カラスを信じている。
公道で車を運転していると、たまに不思議な気持ちになることがある。
赤信号では停止する、急ハンドルを切って他者の進行を妨げたりしない、車線に沿って左側を進行する、バカみたいな猛スピードでこっちに突っ込んできたりしない、歩行者はむやみやたらに車道に出てきたりしない。
当たり前の交通ルールを、通行者みんなが当たり前に守って行動するものだ、ということを、お互いにある程度は信じ合っている。だから車は時速何十キロとかいうスピードでビュンビュン走れるし、歩行者はそのすぐ横を平気な顔をして歩ける。
もちろん中には、びっくりするようなルール破りをする人はいる。それでも大多数の人は、共通のルールにおおよそのところは従って、協力しあって通行しているのだ。
そういう事実を、対向車の運転手の顔が見えたときなど、ふと不思議に思ったりするのだった。それぞれの思惑を持ったそれぞれの個人が、壊滅的な混乱に陥ることなく秩序立って動いている。これって、なんかちょっと奇跡的ですらある。
ところで今日の朝、自宅の近所を車で走っていたとき、進行方向に一羽のカラスがばさっと舞い降りてきた。15メートルほど先の、道の真ん中だ。
車は一旦停止からスピードを上げていくところで、カラスの姿が見えたときには、アクセルから足を離したが、ブレーキを踏んだりしなかった。
一瞬でそこから離脱するだろうと思ったから。
目の前にいるのがもしも人だったら、反射的にブレーキを踏んでいるところだ。
はたしてカラスは路面を2、3度つついてから、すぐにまたばさっと翼を開いて飛び立っていった。
ですよねー、と思い、またアクセルに足を戻したわけだけど、そこでまたちょっと不思議な気持ちになった。カラスのことを信じているんだ、と気付いたからだ。
人間のことはある程度は信じている。それは、走っている車の前に故意に飛び出してきたりはしないだろうという推測と信頼だ。
一方、カラスやハトやスズメのことは、その危険察知能力と身体能力を、わりと全面的に信じている。危険からは素早く退避するだろうと思っている。
ちなみに、猫は信じていない。あいつら急に車道に飛び出してきては、目を見開いてこっちを凝視しながら、道の真ん中で固まったりするし。
カラスを信じている。
という言葉に、自分でちょっと驚いたので書いてみました。
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