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File.13 中村ヒカルさん(立体)インタビュー

今回取材させていただいた中村ヒカルさんは、長野県伊那文化会館で2022年7月29日から8月7日に開催された、若手作家公募個展「トライアル・ギャラリー2022」に出展されました。
長野県伊那文化会館では、2014年より長野県にゆかりのある若手作家を応援するため、個展の開催を希望する作家を公募で選び美術展示ホールを無料で提供する、若手作家公募個展「トライアル・ギャラリー」を行っています。今回は新たに信州ミュージアム・ネットワーク事業に参加する県内の学芸員等も参画し、審査・展示アドバイス体制を拡充して展覧会を行いました。また、私たち取材部の中の活動支援策ワーキンググループ※のメンバーも審査に参加させていただきました。総勢40名による第一次審査、最終審査を経て選ばれた3作家の個性あふれる作品は、伊那文化会館スタッフの協力や県内の学芸員さんたちによる展示アドバイスによってさらに見応えを増し、充実した展示空間となっていました。

※(一財)長野県文化振興事業団 活動支援策ワーキンググループ
同事業団が管理運営する各施設のスタッフが共同して県内のアーティスト等、文化芸術分野の関係者にむけた支援策を企画実施するチーム。2020年に発足。

京都を拠点に、大きな陶芸作品から日常小物、短歌まで手掛ける中村さん。中高生の頃は演劇部にも所属していたそうです。そんな様々な顔を持つ中村さんに、「トライアル・ギャラリー2022」を開催中の伊那文化会館でお話を伺いました。

――最初に、現在の活動内容について教えてください。

現在は京都で制作をしながら仕事をしています。陶芸の立体作品や、レリーフ作品を中心とし、銅版画の制作もしています。陶芸の立体作品は、形を作った後に、表面を細かい装飾や釉薬で覆い、窯で焼くという流れで制作しています。

――美術の道に進もうと思ったきっかけを教えてください。

高校の美術の授業が楽しくて、美術部にも入って、そこで絵を描いたりしたことがきっかけです。

――様々な美術のジャンルの中で、陶芸を選んだ理由を教えてください。

美大入学当初は、アニメーションなどを学ぶ学科にいたのですが、大学二年に上がるときに総合造形コースという立体を学ぶコースに転学科をしました。大学一年生のときに陶芸をやらせてもらう機会があって、アニメーションなどを学ぶ学科はパソコンを使った作業が多かったので、手を使って土の感触を楽しみながら作るのが楽しいなと思ったことがきっかけです。

――空想」が作品のテーマということですが、詳しく教えてください。

(テーマとしての)「空想」というのは、自分の恐怖や不安といったネガティブな感情を、空想することを通してポジティブなイメージに変える方法として制作をしていて、「普段日常で感じる怖いものやそのネガティブな感情を、楽しいものや安心するものに置き換えて考えることで、ちょっとでも生きやすくしたい」、「あんまり怖いものも怖くないよ」みたいなそういう感じにしたいと思って、置き換えていろいろ作ったりするのが「空想」っていうことですね。

――黒い作品とカラフルな作品にはどんな違いがあるのでしょうか。

黒い作品は、主に空想ができていく前のネガティブな気持ちや混沌とした風景を表現しています。
カラフルな作品は、ネガティブな気持ちや混沌とした風景が空想を通してポジティブな気持ちや具体的な生き物になった感じを表現しています。

――カラフルな作品だと《一般男性Qさん》はどのようなイメージでつくられたのですか?

私から見た一般男性はとても怖いのですが、そんな一般男性がこんなかわいい色の四つ足の生き物だったらいいなぁと思い、制作しました。

《一般男性Qさん》

――《ドッヂボールのボールちゃん》はどのようなイメージですか?

子どもの頃のドッヂボールのボールが怖かった記憶をもとに、ボールがもしこんな生き物だったら怖くないかもと思って作りました。

――怖くなくなりましたか?

やはり怖かったです。

《ドッヂボールのボールちゃん》

――《ナメクジ》という作品は一般的なナメクジとは印象が違いますが…?

