あべせんせいと、こどもたち①
あるところに、幼稚園がありました。
その中の「あかぐみ」にいる、あべせんせいという人は、つよい「けんりょく」をもっていて、なんでも自分のいうとおりに、こどもたちをみちびくことができます。でも、その「けんりょく」というものを、こどもたちにさとられるわけにはいきません。見た目はニコニコと、やさしいせんせいでなければならないのです。
あかぐみには、3にんのこどもたちがいます。
まずは、おとちゃん。このこは、「りーだーしっぷ」というものをうちにひめているような、かいかつな女の子です。おうたをうたうのがだいすき。
つぎに、しょうくん。かれは、すごくかつどうてきで、はしりまわるのがだいすきです。とてもくいしんぼうで、なんでもたべます。
さいごに、りっくん。かれはおとなしくてほんをよむのがすきです。たまに、となりの「あおぐみ」のせんせいとおしゃべりすることもできます。
〇「桜を見る会」と「前夜祭」の話
あるひ、あべせんせいは、「おはなみ」をしたというおはなしをこどもたちにしました。それには、いろんな「こうろうしゃ」――つまり、その幼稚園が「さかえる」のにやくにたったひとたち――がまねかれたようです。もちろん、3にんは、まだこどもなのでまねかれませんでした。おとちゃんは、せんせいにききました。
「ねぇ、せんせい。それには、どんなひとたちがきたの?」
「うーんとねぇ、それは、ひとびとが『かいてきな』くらしをおくることだとか、たのしいくらしをおくることに『こうけん』したひとたちがよばれたんだよ」
しょうくんもききます。
「ぼく、そのおはなしきいたよ! あたまがハゲてるおじさんとかもきたんでしょ?」
「こらこらこら、ハゲなんてことばをかんたんにつかっちゃダメだよ。あのひとも、たくさんのひとたちをたのしませてきたひとなんだ」
りっくんは、ぼそっといいました。
「でも、そのとき、『まねかれざるひと』たちもきたんでしょ」
せんせいはすこしドキっとして、りっくんにこたえました。
「まねかれざるひと? それは、どういうひとたちのことかな」
りっくんはこたえます。
「となりのせんせいがいっていたんだ。あべせんせいを『おうえんしている』だけで、そのおはなみにまねかれたひとたちもいたんだって」
おとちゃんはたずねます。
「え、おうえんって? それなら、わたしたちもおうえんしているよ。どうして、わたしたちはまねかれなかったの?」
しょうくんもいいました。
「そうだ、そんなのずるいよ! ぼくだって、おだんごとかをたべたかったなぁ」
せんせいは、あわててこたえました。
「ちがうちがう。そんなことはないよ。わたしのことをおうえんしているだけでまねかれたひとなんて、ひとりもいないさ。みんな、なにかしらの『こうけん』をしてきたひとさ」
りっくんはさらにききました。
「でも、それにはたくさんの『おかね』がつかわれたってきいた。おれのとうちゃんやかあちゃんが幼稚園にはらったおかねもつかわれているんだって。そのおかねを、もしおれたちとはぜんぜんかんけいないおはなみにつかわれているんだったら、おれはイヤだけど」
おとちゃんとしょうくんはすこしかんがえました。おとちゃんがいいます。
「せんせいは、どうしてそのおはなみをしたの?」
せんせいはこたえます。
「うーんとねぇ、この幼稚園というのは、たくさんのひとたちの『こうけん』によってなりたっているといっていいんだ。そういう『こうけんしゃ』たちは、きちんとおもてなしをしなくちゃいけないんだよ。そうしないと、やるきがなくなってしまうでしょう?」
しょうくんがいいます。
「えぇ、そうかなぁ。ぼくは、いつでもはしりまわって、ごはんをたべていればそれでまんぞくだけど。べつに、みんなとおはなみなんかしなくたっていいや。だって、あそこのなみきみちにだって、たくさんさいてるし。まぁ、おだんごはたべたいけどさ」
せんせいはすこしこまっていいます。
「でもね、おとなというのは、ちょっとちがうかんがえかたをするんだよ。このおはなみにまねかれた、ということが、そのひとの『じしん』につながったりすることにもなるのさ。そしてもちろん、せんせいだってそういうひととふれあわなけりゃ、この幼稚園はたくさんのひとにささえられているんだっていう『じっかん』をえられないからねぇ」
りっくんは、すこしさめたようすでいいました。
「そうか。だから、せんせいをささえるひとたちもいっしょにまねいたってことだね」
