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私の中の見知らぬ者 ③

常に霊に取り巻かれている状態で、顔色は悪いし、生気は感じられない、何よりも金銭的に苦しむことが多かった。

まだ祖母が生きていたころは、お金は常にあるもので、困るといった経験をすることがなかったのだが、それは私が周りに守られていたからなのかもしれない。

大人になり、社会に出るようになってから、何故かお金の問題がいつも付きまとうようになっていた。

その金銭的な問題も、霊障の一つ。
ずっとそう思っていた。

その頃の私は、身に降りかかる出来事はすべて「外的要因」によるもので、自分以外の何かに原因があると思い、外側の事象にただ振り回されていた。
占い師や霊能者に依存し、神社仏閣に救いを求めていた。

今思えば、占い師や霊能者に依存しても、一時的には効果があるが、根本的に解決することはなかった。結局は同じことを何度も何度も繰り返す。暗いトンネルをただひたすら歩き続けていた。


暗闇の中に一筋の光が降りたのは、とある霊能者に出会ってからだった。
友人に紹介された一人の霊能者。
霊能者というよりは占い師のカテゴリーだと思う。
タロットで占い、その人にあったパワーストーンでブレスレットを作る。
現実に疲れ果てていた私は、何かに縋りたい一心で、すぐに予約を入れてその人に会いに行った。

現状を打開するために何をしたらいいのか、御守になるブレスレットを作ってもらいに行ったのだが、出会った瞬間言われたのが、

「憑いてるね」。


憑依体質で、多くの霊に取り囲まれている自覚があるので、今更な言葉だけれど、妙に胸に刺さった。

「憑いてるね」と言った彼女は、私より少し若く、霊能者というか占い師らしからぬ出で立ちをしていた。

ダボダボのデニムにパーカー、茶髪のロン毛でギラギラしたネイル。

「温かいのと冷たいの、どっちがいい?」
お茶を出してくれるときも、気安い感じで聞いてくる。

神秘的なものを勝手に想像していた私は、毒気を抜かれて出されたお茶をすすっていた。

その間、彼女はタロットを片付けて魔術の道具らしきものをテーブルに並べていく。

ハーブに色付けたものだろうか。
何種類もある瓶の中から、「これとこれと…これかな」と選ぶと、どぎつい色のそれを、小さな炭にふりかけて煙を出す。

「手だして」

言われるがままにマグカップから手を離して差し出すと、私の両の掌を煙にあてていく。
しばらくの間、両手に煙を当てながら彼女と話す。

彼女が言うには、人は肉体の中心から4つの層に覆われているらしい。
(正確には4つだったか忘れてしまったが、確かそれくらいの数だった)
中心から1・2・・・と番号をふったときに、4番目の層(オーラ)に取り巻いている霊は、そこまで人体に影響はないのだという。
もちろん、いないに越したことはない。

外側のオーラを突き破って、体の内部に入ってきている霊はやっかいなのだと言う。私は内側から2番目のオーラに霊が入り込んでいる状態だった。

「タチの悪い男の霊だね」

私の両手をいぶしながら、彼女は言う。
掌は、どういうわけかオレンジ色に染まっていた。

「もう少しやった方がいいかも」

だいぶオレンジ色に染まった掌を見て、それでもまだ足りないと煙を足していく。

自分の状態を聞かされて、どこか納得がいったからだろうか。
緊張が取れたのか、目がトロンとして、体が緩んできたのを感じた。

タロットで占うのだと思っていたと伝えると、
「占うよりも、まずはソレを取らないとね」という。


「よし、もういいかな。じゃあベランダに出て」

彼女に連れられて狭いベランダに出ると、そこには椅子が用意されていた。

「そこに座って」

言われるままに椅子に腰かけると、背中の後ろに立った彼女がお経を唱え始めた。長い水晶の数珠をジャラジャラ言わせながらお経を唱えていく。
水晶で何度も首から背中を摩られる。
お経がクライマックスを迎え、体内の奥深くに入り込んだ霊を引き抜いたのだろう。水晶の動きに引っ張られるように、自然と体が後ろに引きずれらた。

一連の浄霊が終わったあと、私にお代わりのお茶を出した彼女はそのままトイレへと向かった。取り込んだものを吐き出す必要があるのだそうだ。

温かいお茶にホッと一息つく。
頭がボーっとして、今にも寝てしまいそうだった。

トイレから出てきた彼女は、スモーキークォーツでブレスレットを作った。
「2週間、お風呂以外は嵌めたままにしておいて、2週間後にまた来てくれる?」

私の奥底に入り込んだ霊は取り除いたけれど、霊の残留思念というか、ネガティブなエネルギーはまだ残っているのだという。木の根のように、太い部分は取り除いたけれど、もしゃもしゃした細かい枝分かれの部分は残ってしまっているから、それをスモーキークォーツで吸い出すのだそうだ。

霊を取り除いたからといって、破られたオーラはそのまま。
オーラを修復せずにそのままだと、また同じように霊に入られるので、残っているネガティブなエネルギーを吸い出すのと同時にオーラを修復する作業が必要なのだという。


何度浄霊しても、根本的に変わらず、同じことを繰り返していたのはこれが原因だった。破れて穴が開いたままのオーラでは、次から次へと新たに霊が入ってくるだけだった。

彼女が言う「タチの悪い男性の霊」を、どこで憑けたのか教えてくれたのだが、憑いたのは12~3年前のことだった。
当時住んでいた場所は、沼地を埋め立てた新興住宅街なのだが、そこにいた古い霊が私に入り込んでいたのだ。

そういえば、思い当たる節がある。
当時、原因不明の鳩尾の痛みがあった。
1時間くらい痛さに悶え苦しんだのだが、「食い破られる」という表現がぴったりな、経験したことのない痛みだった。
1時間ほどたった後、激痛がピタリとやみ、37度前後の微熱が1か月以上続いた。寝汗はひどく、火照りと倦怠感が取れなかった。
病院では自律神経失調症だと診断され、処方された薬を飲むようになったら、微熱も倦怠感も寝汗も治まっていった。

ただ、家が重たくなっていった。
当時マンションに住んでいたのだが、晴れた日でも常に湿気に悩まされ、かといって外に出たいという気持ちにもならず、家に籠ることが多くなった。
家の中でたまたま撮った写真に、ものすごい形相の男性の顔がカラーで映り込んでいたのだが、この霊が私に入り込んだ男性なのかもしれない。

12~13年前に入り込んだままならば、これまでの霊能者は私の外側を取り巻く霊をひたすら祓っていただけに過ぎない。彼女にやってもらった浄霊ほど、体の変化が感じられなかった。

ボーっとした感覚のまま帰途につき、電車の中で腕につけたスモーキークォーツのブレスレットをみると、まだらに変色していた。
腕に着けたときは、確かに均一な薄い色をしていた。
体内に残ったネガティブなエネルギーを吸い出しているのだろう。

「2週間以上つけていると、吸い出したネガティブなエネルギーが体に逆戻りしちゃうから気を付けてね。」

言われたことを思い出す。
その日は浄霊からくる倦怠感で早々に寝てしまったのだが、次の日になってもガラッと何かが変わったという風には感じられなかった。
ただ徐々に徐々に、鏡に映る自分の顔の顔つきが変わっていった。
そして、日を追うごとに薄い色をしていたスモーキークォーツが濃くまだらに変色していった。

これが彼女との出会いだった。







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