見出し画像

ショートシナリオ「命を刻む時計」

「時計」をテーマに昔試作したショートシナリオ。
先日、時間軸のないメタ宇宙をテーマにしたエッセイを書いたけど、昔書いたこのシナリオも要はメタ宇宙について書いてたんだなと自己納得。過去の自分が「勘」や「感」で感覚的に書いたシナリオを今の自分が「観」で概念的・本質的に意味づける。なかなか趣深い思索活動だなあと、なんとなく、つながった気がした。
少し童話ぽさを取り入れて雰囲気を出そうとしたんだが、初期の頃に気負って書いた跡が見えて痛々しい(苦笑)。


■登場人物

ヨリ(5) 村の子供
サキ(5) ヨリの友達
浅野理沙(28) 主婦
浅野淳平(32) 理沙の夫
乳母(72) ヨリの育ての親
医師


■本文

○村・全景(夕)
   緑豊かでのどかな村。
   古風な家が点々と見える。
   背景には鬱蒼とした森。
   どこかの家の柱時計や誰かの腕時計、懐中時計のアップ。
   全ての時計の針は0時で止まっている。
   どこからか子供の声でわらべ歌が聞こえてくる。
歌声「時計がぐるぐる回ったら
 森の魔物がやってくる
 悪さする子はさらわれろ
 ガリガリむしゃむしゃ食べられろ」

○同・ヨリの家・全景(夕)
   村にある古風な家の一つ。

○同・ヨリの家・居間(夕)
   0時を指す柱の古時計。
   時計の針は止まっている。
   ヨリの乳母(72)が窓際の椅子に腰掛けて編み物をしている。
   中央の円卓ではヨリ(5)が食事中。
   ヨリの胸には銀色の小さな懐中時計。
   懐中時計の針も0時で止まっている。
ヨリ「ねえ、おばあちゃん、神隠しって何?」
乳母「……」
ヨリ「今日ね、みんなが言ってたの。
 チエちゃんは神隠しにあったんだって」
乳母「……チエちゃんはね、この村を離れて遠いところへ行ったんだよ」
ヨリ「もうチエちゃんには会えないの?」
乳母「悲しいことだけどねえ」
ヨリ「サキちゃんがね、森に入っていくチエちゃんを見たって」
乳母「いいかい、ヨリ。
 あの森には何があっても近づいちゃあいけないよ」

○川越街道・全景
   車が渋滞している。事故のようだ。

○同・車内
   運転席には浅野淳平(32)。
   深いため息をつき、腕時計をチラリと見る。
   時計の針は11時半を指している。
浅野「間に合ってくれー」

○村・全景

○同・森のそば
   ヨリとサキ(5)が何やら話している。
   サキの胸にもヨリと同じ懐中時計がぶらさがっている。
   時計の針は0時のまま止まっている。
サキ「お願い! お姉ちゃんを探したいの」
   サキはヨリに向かって両手を合わせる。
ヨリ「でも……おばあちゃんが森には入っちゃだめだって」
サキ「私、お姉ちゃんに聞いたの。
 森の向こうには、おいしい食べ物やきれいな宝物がたっくさんあるって。
 本当はいなくなった子供たちもそこで楽しく暮らしてるんだけど、
 みんなそのこと内緒にしてるの。
 ヨリちゃんの大好きなブルーベリーパイだっていっぱいあるんだよ」
   ヨリ、少し表情を輝かせるも、不安そうに森を見る。
ヨリ「でも……言いつけは守らないと」
サキ「もう! ヨリちゃんが行かないなら私一人で行くもん。
 ヨリちゃんの弱虫!」
   サキ、さっさと森に向かって歩き出す。
ヨリ「あ、待ってよサキちゃん」
   ヨリ、サキの後をついていく。

○同・森の中
   鬱蒼とした森の中を歩くサキとヨリ。
サキ「見て!」
   サキが指差した先に小さな祠《ほこら》がある。
   祠の中には鳥らしきものの石像。
   祠のそばには小さな洞窟の穴が開いている。
サキ「何かの神様かな?」
   遠くで水の流れる音。
   どこからかチクタクという音が聞こえてくる。
ヨリ「あっ! 大変!」
   ヨリがサキの胸元を指差す。
   懐中時計の秒針が回っている。
   ヨリの懐中時計も同じく秒針が回っている。
サキ「時計がぐるぐる回ってる!」
ヨリ「言いつけ守らないで森に入ったからだよ!
 サキちゃんのせいだよ」
   ヨリがパニックになってサキをなじる。
サキ「人のせいにするなんてひどい!
 ヨリちゃんが勝手についてきたんじゃない!」
   サキ、つんと顔をそむけて、
サキ「……あっ! 来た道がなくなってる」
   そのとき、遠くからグルルルゥという獣のような声が聞こえてくる。
   何かがものすごい勢いで近づいてくる足音。
ヨリ「きっと森の魔物だ!」
   ヨリ、ガタガタと震えだす。

