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行方不明から再発見!ナショナル・ギャラリーの『レディ・ジェーン・グレイの処刑』ー【美術品と来歴を探求するシリーズ】

海外の美術館のサイトを見ると、作品紹介に”来歴”(英語ではProvenance)が書かれています。

来歴とは作品が誕生してから現在に至るまでの旅の軌跡。注文主、オークション、コレクターやギャラリーなど、どんな人々の手によって大切にされ、時には国境を越え、盗難や破壊などの影響を受け、文化や時代を超えて受け継がれてきたのかを教えてくれます。

美術品がただの物体ではなく、生きた歴史を持つ宝物であることを思い出させてくれて私を魅了します。

作品そのものと同じくらい来歴に惹かれるのは、歴史が好きだった子供時代とも大きく関係しているのかも。

『美術品と来歴を探求するシリーズ』では、気になって調べずにはいられなくなった作品が、どんな人の手を渡ってきたのか、どのように美術館に収められたのかを探るシリーズです。

noteの有料記事は、一度購入していただいた記事は更新されても読むことができるという私のようなクリエイターにはとってもありがたい。

ある時ふっと調べていた情報に出会うことはこれまでにも何度もあって、公開したら終わりではなく、出会いがあればこの記事も随時更新していきたいと思っています。

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今回の絵は、ロンドン、ナショナル・ギャラリーの人気作『レディ・ジェーン・グレイの処刑』です。この絵の数奇な運命はよく知られている話ですが、色々調べていると、一度行方不明となった絵が1973年に見つかったとき、一緒に巻かれていた絵があるという情報に行き当たりました。

なんとその絵は、先日「テート美術館展 光」で見た作品でした。

この面白い偶然が今回の記事を書くきっかけです。


本日の絵

「レディ・ジェーン・グレイの処刑」from wikimedia

本日の絵の舞台はロンドン・ナショナル・ギャラリー。

『レディ・ジェーン・グレイの処刑』The Execution of Lady Jane Grey
ポール・ドラロシュ Paul Delaroche
1833年 油絵・キャンバス
2m46cm × 2m97cm

この記事の登場人物

画家:ポール・ドラロッシュ (1797 - 1856年)
絵の購入者:ロシア人貴族で在フランス大使の息子アナトーリ・デミドフ伯爵(1813-1870年)
次の所有者:英国貴族の初代チェイルズモア男爵(1816-1891年)
美術館に遺贈した人:第二代チェイルズモア男爵(1843-1902年)

テート美術館キュレーターのクリストファー・ジョンストン

ナショナル・ギャラリーで最も人気のある絵の一つ

ロンドン、ナショナルギャラリーの中で最も人気のある絵の一つが、このポール・ドラロッシュの描いた「レディ・ジェーン・グレイの処刑 」

タイトルの通り悲劇と恐怖たっぷりの場面が描かれています。人気の理由は、描かれた世界に一気に引き込まれるようなドラロッシュの演出力の凄さだと思っています。

と言いつつも、私は絵を怖くて直視できない…。ナショナル・ギャラリーでも遠目から見てきたし、写真も撮ってくるのを忘れてしまった。プロ意識のなさをどうかお許しください。

日本でも、中野京子先生の怖い絵展に来日して大人気。

そしてあの夏目漱石も1905年発表の『倫敦塔』という短編小説で取り上げているのです。ロンドン塔を見学中、ジェーンの名前から処刑シーンを連想してしまったという描写。これがもうこの絵を絶対見たよね?とすぐわかるくらいです笑


小説の最後にご本人も「ジェーン所刑の場については有名なるドラロッシの絵画がすくなからず余の想像を助けている事を一言いちげんしていささか感謝の意を表する」と書いています。

まぁそれくらい、この絵は見た人にジェーン・グレイの悲劇と連動させてしまうくらいの力強さを持っているとも言えるのかも。

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