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ヒモの正しいほどき方〜ショートシナリオ

昔書いたシナリオを再掲。課題は「ヒモ」でした。紐じゃなくて、ヒモ男の方。確かにドラマや映画などの物語にはよく登場するが、私の価値観とは相容れないキャラなので、描き切れるか最大の難関だった。

■登場人物

長瀬裕子(25) 銀行員
岩野 卓(28) 無職
池田綾乃(23) 裕子の後輩

■本文

○S町・全景(朝)
   緑豊かな自然に囲まれた田舎町。

○ひまわり銀行S町支店・全景(朝)
   街角の古い二階建てビル。
   道を挟んでパチンコ店が見える。

○同・店内(朝)
   窓口が二つ。人影はまばら。
  長瀬裕子(26)と池田綾乃(23)が窓口で接客している。
裕子「お次の方、どうぞ」
   裕子、男を見て絶句する。
   ライダース・ジャケットを着た岩野卓(28)が、
   カウンター越しに笑いながら、
岩野「よっ」
裕子「ここには来ないでって言ったでしょ」
   眉を寄せ、小声で話す裕子。
岩野「悪い。財布見たら空っぽでさ」
裕子「だからって、口座も持ってないくせに」
岩野「そこを何とか裕子の力で、さ」
   岩野、両手を合わせてニカッと笑う。
   裕子、ため息を吐いて、
裕子「ちょっと待ってて」
裕子、席を立って後ろのドアに消える。
岩野「ふーん、午前中は空いてんだな」
   店内を見回す岩野。

  ×  ×  ×

   青い受け皿の中には一万円札が数枚。
岩野「お、雰囲気出るねえ」
   ニヤニヤ笑ってお札を手に取る岩野。
裕子「ちゃんと返してよ」
   不機嫌な表情の裕子。
岩野「分かってるって」
   岩野、銀行から出ると、向かいのパチンコ屋に入っていく。
   それを見て、隣の綾乃が裕子に、
綾乃「先輩、今のって?」
裕子「心配しないで……私のお金だから」
   ため息を吐く裕子。
綾乃「だから、心配なんですって」

○パチンコ店(夕)
   騒々しい店内。
   岩野が煙草を吸いながらパチンコ台に向かっている。
   足元にはパチンコ玉の詰まったケースが三箱積まれている。
   岩野、店員(男)を呼んで、
岩野「(ケースを指差し)これ、よろしく」
   岩野、カウンターへと向かう。
   玉を清算した店員(男)が、
店員(男)「端数は、どうします?」
   カウンターの後ろのラックには様々な景品が並んでいる。
   岩野、ラックに展示されたタイガーマスクのレプリカマスクに
   目をとめる。
岩野「それ、ちょうだい」
   岩野、マスクを指差す。

○アパート・全景(夕)
   よくある二階建てのアパート。
   ハーレーダビッドソンがとまっている。

○同・玄関(夕)
   インターフォンが鳴る。
   裕子、返事をしながらドアを開ける。
   タイガーマスクを被った岩野が立っている。
裕子「……何やってんの?」
   裕子、呆れ声。

○同・裕子の部屋(夕)
   ワンルームの間取り。
   裕子と岩野がベッドを背もたれにして座っている。
   テーブルには缶ビールとおつまみ。
岩野「いやあ、見てたら欲しくなってさ」
   岩野、楽しそうにマスクを手に取る。
   裕子、ぐいっとビールを飲んで、
裕子「……ねえ、いつになったら働くの?」
岩野「え?……働いてるよ」
裕子「どこが? 毎日パチンコしてるだけでしょ。よく飽きないね」
岩野「仕事みたいなもんだからな」
裕子「そんないい加減な生き方続けて、この先どうするつもりなの?」
岩野「正義のヒーローにでもなろうと思って」
   岩野、マスクを被る。
裕子「すぐそうやって現実逃避する」
   裕子、うんざりした表情。
岩野「(マスクを被ったまま)……」

○空(朝)

○パチンコ店
   パチンコ台に向かう岩野。

○カフェ・全景

○同・店内
   裕子と綾乃がテーブルでランチ中。
裕子「何? 婚約するの?」
   裕子、パスタを口に運ぶ。
綾乃「それはまだ先ですって。
 とりあえず顔合わせだけしておきましょう的な?」
裕子「ふぅん、ちゃんと前に進んでるんだね」
綾乃「でも、タイミングが最悪なんですよね」
裕子「なんで?」
綾乃「ほら、うち今騒がれてるじゃないですか。
 例の政治家の裏金疑惑……」
裕子「そんなの関係あるの?」
綾乃「大アリですよぉ。イメージダウン」
裕子「ふぅん。微妙なんだね」
綾乃「先輩の方は、相変わらずですか?」
裕子「まあね。親は彼に会わせろってうるさいけど、今は無理……」
綾乃「さすがに無職じゃ、ねえ」
   綾乃、大きく頷く。
裕子「昔はあんな人じゃなかったんだけどな」
綾乃「元オリンピックの強化選手ですもんね」
裕子「私に会うまではね……だから、やっぱりそばにいてあげないと」
綾乃「その考え方、良くないと思います」
   綾乃、眉をひそめる。