○川越街道・全景
   渋滞で連なる車。
   一台が側道に抜け出し停まる。
   運転席のドアが開き、浅野が飛び出してくる。
   浅野、ガードレールを越えて全力で走り出す。

○村・洞窟のそば
   獣の荒い息遣いと足音が近づいてくる。
ヨリ「私、魔物に食べられたくない!」
   ヨリが震え声で泣き出す。
   サキはヨリの手を引いて洞窟の中へ逃げ込む。
   奥へと進む二人。
   洞窟は子供一人がやっと通れるくらい狭い。
   壁は一面蔦のような植物に覆われている。
   ヨリは心配そうに入口を振り返っている。
   獣の低い声とガリガリという岩を削るような音が聞こえてくる。
   そのとき壁を這う蔦がさわさわと動き出し、
   ヨリの手足に絡みついてくる。
   どこからか湧水が染み出してくる。
サキ「あっ! ヨリちゃん逃げて!」
   サキ、ヨリを助けようとする。
   サキの体にも蔦が絡みついてくる。
ヨリ「息が苦しい」
   ヨリの目からまた涙が溢れ出す。
サキ「ね、あっちに光が見える!」
   ヨリ、サキの目線を追う。
   洞窟の奥に小さく点のような光。
   洞窟の入口からは獣のうなり声が近づいてくる。
サキ「行こ!」
   サキ、蔦を絡ませながら体を前に進めていく。
   ヨリも懸命に後を追う。
   胸元の懐中時計がチクタク動いている。

○川越街道
   道路。画面の左から右へ全速力で浅野が駆け抜けていく。
浅野「理沙ー! 今行くからなー!」

○村・洞窟の中
   サキとヨリが洞窟の中を這って進んでいる。
   二人とも、蔦が全身に絡んでいる。
   目指す光の穴はまだ小さい。
ヨリ「もう体が動かないよ」
   ヨリが動きを止めて泣き出す。
   全身がみるみる蔦と湧水に飲み込まれていく。
サキ「あっ、ダメ! ヨリちゃん!」
   サキ、蔦からヨリを引っ張り出そうともがく。
   ヨリを飲み込んだ蔦がサキにも絡み付いてくる。
   サキも力尽きたように蔦に飲み込まれていく。
   絡んだ蔦が胸元の懐中時計に伸びる。

○練馬マタニティクリニック・全景

○同・分娩室
   壁の時計が14時を指している。
   大きなお腹の浅野理沙(28)が、
   汗だくになりながら分娩台の上で苦しそうな声を上げている。
   周りには医師と助産師。
   心音計のモニターが赤く点滅している。
医師「浅野さん、このままじゃ赤ちゃんが危ない。
 お腹切るけど、いいかな?」
   理沙、目を見開いて医師を見る。
   医師、有無を言わせずオペの準備を始める。

○村・洞窟の中
   サキとヨリが湧水の中で動かなくなっている。
   チクタクと懐中時計の音だけが小さく響いている。
   そのとき、洞窟がかすかに振動を始める。
   振動は徐々に大きくなる。
   突然、洞窟の壁に一筋の亀裂が入る。
   亀裂が大きくなり、まぶしい光が洞窟内に差し込んでくる。
   サキとヨリに溢れるばかりの光が降り注ぐ。
   ゆっくり目を覚ますサキとヨリ。
   二人はあまりのまぶしさに叫び声をあげる。
   何かが二人をすくいあげる。

○練馬マタニティクリニック・分娩室
   室内に響き渡る赤ん坊の泣き声。
   ドアが勢いよく開き浅野が飛び込んでくる。
医師「おめでとうございます。
 元気な双子の赤ちゃんですよ」
   医師が笑顔で浅野を迎える。
   時計の針は15時ちょうどを指している。
   理沙が双子の赤ん坊を胸に抱き、疲れきった笑顔で浅野を迎える。
浅野「理沙、頑張ったな! ありがとう!」
   浅野、感極まって理沙に泣きつく。
   理沙は優しく双子の赤ん坊を抱き寄せる。
理沙「名前、サキとヨリにしようと思って」
   浅野の携帯が鳴る。慌てて部屋を出て行く浅野。
   電話の声が聞こえる。
浅野の声「ああチエ? おばあちゃんのこと困らせてない?
 うん、今生まれたよ。チエも今日からお姉ちゃんだぞ!」

○村・洞窟の中
   蔦に絡まった懐中時計が三つ。
   時計の針がカチリと動き、15:01を指し示す。


■まとめ
・童話系ファンタジーです。
・わらべ歌とか一回使ってみたかった。
・納得できる話が思いつかず、
 つい思いついたアイデアに飛びついてしまいました。
・勢いで書いたので細かい作りこみが不足。
・天・地・人が曖昧なままのところが多い。
・そのくせト書きが多すぎ。
・主人公の年齢低すぎ。
・先生にたくさん赤入れられた記憶が。「奇抜なストーリーはいらないから、シーンを描写しなさい」とよく指導されていました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?