せんせいはいよいよこまってしまいました。
「ううん、それはちがうんだけどなぁ……」
おとちゃんがいいます。
「そうだ! せんせい、そのおはなみにきたひとたちを、みんなここにつれてきてよ! そしたら、どういうひとかわかるじゃん」
「うんうん、そしたら、もういちどおはなみをいっしょにやれるね」
しょうくんはまだおはなみに、みれんがあるようです。
するとせんせいはこたえました。
「うーん、でもせんせいは、そのおはなみにきたひとがどういうひとかは、もうわすれてしまったんだよ」
りっくんがいいます。
「でも、となりのせんせいは、いっていた。そういうばしょにきたひとたちのなまえがのっている、『りすと』というものをかならずのこしておかなきゃいけないんだって。せんせい、そのりすとはないの?」
せんせいは、どぎまぎしながらこたえました。
「うーーーんと……、もう、どこかにやってしまったかもなぁ……」
おとちゃんとしょうくんもいいます。
「そうか、それがあれば、みんなにあつまってもらわなくてもいいんだね」「おはなみをできないのはちょっとざんねんだけどなぁ…」
せんせいは、こまりきってしまって、いいました。
「わかった。それじゃあ、もし、そのりすとがのこっていたら、あしたもってくるね」
そのひのうちに、幼稚園の「うら」では、のこっていた「りすと」が、のこらず「しゅれっだー」というものにかけられて、こなごなにされてしまいました。
つぎのひ、せんせいはこどもたちにいいました。
「ごめんねぇ、やっぱり、のこっていなかったんだ」
おとちゃんとしょうくんはいいました。
「えぇー、なんだ、ざんねん。でも、わたしはせんせいのことをしんじてるからね」「うん、ぼくも、べつにきにしていないよ。でもこんどは、ぼくもおはなみにまねいてね」
りっくんだけはだまったままでした。でも、かれはもうひとつせんせいにしつもんしました。
「せんせい。そのおはなみのまえのひに、『ぜんやさい』というものもあったって、となりのせんせいがいっていたよ。そして、そのときの『おかね』のやりとりが、『きろく』にのこっていないのも、もんだいなんだって。せんせい、どうしてのこっていないの?」
おとちゃんは、ちょっとおこったようすでいいました。
「ねぇ、りっくん。せんせいをいじめるのはもうやめたら? それより、みんなでおうたをうたいましょうよ」
しょうくんは、その『ぜんやさい』にもきょうみしんしんです。
「え、それにはたべものもたくさんでるの? おにくをたくさんたべたい!」
せんせいは、またすこしこまったかおをしていいました。
「これは、こどもにはむずかしいもんだいだから、おおきくなってからべんきょうすればいいよ」
でも、りっくんはくいさがりました。
「ううん。いましりたいの。だって、もしそういう『おかね』をはらったひとと、はらっていないひとのあいだで、『なかまはずれ』みたいなことがあったらおかしいもん」
しょうくんもそれをきくと、いいました。
「あ、なかまはずれはよくないよ!」
せんせいはしかたなく、こたえます。
「えーとねぇ、たしかに、その『ぜんやさい』というものには、わたしをおうえんしてくれるひとたちがまねかれたんだ。ただ、そのおかねは、『ホテル』のひとたちにちょくせつ、手わたしをしたものだから、『きろく』にのこすひつようはなかったんだよ。もちろん、そのおかねはただ、そこで出たたべもの・のみものにたいしてはらわれたものだから、それによって『なかまはずれ』になんて、ぜったいにしないよ」
おとちゃんはあんしんしたようにいいます。
「ほーら、せんせいは、なにもわるいことなんかしてないじゃん」
しょうくんも、いいました。
「そうなんだねー。でも、たくさんごちそうがでたんじゃないの? うらやましいなぁ」
りっくんは、まだなっとくしません。
「でも、そこにはすごくたくさんのひとがあつまったんでしょ。それなのに、ぜんいんが手わたしをするなんてことがあるのかなぁ。ふつうは、ひとりがまとめてはらうんじゃないの。うちのとうちゃんのかいしゃだって、そういうふうにしているし」
せんせいはいいます。
「おとなにはおとなのじじょうというやつがあるんだよ。それよりも、はやくべんきょうをはじめよう」
りっくんは、ぶぜんとしたままでしたが、しかたなくだまりました。
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