作者にも犯人が分からない殺人事件
薬の過剰摂取で亡くなった被害者。
その原因は致死量を超える6錠の睡眠薬。
ただしそれを飲ませたのは別々の6人で、投与のタイミングが重なったのは全くの偶然だった。
被害者が亡くなったのは誰のせい?そして、罰を受けるべきなのはいったい誰?
Aの証言
「確かに俺の行動が原因で先生が亡くなったのは分かってますが、それを言うならほかの五人もそうなんじゃないですか?俺だって先生を殺したかったわけじゃないですよ。俺はただ、あのむかつく先生が明日の大事な会議に寝坊してくるのが見たかっただけで…まさか他の奴らまで同時に睡眠薬を盛ろうとしてたなんて知りませんでしたし、それが積もり積もって致死量を超えたなんて不幸な偶然としか言いようがないと思いますよ?」
---
Bの証言
「Aの奴がなんと証言したかは知りませんが、私はただ先生の身を気遣っただけなんです。信じてください、本当に殺すつもりはなかったんだ。先生はいつも仕事にお疲れで、昨晩みたいなただ騒がしいだけの飲み会には渋々参加しているということを私は知っていました。だから私は先生の飲み物にこっそりと睡眠薬を溶かして、先生がホテルに戻れる口実を作ってあげようとしただけなんです」
---
Cの証言
「いやあ、僕もうっかりしていました。まさかあの時僕が取り落とした睡眠薬が、先生のグラスに入っていたなんて。いや、だから本当に偶然なんですってば。あの後僕も飲み屋の床を探し回りましたが結局錠剤は見つからなくて、まあ誰かが蹴っ飛ばしちゃったんだろうな、ぐらいにしか考えてませんでしたけど。だからって僕だけが殺人犯扱いされるのはどうなんですかねえ」
---
Dの証言
「私は先生の秘書として、先生のお身体を気遣っていただけです。先生はお薬がお嫌いでしたので、預かっていたお薬を無理やりにでも飲んでいただくため、先生のお水に密かに混ぜておいたのです。ただ、まさか先生が薬の入れ場所を間違えていたなんて…ええ、確かに先生は寝つきの悪いときに睡眠薬を飲まれることもあったようですから、きっとそれと間違えたんでしょうね」
---
Eの証言
「はは、確かに俺は予定通りあいつが死んでせいせいしてるさ。だがな、俺があいつに飲ませるつもりだったのはもっと苦しむ猛毒のはずだったんだ。なのにまさか俺の飲んでる睡眠薬と取り違えちまうとはな。間違えて俺が毒の方を飲まなくてよかったぜ。ついでに、あいつを殺した罪にも問われないんだから最高だよ。は?俺だけが殺したんじゃないんだから俺が無罪なのは当然だろ?」
---
Fの証言
「不倫相手のアタシが先生に不適切な感情を持っていたのは事実よ。でも、まさかそれが原因で死んじゃうなんて…アタシはただ、先生を眠らせてホテルに連れ込もうって思ってただけなの。そうすれば先生と既成事実を作れるし、先生もアタシとの結婚に踏み切ってくれるんじゃないかと思ってたから。それなのに…こんなことなら、無理やりにでも奥さんと別れさせるべきだったんだわ」
---
探偵の証言
「ある意味これは不幸な事故とも言えなくはないのですが、いかんせんこれはミステリー小説なので犯人を誰かに決めなきゃいけないんですよ。はあ…これがサスペンス小説だったらただ事実を明らかにするだけでよかったんですけど。まあ探偵っていう役柄の人間が登場した時点で犯人捜しをするのはお約束ですからね。でもよく考えてみてくださいよ、本当は探偵って人探しとか浮気調査とかそういうのが専門ですからね?殺人事件現場にやってきて推理を披露するのはフィクションの中だけですよ?まったく。え?6人の中なら悪意のあるやつが犯人でいいんじゃないかって?確かにあの6人を法的に裁く上ではそういう感じになるのかもしれませんが、ここはあくまでミステリー世界なので法律とかそういう話じゃないんです。わかりますかね?読者はもっとなんというか、最後に一番の黒幕をばーんと明らかにするみたいな、爽快感のある解決じゃないと喜んでくれないんです。まったく、私は誰を犯人にすればいいんですかね?え、まだ登場人物がいる?」
---
Gの証言
「僕は先生に睡眠薬を飲ませてないですよ。でも、遅効性の毒薬は確かに飲ませました。予定ではそれが効き始めるのは昨日の真夜中で、死亡推定時刻の数時間後には毒が原因で亡くなるはずだったんです。確かに睡眠薬を盛られてなければ僕が犯人になってましたが、結局先生は睡眠薬が原因で亡くなったんですよね?じゃああの6人のうちの誰かが犯人じゃないですか」
---
Hの証言
「俺が刺し殺したと思ってたのはただの死体だったなんてな。どおりで手ごたえがなかったわけだ、つまんね。え、被害者が誰かなんて知らないさ。ただ何となくむかつく顔だったから殺そうと思ってホテルまで尾行してっただけで。でもまあ、俺があいつを刺した時にはもう睡眠薬で死んでたんだろ?じゃあ俺は人殺しじゃねえよ」
---
Iの証言
「私は先生に造られた世界最先端のアンドロイドなのです。先生の周りで睡眠薬の流通経路に関して異常値を検出しており、およそ23%の確率でこのような結果となることは予測しておりましたが、その危険性を報告するようにとは命令されていませんでした。私は、先生のプログラム通りに行動しただけなのです。決して、先生のメンテナンスが適当なことに不満を持っていたわけではありません」
---
Jの証言
「確かに私は昨晩あの部屋を爆破しました。もちろん人一人を殺害するつもりでね。ただ、その部屋に泊まっていた人物が睡眠薬のせいですでに死んでいたとはね…まったく、あの部屋を私の最高傑作にできると思っていたのに、爆破させ損ですよ。でも、私が問われるのは死体損壊罪だけですよね?だって私が殺したわけじゃないんですから」
---
Kの証言
「ええ、あの人は私が殺したといっても過言ではないです。でも、私に黙って浮気していたあの人も悪いんです。浮気は私たちの教義では最大の罪にあたりますから。だから私はあの人の魂が汚れないように、現世から解放する儀式を一晩かけて行っていたんです。そうでなければ、致死量の睡眠薬をこんな奇跡みたいな確率で飲んでしまうわけがないでしょう?ああ、今頃あの人はきっと素晴らしい来世を満喫していることでしょうね」
---
---
---
Zの証言
「あの方を殺したのは私です。まさか、私たちの世界に転生してきて最強の勇者となったあのお方が、魔王の思想に染まって手下になってしまうとは…あのお方の暴走を止めるためだったとはいえ、最終的にとどめを刺したのは大魔導士たる私の浄化魔法です。どうか、私に正義の裁きを下してくださいませ」