○パチンコ店(夕)
   岩野がカウンターの景品を見ている。
   岩野、モデルガンを指差し、
岩野「それ、ちょうだい」

○裕子の部屋(夕)
   モデルガンで遊んでいる岩野。
   その背中をじっと見ている裕子。
裕子「……共依存って言うんだって」
岩野「ん……?」
裕子「私たちの関係。……卓は私の命の恩人で、私は卓の夢を奪った女。
 だから、私には卓を助ける責任があるって思ってた」
岩野「何? 急にどうしたの?」
   岩野、笑って裕子を見る。
裕子「もちろん、卓のことが好き。
 でもこのままじゃ、私が卓を駄目にしてしまう。
 二人でもつれ合って、ほどけなくなっちゃう」
   裕子、無表情のまま話し続ける。
裕子「だから、別れた方がいいと思う」
岩野「ちょっと、待ってよ」
   岩野、真顔になって立ち上がる。
岩野「落ち着いて、な? もう一度考え直そう。
 おれだって、ただぼんやり生きてるわけじゃないって。
 ちゃんと考えてるから」
   岩野、裕子の手を取る。
   裕子、その手を離し、
裕子「それ何回も聞いた。同じことの繰り返しはもういやなの。
 ごめん、耐えられない」
   裕子、ボストンバッグを突きつけて、
裕子「出て行って。卓が出て行くまで、私、戻らないから」
   裕子、バッグを岩野に押し付けると、玄関へ向かって歩き出す。
   岩野、その背中に向かって、
岩野「裕子がそこまで言うなら出て行くよ。でも最後に、一つだけ。
 明日、あの丘の上のレストランで、一緒にランチしよう」
裕子「……私、明日は仕事だから」
岩野「そんなの休みなよ! 最後なんだから」
裕子「……」
岩野「な、頼むよ。思い出の場所じゃん」
裕子「……分かった」
   裕子、部屋から出て行く。

○レストラン・全景

○同・店内
   テーブルに裕子が一人。腕時計を見ている。
   時計の針は12:45を指している。
   携帯電話を取り出し、プッシュして耳にあてる。
   首をかしげて携帯をしまう。
   携帯が鳴り出す。慌てて携帯を開く。
綾乃の声「先輩! 今、どこですか?」
裕子「どこって……どうしたの?」
綾乃の声「さっき、タイガーマスクに……」
裕子「は? タイガーマスク?」
綾乃の声「支店長がピストルで脅されて……」
裕子「何? 銀行強盗!?」
綾乃の声「ええ、強盗です。
 タイガーマスクの男に五千万円奪われて、逃げられました」
裕子「五千万!? 逃げたの?」
綾乃の声「はい、ハーレーであっという間に」
    ×    ×    ×
   フラッシュバック
   岩野のハーレーダビッドソン。
   タイガーマスクを被った岩野。
   モデルガンで遊んでいる岩野。
    ×    ×    ×
   裕子、レストランを飛び出していく。
裕子「はじめからそのつもりだったんだ」

○道
   息を切らして走る裕子。

○アパート・玄関
   裕子、玄関のドアを勢いよく開ける。
   ガランとした部屋の中には誰もいない。
   テーブルの上に百万円の札束が三十個積み重ねられている。
   裕子、札束に近づく。メモ書きが残されている。
   文面は、『自分のために役立ててください。 伊達直人』
裕子「あのバカ、これどうすんのよ!?」

○道
   猛スピードで走るハーレーの後ろ姿。

■課題のまとめ

※岩野は将来を期待される水泳選手だったんですが、
 交通事故に巻き込まれた裕子を助けた際にケガをして、
 選手生命を絶たれてしまったという裏事情があります。
 で、丘の上のレストランでランチしたのがきっかけで
 付き合うことになったという設定。

・行動を描写する的なシナリオっぽさが出せた感じがしています。
・徹夜でぐだぐだで仕上げたけど、さらっとした雰囲気が出せた。
・ちょっと不条理な展開でプロットの合理性は不足した。
・状況説明が不足して人物の事情を伝えきれなかった。
・「転」が電話でのやり取りになっていてインパクト不足。
 銀行強盗のシーンを描くべきだったかな。
・実は強盗したのは別人だった、というオチにした方がいいんじゃないの、
 と他の方からアドバイスされました。なるほど!

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