『花火』

 私の涙は、花火みたいなものです。
 みんな弱いのにね、どうしてだろうね、どうしてそんなに涙が嫌いなのでしょうね。私の涙は弱いものじゃない。ぼろぼろ零れるものじゃない。感情が、どうしようもない程の、たくさんの感情が打ち上げられるもの。強く、強いもの。触れば痛いし、眩しいし、熱い。カラフルなそれを、ぶん投げる。消えろ、消えろ、消えてしまえ……、と空に願って。

 今日は花火があるのだそう。誘う人もいないし、誘ってくれる人もいない。誘って欲しいとも思えない。その時間は観たい番組が入るから、別に。自転車を走らせて、家へ帰る。夏の六時過ぎはまだ明るい。なんだか余計なお世話。息を切らして、走る。夕日であろうと、太陽に私は似合わない。自転車止めて、端に寄せて、鍵を開けて、靴を適当に脱ぎ捨てて。手洗いうがい、着替え、荷物の片づけ。当然のルーティーン。それさえ怠い。でもご飯は食べないと。肉も野菜も焼けば食べられる。でも、味、薄いな。でも、塩コショウ取りに行くのも怠いな。ドォオー…ンと音が鳴り、驚く。何の音? 普通に花火だ。もうそんな時間か。うるさいな。夏の夜は暑いのに、開けていた窓を閉める。テレビをつけると、スポーツ中継が長引いていて、番組の放送は延期になるのだそう。

あぁ、そう。
あー……

 こんなことなら、花火、観に行けば良かったかな。窓の外に花火が写る。反射して見える自分の顔が酷く醜くて、邪魔くさい。
 花火。花火はきれい。花火、花火。花火はきらい。花火はうるさくて嫌い。花火は眩しくて嫌い。みんなが同じように空を見上げて、楽しそうにしているのが嫌い。同じように楽しめない、自分が、とても嫌い。悲しい、寂しい、怖い、不安、不安、寂しくて悲しい。時々、ちょっと嬉しくて、たまに、結構楽しくて、また、辛い。
 私の、この目の中で、花火が燃える。空に。高く、遠く、大きく輝き、そうして、いつの間にか散って、消えて、落ちていた。

一雫。

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