主要新興国の中央銀行は、金融緩和姿勢を維持

■ 主要新興国中銀は、9月に入り政策金利の引き下げを取り止める傾向が確認された

■ 新興国を取り巻く環境を踏まえると、一部の国を除き、新興国の低金利環境は当面継続を見込む

 本稿では、主要新興国中央銀行の動向を整理する。年初以降、主要新興国中銀は概ね政策金利の引き下げを進め、過去最低水準を更新した国が増加。そうしたなか、9月は徐々に利下げから現状維持へシフトしている様子が確認できた。9月は本稿執筆時点で11カ国の主要新興国中銀が政策会合を実施したが、利下げを行ったのはメキシコ中銀のみ。トルコは通貨防衛のための利上げを実施したが、それら以外の9カ国(タイ、マレーシア、インドネシア、台湾、チリ、ブラジル、南アフリカ、ロシア、ポーランド)は政策金利の現状維持を決定した。

 新興国の中央銀行が念頭に置くのは、自国からの資金流出に伴う通貨安であろう。そのため、自国の信用格付けを巡る動向に注意を払っている。また、最終的には通貨安に伴う物価上昇を防ぐことを重視しているとみられる。つまり、新興国中銀の動向を確認する上では、(1)物価動向、(2)新興国通貨の動向、(3)自国の信用格付けの3点が重要な材料と筆者は考える。(1)物価動向を巡っては、主要新興国中銀がそれぞれ定める物価目標レンジの上限を上回るのが、直近ではインド、トルコ、メキシコの3カ国のみである。ただし、商品市況の回復や景気の底打ちが近づくなか、それ以外の新興国でも物価上昇の兆しが散見されるようになった。物価動向から考えると、主要新興国中銀の利下げ打ち止めは妥当であると判断できよう。

 (2)新興国通貨を巡る動向では、米ドル全般の値動きとトルコリラ安の影響に注目したい。米ドル全般の値動きでは、ドルインデックスが2020年安値を3%程度上回る位置にとどまるなど、足元で米ドル高は進展していないと判断できる。また、2018年のトルコリラ暴落は他の新興国通貨安を招いたことが記憶に新しい。トルコリラは依然、対ドルと対ユーロで過去最安値を更新しながら推移しているが、本稿執筆時点で2018年ほど極端な新興国通貨安へ波及していない。そのため、トルコを除く主要新興国中銀は、(3)自国の信用格付けを巡る動向に警戒姿勢を取りながら、自国通貨防衛のため直ちに利上げを実施する状況ではないとみる。

 先進国中銀の多くは8月下旬のジャクソンホール会議以降、米連邦準備理事会(FRB)の新戦略導入を皮切りに再び金融緩和姿勢を明確にしている。これも、新興国中銀が金融緩和姿勢を維持するには好材料と言えよう。以上から、一部を除く新興国中銀は政策金利の現状維持が可能とみており、新興国を巡る低金利環境は当面継続を見込む。

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