聞き流すだけで魔法をマスター 〜ショートシナリオ

昔書いたシナリオの一つを久しぶりに再掲。テーマは「喜び」でした。これを「喜び」と表現していることに昔の自分の心の闇を感じてしまった。。。

■登場人物

悠木貢《ゆうきみつぐ》(27) 会社員
赤科優《あかしなゆう》(25) 悠木の恋人
如月沙夜《きさらぎさや》(28) 蜜夜の代理人
悠木満ちる(23) 悠木の妹
神無月蜜夜《かんなづきみつよ》(66) 無職

■本文

○日比谷公園・全景

○会員制喫茶店・入口
   「会員制喫茶 ミラージュ」の看板。

○同・室内
   薄暗い室内。
   ゆったりとしたソファに悠木貢(27)と
   如月沙夜(28)が向かい合っている。
   悠木はよれよれのジャケット姿。
   沙夜は、真新しいビジネススーツで、
   新聞記事の切り抜きに目を通している。
   新聞の日付は二○XX年六月三日。
   『トラックと衝突、家族三人死傷』
   『会社員の悠木忠さん(49)、妻の望さん(47)は死亡、
   娘の満ちるさん(18)は意識不明の重体』の見出し。
   沙夜、新聞の切り抜きを悠木に返す。
沙夜「あなた一人で妹さんの看病を?」
悠木「事故から五年……
 満ちるはずっと病院のベッドで眠り続けてるんです」
沙夜「……ご苦労されたんですね」
悠木「医者はとっくにさじを投げています。
 でも、もう一度満ちるの笑顔が見たくて」
   悠木、両手を握り締め沙夜を見つめる。
沙夜「もちろん、力になることはできますわ」
   沙夜、悠木を見つめ返す。
悠木「(身を乗り出して)ほ、本当ですか!?」
沙夜「きっと先生はご尽力くださるでしょう」
悠木「あ、ありがとうございます!」
   感極まった声で深く頭を下げる悠木。
沙夜「ただ……」
   沙夜、腕を組み、眉を寄せる。
沙夜「先生は大変お忙しい身……
 気持ちはあっても、状況が許してくれないのです」
   沙夜、大袈裟にため息を吐く。
悠木「待ちます。先生のご都合がつくまで」
沙夜「いえ、そういうことではなく……」
悠木「と、言いますと?」
沙夜「私どもがこうして相談に乗っているのは、
 ボランティアなどではなく……」
悠木「(はっとして)お礼は、必ずします」
沙夜「実は、ほんのお気持ち、
 これだけいただく決まりになっていますの」
   沙夜、右手の指を五本立て、微笑む。
悠木「……?」
沙夜「ご用意いただけますか?」
悠木「……五万円、ということでしょうか?」
   悠木、怪訝な表情で尋ねる。
沙夜「(眉間に皺を寄せて)いいえ」
   沙夜、ため息。人差し指を立てて、
沙夜「一本、百万円です」
悠木「え? 五百万!? そ、そんな……」
   悠木、口を空けたまま固まる。
悠木「む、無理です。そんな大金……」
沙夜「あら、決して高くはありませんわ」
悠木「(言葉につまり)……妹の入院費用だけで精一杯なんです」
沙夜「では悠木様、もし私に妹さんの命を売るとしたら、
 いくらになさいます?」
悠木「売る? 何を言ってるんです?」
沙夜「仮の話ですよ。妹さんの命の価値を知りたいんです
 ……あなたの言い値で買いますから、言ってごらんなさいな」
   沙夜、微笑を浮かべながら尋ねる。
悠木「(眉間に皺を寄せて)……」
沙夜「(促すように)さあ」
悠木「(沙夜を睨んで)満ちるの命に、
 値段なんかつけられるわけないじゃないですか」
沙夜「(満足そうに)でしょう? 結局皆さん同じなんです。
 助けてほしいのに、値段は付けられない。
 だから、私どもの方から値決めして差し上げているんですよ」
悠木「(下を向いて)……」
沙夜「これ以上話すことはなさそうですね」
   沙夜、席を立ちかける。
悠木「ま、待ってください」
沙夜「(悠木を見て)……」
悠木「……何か他に手はないでしょうか?」
沙夜「……そういえば……あなたにちょうどよい方法がありますよ」
   沙夜、にっこり微笑むと、
   アタッシュケースをテーブルに置く。

