おばあちゃんにもらった絵本を息子が破った。
大好きだったおばあちゃんがくれて、おばあちゃんの家で大切に何度も何度も読んでもらった思い出の絵本。
息子も好きで、クリスマスのお話なのに、季節を問わず何回も読んできた絵本。
たしかにすこし、表紙が破れていたけれど、ほんのすこしで。
30年以上経ってもまだまだ綺麗だったのに。
ちょっと破れてるからいいや、
どうせいつか捨てるからいいや、
そんな軽い気持ちで、息子がなんの気なしに突然破った。
横で布団カバーをつけていた私は、息子がなにかぶつぶつ言っていたのに聞きもせず生返事で
ビリっという音で、息子の手元をみて、初めてことの重大さに気がついた。
あまりのことに頭が真っ白になり、とりあえず布団カバーをつけおえて、
窓を開けて、ようやく現実に向き合おうと、改めて絵本を見たら、
やっぱり表紙はキレイに2つに破かれていた。
悲しすぎて苦しすぎて混乱しすぎて
怒ることもしかることもできず、なんで破ったの、とだけ、非難めいた口調で言った。
その言い方で、やってはいけないことをやってしまったと気づいた息子は凍りついて半泣きになった。
それはそうだろう。別に悪いことをしたつもりはなかったのだから。
ちょっと破れてたから、ついでに全部破っただけ。それだけだ。
大人げない、彼に悪気はない、そんなことは頭でわかっていながら、どうしても許せなくて、その気持ちを押し付けたくて
今日は一緒に寝ない。
そう言って寝室を出た。
息子は泣きながら追いかけてきた。本気の泣き方だ。
何度もごめんね、ごめんね、ごめんねと言いながら。
そんな彼を見ながら、母としてはここでぐっとこらえなければと思いながら、
どうしても許せなくて、大人になれなくて、
今日は一緒に寝ない、を繰り返した。
それでもすがりついてくる息子と、かろうじて目線を合わせながら、
やっと、あれはおばあちゃんとの思い出の絵本だったこと、
買えないものだってあるんだよ、
という一言を絞り出した。
涙が出てきた。悲しくて悔しくて情けなくて。
物を与えすぎていたんだろうか。自分だってぞんざいに物を扱うことだってある。今日はずっと雨で一日家にいたからリズムも崩れてうっぷんもたまっているだろう。ニコニコしているお母さんが突然怒りだすのは子どもの精神衛生上よくないと育児本に書いてあった。悪気はなかったんだからそんなにつらくあたらなくてもいいんじゃないか。自分の気持ちを制御できないなんて大人げない。
でもやっぱり、どうしても今晩は一緒には寝られなかった。
旦那に息子をみてもらって、テラスにつながる掃き出し窓を開けて1人で座った。
台風明けの湿った夜風に少しだけおばあちゃんの気配を感じた。
翌朝、母からラインがあった。
今日、おじいちゃんの命日だけどお墓参り行かない?
大好きだったおばあちゃんが長年連れ添ったおじいちゃんの命日だった。
不思議と、なんだか納得した。
息子をお墓に連れていくのは赤ちゃんの時以来だ。
家に帰ってから、2人で破れた絵本の表紙をテープでつないだ。
折り紙を貼ろうよ!
と息子が言うので、良いアイデアだね、と言って2人で手でちぎってペタペタ貼った。
綺麗だね。
と、どちらからともなく言った。
ごめんね。
とも。
今度は2人で窓辺に座った。
ふと、おばあちゃんとおじいちゃんがそこにいて笑いかけてくれている気がした。
ありがとう。
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