ディベートとは何か~ディベートの教育効果~
ディベートとは何かという事について、AOA管理人の一人である私こと、九州大学大学院学術研究員で全日本ディベート連盟専務理事、日本ディベート協会理事の久保が執筆しました。なお、これは個人的見解であり、所属組織の公式見解ではありません。
◆あなたのディベートは、トレーニングになっていますか?
ディベートは日本語では討論と翻訳されます。何かのテーマにそって肯定否定に分かれて議論すれば何でもディベートと記述される事が多いですが、それは間違いです。
もちろん辞書の意味におけるディベートはそれでも良いのですが、教育やトレーニングとしてのディベートはアメリカやイギリスなどを発祥として、長い年月をかけて現在もなおトレーニングメソッドが学術的に考察、開発され続けています。
◆ディベートはトレーニングである
私たちが推進しているのは、トレーニングとしてのディベートになります。例えば、現実社会で似ているものは下記となります。
==現実世界における「ディベート」の代表例==
政策論争(英米の議会での論戦,米国の大統領選前のテレビ討論 Presidential Debateなど)
裁判・司法論争
科学論争
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「交渉」negotiationや「取引」bargain,「口げんか」 quarrelは,議論や話し合いの一種ではあっても,「ディベート」ではありません。
ディベートは広く議論活動に関係する色んなもののトレーニングだといえます。
◆2種類のディベート~即興と調査(リサーチ)で教育効果は異なる
ディベートには大きく2種類あります。それぞれ共通する部分もありますが、異なる部分もあります。それぞれの教育効果も異なります。後日、詳細な記事を紹介する予定なので、ここでは簡単な紹介だけ行います。
調査(リサーチ)型ディベート
証拠資料を活用し、論題を事前に告知して、同一論題にて複数回試合を実施するタイプのディベートです。リサーチ力、資料活用能力、分析力、PDCAサイクル構築力の向上などに優れています。審査においても資料に基づいて判断を行うため、データの不備や限界などを学ぶ事に適しています。
即興型ディベート
証拠資料を活用せず、毎試合毎に論題が変わります。論題発表から30分後に試合を行うディベートです。短時間での準備になるため、ロジックの基本を各論題毎にカスタマイズする点、資料を活用しないため感情面も考慮したスピーチが求められます。応用力、協調性、感情面も含めた説得を必要とするアカンタビリティ向上などを学ぶ事に適しています。
◆なぜ、議論の方法を学ぶのが大事なのか~議論教育の必要性~
なぜ、私たちは議論をトレーニングしないといけないのでしょうか。弁護士などの仕事につく人は分かるけど、一般人はしなくてもいいのではと思う人もいるかもしれません。
ここで議論とは何かについて辞書の意味を見てみましょう。
「互いに自分の説を述べあい、論じ合うこと。意見を戦わせること」(広辞苑)
次に、何のために議論をするのかについて考えてみましょう。
結論から言えば、議論は最初から何が正しいのかが分からない時に実力を発揮します。何が答えなのかが分からないこそ、様々な議論をぶつけ合うことで、よりすぐれた答えを導き出すことが必要だからです。答えが分かっていて、やるべきが明確ならば議論をする必要がありません。
例えば、現在、正しいとされている、科学理論も学界などでの、様々な議論の結果、現在正しいとされていることも議論が行われながら決まってきました。
例えば
・政治や裁判の場における議論
・科学論争
などが代表例です。
◆ディベートは他者理解、共同作業の技術である
つまり、議論とは違った考えをぶつけ合いお互いを反証し合うことで、正解が分からない問題について正しい答えを見つけるための営みで、社会を成り立たせるための基本要素になります。グローバル化の拡大、個人の価値観が多様化、何より明確な答えが分からなくなってきた現代社会において議論の価値はますます高まっていると思います。
そのように考えると議論とは対立するように見えますが、よりよいゴールに向けて、異なる価値観の人たちが互いにレスペクトを持って行う共同作業です。
ディベート教育に携わる方は、技術よりも先にまず「議論する相手に対してレスペクトを持つ」という事を何よりも徹底していく必要があると私は考えています。
このように考えると、ディベートに対して行われる批判の多くが、少し違うのではないかと思ってもらえると思います。
※追伸
ディベート甲子園が近づいてきましたので、こちらの連載とは別に選手向けのトレーニング方法を公開しました。たくさんリサーチや練習しているのに、なぜか勝てない、能力が伸び悩むという人がいます。それは間違ったプレパをしているのが理由かもしれません。ぜひ、ご覧ください。
【ディベート甲子園等の大会に出場する選手、指導者向け】調査型ディベートの準備方法~ディベートPDCAの勧めhttps://note.com/art_of_argument/n/n871c3212cad0