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記憶のいたずら 雪丸 短編集

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短編集です。消えそうな記憶を手繰り少しづつ書いていこうと思います。(Since 2021/08/14)
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#秋田犬

『右手の親指』

 幼い頃のぼくは、右手の親指を吸う癖があったらしい。  帝王切開で、まさに母親の腹を引き裂いて、この世に生まれた時から、ぼくは右手の親指を吸っていたらしい。  生まれた瞬間のぼくは、目を一瞬、かっと見開いたかと思うと、産み落とされた世界を品定めするようにあたりを眺めた後、何かに安心したかのように目を瞑り、そして産声をあげたそうだ。  その場にいた、産婆さんと手伝いをしていたおばあは、その光景を見て、とても驚いたと法事の時にみんなに話していた。  そのこととは無関係に、ぼ