○消費者金融の現金自動支払機前
   「プロミス」の看板。
   現金自動支払機から出てくる悠木。

○ハイツ永山・外観(夜)
   薄汚れた外観。
   「ハイツ永山」の文字。

○同・悠木の室内(夜)
   八畳ほどのリビング。
   テーブルの上にはPCや充電中の携帯。
   悠木は熱心に冊子を読んでいる。
   赤科優(25)はパジャマ姿で
   顔にクリームを塗っている。
   PCから神無月蜜夜(66)の声。
蜜夜の声「……このCDを毎日聞き流すだけで、
 あなたは着実に魔法を修得することができるのです」
優「はぁ!? で、契約しちゃったの?」
悠木「うん」
蜜夜の声「……最初は、魔法の効き目が見えなかったり、
 魔法がかかるまで時間差があったりするかもしれません」
   優、悠木から冊子を取りあげる。
   冊子の表紙には
   『神無月蜜夜の聞き流すだけで魔法をマスター』
   の文字と蜜夜の笑顔の顔写真。
優「何? このインチキ臭いタイトル」
蜜夜の声「……特に、覚えたての魔法は、効果が不安定です」
優「こんなのに、五十万!? 信じらんない」
悠木「先生に直接頼んだら五百万するんだよ。
 それが五十万なんだから安いもんだよ」
優「それ、悪徳商法の常套テクだって」
   優、ため息を吐き冊子を放り投げる。
蜜夜の声「すぐに結果が出なくても、
 焦らずじっくり取り組みましょう」
優「クーリングオフしなよ」
悠木「え、なんで?」
蜜夜の声「慣れない方は、無理せず簡単な魔法から
 始めると良いでしょう」
優「もしかして、本気で信じてるの?」
悠木「どうかな? でも、魔法なら、
 満ちるを助けられるかもしれない」
蜜夜の声「さて、呪文系の第一ステップでは、
 喋らせる、笑わせる、黙らせるといった
 基本的な魔法を身につけていきます」
優「……もう、いい加減にしてよね」
悠木「優……」
優「占いの次は魔法?
 魔法が駄目なら超能力者でも呼んでくる?
 宇宙人でも探す?」
蜜夜の声「とはいえ、いきなり人間相手に
 魔法をかけるのは大変危険です」
優「満ちるちゃんを助けたい気持ちは分かるけど、
 私、もうついていけないよ」
悠木「ごめん……でも……」
優「言い訳はもういいよ……私、先に寝るね」
   優、悲しげな表情で部屋から出て行く。
   一人肩を落とす悠木。
蜜夜の声「魔法を使いこなせるようになるまでは、
 人形や植物などで練習しましょう」
   テーブルの携帯が光って震える。
   女性らしくデコレーションされた携帯には、
   ボージョボー人形のストラップがついている。
   悠木、じっと携帯を見つめる。

○光が丘病院・全景

○同・病室
   悠木満ちる(23)がベッドに寝ている。
   そばでぼんやりしている悠木。
   テレビからニュースが流れてくる。
テレビの声「……聞き流すだけで魔法が使えるなどと言って
 金をだまし取ったとして、詐欺の疑いで
 千代田区の無職神無月蜜夜容疑者ら二名が逮捕されました」
   悠木、はっとしてテレビ画面を見る。
   テレビには蜜夜と沙夜の顔写真。
テレビの声「調べに対し、神無月容疑者らは
 容疑を否認する供述をしているそうです」
   悠木の携帯が鳴る。
   悠木、病室を出ると携帯を耳にあてる。
優の声「貢? テレビ……観てる?」
悠木「うん、今観てた……優の言うとおりだった。
 俺、だまされたみたい」
   悠木、肩を落として廊下を歩き出す。
悠木「……信じた俺がバカだった」
   受話器から甲高い笑い声が聞こえてくる。
悠木「優……どうしたの?」
   笑い声がどんどん大きくなる。
悠木「(ムッとして)そんなにおかしいかよ」
優の声「ちょ、ちょっと待って!」
悠木「え?」
優の声「笑ってるの、私じゃないよ」
悠木「……そばに誰かいるの?」
優の声「いない……けど……」
   受話器から笑い声が聞こえ続ける。
悠木「じゃあこの笑い声は……?」
   優の悲鳴が聞こえる。
悠木「優!? どうした!」
優の声「何ー、この人形!?」
悠木「人形って?」
優の声「ほら、去年サイパンで買った……」
悠木「え、ボージョボー人形のこと?」
優の声「うん。なんかめちゃ笑ってんだけど」
悠木「人形が!?(はっとして)それって……」
   悠木の表情が輝き出す。
悠木「魔法が効いたのかも……」
優の声「何?笑い声がうるさくて聞こえない」
悠木「(大声で)魔法だよ! 笑いの呪文」
優の声「はぁ? 魔法?」
悠木「俺、その人形相手に練習したんだ」
優の声「え!? あのインチキ教材で?」
悠木「すごいよ! ちゃんと魔法かかってる!」
   悠木、生きいきとした表情で、
悠木「満ちる! 満ちる! 待ってろよ。
 兄ちゃんが、きっと助けてやるからな!」
   悠木、走り出す。


■課題のまとめ

・アイデア先行で勢いで書いてしまった。
・説明ゼリフが多すぎて行動が描写できてない。
・閃きで書き上げたため、設定が独りよがり。
・ネーミングも凝りすぎた。
・ドラマの構成を勉強し直しだな。

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