああああ」

苛立たしさと悔し混じりに声を出してしゃがんだ。
周りに人がいたら不審者扱いされていそうな気がする。とはいえ、ここの踏切が時によってはなかなか上がらないことで社内では有名で。
バーが上がるのが早かった、バーが降りる前に渡れたとかはプチ自慢になることが時々ある。

眠気のせいか、うっかり泣きそうになっているものの、明けない夜がないように上がらないバーもない。
なんとなく、スマホに電源を入れたら「01:59」の表示。警告音を聞き流しながら、懐かしさに駆られる。
その時、視界の隅で何かが光った。

踏切のすぐそば、謝って線路に入ることがないように気をつけて近づく。
電車が走る轟音がやけに近かった。

光が当たるとサンキャッチャーのように乱反射して、石を乗せた手にも光が乗る。
踏切周りにある色つきの電灯のせいで、石の色は判らない。
ただ、乱反射している光は太陽を見た時独特の色みたいだった。でも、目は痛くない。
石をころころ転がして、同じように光が動くのをしばらく観察した。手を止めて、石をまた摘まむと土埃を払うつもりで息を2、3度吹き掛ける。

また石をちょっと見つめた後、周りを見渡してズボンのポケットにしまった。
その頃にはバーは上がっていて、踏切を渡る。足がスキップの動きを取りそうな気がして、立ち止まって深呼吸を1度した。

石が入っている位置を触ってからまた会社へ歩き出す。

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