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ディズニーと西洋美術 古代ギリシア・ローマ編1

お久しぶりです、しばらくぶりにブログを更新しました!
書きたいことはいくらでもあるのですが、最近BGSを調べていなかったのと資料や文献がなかなか読み進んでおらず、前回の更新からかなり時間が空いてしまいました。読んでくれている人がいれば気長に待ってもらえるとうれしいです!

今回はディズニーシーの美術について、ギリシア・ローマ神話をモティーフにしたものを取り上げていきます。


ソアリン

松の木・松毬

ファンタスティック・フライト・ミュージアム(ソアリン)の中庭には松の木が生えています。松は松竹梅の一角を担うことなどからも、日本の代表的な植物だと思うかもしれませんが、原産地は地中海沿岸です。そして松毬(松ぼっくり)は、繁栄の象徴であると考えられていました。ソアリンのキューラインや、 アメリカンウォーターフロントの ウォーターフロントパーク周辺などでも確認することができます。

また松毬の奥のアメリカンウォーターフロント駅の壁には、Elysian Fields と書かれたポスターがあります。この単語は古典ギリシア語のエーリュシオンという楽園に由来し、ホメーロスの「オデュッセイアー」4巻563行や、ウェルギリウスの「アエネーイス」6巻542行などに登場します。

そして現在は葡萄酒の神として有名なディオニューソス(ディオニュソス)ですが、豊穣の神でもあり彼や彼の信徒はテュルソスと呼ばれる先端に松毬の付いた杖を持った姿で描かれることもありました。このような描かれた神や人物が誰であるかを特定するために、一緒に描かれるものをアトリビュートや持物と呼びこのようなことを研究する学問を図像学といいます。

イーリス

このレリーフは、虹と共に彫られ、また翼、ケーリュケイオンの杖、水差しを持っていることから虹の女神イーリス(イリス)であると考えられます。

イーリスは神々の伝令であり、時代によっても変わってきますが、とりわけゼウスやヘーラー、もしくはヘーラーに使える女神です。その象徴としてケーリュケイオンと呼ばれる杖を持っていますが、これはヘルメースのアトリビュートでもあります。水差しは、地下もしくは世界の果てにある冥府とこの世をを隔てる川、ステュクスの水を汲むのに使われます。神々の間で争いが起こったり、誰かが嘘をついたときにゼウスがイーリスをステュクスに遣わせ、その水を誓いのために持ち帰らせました。(ヘーシオドスの「神統記」782-785行)

またイーリスは虹を表す普通名詞であり、それが神格化されて神になったものです。このような神格化がギリシア語ではよくみられます。

イーカロスとダイダロス

このレリーフは、オウィディウスの「変身物語」第8巻にある物語をモティーフにしたものであると考えられます。アテナイの工人ダイダロスとその息子イーカロス(イカロス)は、紆余曲折あってクレタ島に閉じ込められました。そこでダイダロスは羽と紐と蝋で翼を作り脱出を試みました。ところが、イーカロスは父親の「(前略) あまりに低く飛びすぎると、翼が海水で重くなる。 高すぎると、太陽の火で焼かれるのだ。その両方の中間を飛ばねばならぬ。(後略)」(中村訳, 1981)という忠告を離れて、太陽に迫って蝋の部分が溶けて落下し死んでしまいます。

ペーガソス

この有翼の馬はペーガソス(ペガサス)であると考えられるでしょう。ヘシオドスの「神統記」278-282行や、アポロドーロスの「ビブリオテーケー(ギリシア神話)」2巻4. 2-3によれば、ポセイドーンの子を身籠ったメデューサが英雄ペルセウスによって首を刎ねられた際に、クリューサーオールと共に生まれました。メデューサはゴルゴーン3姉妹のひとりで、見た者を石にする力を持ち、頭髪は蛇で、猪のように大きい歯、青銅の手、黄金の翼を持っています。

グリュプス

このレリーフはグリュプス(グリフィン)です。鷲の頭、翼、爪に獅子の体と後脚という姿で描かれる伝説の生物で、発祥は古代オリエントであるとも云われています。またギリシア人はスキュティアの金鉱見張り役であると信じていました。

グリュプスに関しては、 アメリカンウォーターフロントとメディテレーニアンハーバーの関わりについての記事で詳しく書こうと思っているので今回は軽い説明に留めておきます。

アポッローン

ソアリンの最後のレリーフはアポッローン(アポロン)です。彼は非常に多くの事柄を司っていますが、ここでは太陽神と芸術の神としての姿が強調されています。まず太陽神としての側面は4頭の馬が引く凱旋車に乗って天空を駆けていることが表し、芸術の神としての側面は手に持っている竪琴が表しています。

ディズニー・プレミアアクセスをまだ使ったことがないので現在の状況は判りませんが、グリュプスとアポッローンは、ファストパスのキューラインで見ることができました。

マーメイドラグーンの入り口

ここにはアリエルの父であるトリトンの像があり、彼は左手にトライデント/三叉の戈を持ち、イルカが引く戦車のようなものに乗っています。トライデントとイルカはギリシア神話における彼の父、ポセイドーン/ネプトゥーヌスのアトリビュートであり。そこから発想を得たものであると考えられます。

ビッグバンドビート

ビッグバンドビートの会場である、「ブロードウェイ・ミュージックシアター」にもギリシア・ローマ由来の像が確認できます。シアターの上の方にありなかなか判りにくいのですが、ここにもマーメイドラグーンの像と似たポセイドーン/ネプトゥーヌスの像があります。

なぜここにポセイドーンの像が置かれたのかは判りませんが、ディズニーシーのテーマである海を司る神として彼が選ばれたのでしょうか。ちなみに彼は海だけでなく大地を司る神でもあります。

最後に

最後まで読んでいただきありがとうございます!

古典古代がモティーフの美術だけでもかなりの量になるので、今回はこの辺りにして、続きは次回以降に回そうと思います。次回以降は美術史の続きとして、さらにギリシア・ローマ美術もしくはキリスト教美術について書くか、天動説についての記事になるかと思います。
コメントや感想などいただけると嬉しいです!

第二弾も書きました!(2024年2月15日追記)

参考文献

アポロドーロス著, 高津春繁訳, 「ギリシア神話」, 岩波書店, 1953
ウェルギリウス著, 泉井久之助訳, 「アエネーイス(上)」, 岩波書店, 1976
オウィディウス著, 中村善也訳, 「変身物語(上)」, 岩波書店, 1981
ヘシオドス著, 廣川洋一訳, 「神統記」, 岩波書店, 1984
ホメーロス著, 呉茂一訳, 「オデュッセイアー(上)」, 1971
ホメーロス著, 呉茂一訳, 「イーリアス(上・下)」, 平凡社, 2003
呉茂一著, 「ギリシア神話(上・下)」, 新潮社, 1979
J. Hall著, 高階秀爾監修, 「西洋美術解読辞典」, 2004

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