私の心を通して見たナメクジみたいな感じなので、写実的ではないですね。また、この作品は設定としては本当はナメクジではなくて、殻がなくなったカタツムリです。殻を人間に差し出し、死にそうになっている様子を表現しています。殻を失ったカタツムリは死んでしまいますが、殻を手に入れた人間は生きながらえることができているはずです。私は疲れると自分の殻に閉じこもります。一人ぼっちだなぁとそのときは感じているのですが、殻を持っているということは一人ぼっちではないはずです。殻を差し出して死ぬカタツムリみたいな奴が、私の過去のどこかにいたはずだということを制作しながら考えました。

《ナメクジ》

――《脱皮》という作品は人間に近い形をしていますが、中村さんご自身を表しているのですか?

そうですね。自分…ですかね。作品全部が自分の分身みたいな感じなのですが、割とこの作品は具体的な人間の足が生えていて、人間の形に近いです。この作品は、別の人になりたかったという自分の気持ちを作りました。全く違う自分になることはできないけれど、脱ぐことはできるということを信じて、脱皮しようとしている様子を作品にしました。

《脱皮》

――表面の装飾の作り方を教えてください。

土で形を作り、その上に細かくちぎった土を貼り付けて凹凸を作り、針やナイフでテクスチャー(装飾)をつけています。
作品の表面を装飾で覆い隠すことで自分の心が安心するので、そうしています。

――形のイメージは最初から決まっているのでしょうか。それとも、作りながら決まっていくのでしょうか。

最初にスケッチで形を考えて、模型を作り、それを参考にしながら実際に作っていくのですが、だんだん違う形になっていくことが多いです。

――作品を作るうえで一番大切にしていることやこだわりはありますか?

陶芸の作品は、窯で焼いたときに縮んだり形がゆがんだりするので、焼くときのことを考えながら形を作っています。

――結構長く焼かれるんですよね?

12時間くらいかけて1230度まで温度を上げていきます。

――普段京都で活動されていますが、今回長野県でトライアル・ギャラリーに出展しようと思ったきっかけを教えてください。

長野で個展をしたことがなかったので、お披露目的な感じで普段している活動を展示できたらいいなと。

――ご実家である「シェアカフェ・スペース ヒナタヤ」でも個展を同時開催ということですが、こちらにはどんな作品があるのですか?

ブローチや日常で使うコップなどの小物の展示と、自作の短歌の展示をしています。

――地元で展覧会をやってみての感想はありますか?

恩師や知り合いが見に来てくれて、皆さん興味深く見てくださって嬉しかったです。

――中学生のときは演劇部だったとのことで、今回、トライアル・ギャラリーを開催した伊那文化会館の照明スタッフの森脇が、中村さんが演劇をやっていたときに照明を当てていたと伺いました。

中高と演劇部で、高校生のときは美術部と兼部していました。森脇さんは、演劇部のコンクールで伊那文を使ったときや、駒ケ根の市民のミュージカルに参加したとき、ご縁があったということが今回わかりました。

――素敵なつながりですね。
――nextに登録し、今後期待することはありますか。

助成金の情報など活用したいです。

――今後の目標を教えてください。

日々感じたことを、日記を書くような感じで制作していきたいと思います。
陶芸の技法とか、色々試したいことがあるので、試しながらやっていきたいです。

<略歴>
長野県伊那市生まれ
京都芸術大学大学院修士課程修了
現在京都を拠点に制作を行う

<主な作品発表歴>
2016年 個展「あなたのおともだちになりたい」(マロニエ/京都)
2018年 個展「HAPPY BIRTHDAY」(同時代ギャラリー/京都)
2019年 アーティストフェア京都(文化博物館/京都)
2019年 スターバックス京都バル店 作品展示
2021年 個展「生活と空想」(陶磁器会館/京都)

<主な受賞歴>
2017年 京都芸術大学卒業展 奨励賞
2017年 わん・碗・ONE展2017 優秀賞
2019年 京都芸術大学大学院修了展 優秀賞

(取材:「信州art walk repo」取材部 西村歩・中村睦子・竹村里香・伊藤羊子)


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