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#004|自動車広告(日産サニー 1990)

自動車の広告から抽象的な表現が消え去って、燃費や環境性能、安全性、利便性がその数値とともに直截的に訴求されるようになって久しい。もはや様々な情緒的表現が実験されつくして、受け手の思考を促したり、感情に揺さぶりをかけたりする広告はすたれ、代わりに企業側のメッセージが0.2秒で受け手に伝わる、自動車はそんな広告ばかりとなった。
 
そんな今の状況からみると、1990年代の自動車広告は、著名なタレントと美しい映像、そして凝ったキャッチコピーという、20世紀半ばに確立した自動車広告のスタンダードがまだ脈々と息づいていたと思う。

本稿では、1990年代の自動車広告の口火を切って投入された、B13型日産サニーのクリエイティブ(1990年1月)を紹介したい。
この頃の日産は、Be-1・シーマ・シルビアの文字通りの空前のヒット(1987-1988)に加え、スカイライン・フェアレディZといったイメージリーダーモデルの発売(1989)、また、その他の新型車でも攻めの姿勢を十分に感じさせる商品と広告のおかげで、企業イメージは最高潮に達していた。
 
新型サニーの広告は次のように謳う。
 ・20世紀の残りは、日産がおもしろくする。
 ・サニーの夢は、ひとつじゃない。
 ・スモールの革命が、はじまった。
 
どのコピーも、2020年代の自動車広告に慣れた目からすると、抽象度が高すぎて意味がよく理解できず、それがかえって読む者に自由な空想を喚起せずにはおかない。加えて、国や地域が特定しづらい風景、陣内孝則の風体、真昼の中空に浮かぶ謎の惑星など、独特の世界観を強く感じさせ、「新しいSUNNY」がそれまでの常識的なクルマとは違うことを強く印象づけようとしている。正直、これでは受け手も混乱(困惑)すると思うが、おそらく日産はそれも織り込み済みだろう。日産は受け手に対して確信犯的に勝負を挑んでいると受け取れなくもない。
 
サニーという、高齢者を多く含む膨大な数のユーザーに向けて打つ広告としては、おそらく正解ではなかっただろう。また、肝心の「新しいSUNNY」は、この広告ほどにはチャレンジングな商品ではなかった。

事実、B13型サニーの広告はその後、この奇妙な世界観を常識的なものに修正するなど、4年間のモデルライフの間に保守化の一途をたどった。でも、僕はこの市場導入時のオリジナル広告に当時の日産の勢いを感じ、失敗作と斬って捨てることができないでいる。実際、他の車種を含めた日産のこの種のトーン&マナーの広告は、肝心の商品の訴求では失敗でも、学生を集めるうえでは一定の役割を果たしたと思えるのである。

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