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論文を読む「観光地における旅行者の維持に関する研究 筑波大学 外山 昌樹 氏」

■背景

・観光
観光が地域経済活性化に果たす具体的な役割 は、安定的な雇用創出と、定住人口減による経済活動の縮小を防ぐことにある 

・3つの旅行市場
1:日本国内居住者が日本国内を旅行する国内観光旅行
2:海外居住者が日本国内を旅行する訪日観光旅行
3 :日本国内居 住者が海外を旅行する海外観光旅行
(域経済活性化という観点から 各地域がターゲットとすべきなのは、国内観光旅行と訪日観光旅行の 2 つの市場 )

・課題と対策
国内旅行の伸び。
各観光地が国内観光旅行市 場で旅行者を持続的に獲得していくためには、自らの地域に来訪したことがある旅行者の維持を図る防衛的戦略に力を入れることが有効。しかし一般的な製品・サービス のマーケティングに関する研究知見をそのまま適用させるには限界がある 

テーマ1:来訪経験者と初来訪者間の情報探索行動の違いを明らかにする 
テーマ2:再来訪における旅行経験の役割を明らかにする 
テーマ3:観光地に対するロイヤルティの形成要因を明らかにする 

・学術的用語
観光地のマーケティングは「観光地マーケティング(Destination marketing) 
 」。宿泊施設、交通事業者、旅行会社などのマーケティングは「ホスピタリティ・マ ーケティング(Hospitality marketing) 」と呼ばれる 。観光地マーケティングとホスピタリティ・マーケティングを 包含する概念として、観光に関連するあらゆるマーケティングを指す「観光マーケティン グ(Tourism marketing)」という用語も存在する

・関係者種別
観光庁(2017) は交通事業者、地域住民、行政、飲食店、宿泊施設、農林漁業、商工業の 7 つに分類(DMO の一存ですべてを決めることができない)

■先行研究

・旅行選択の行動モデル
Mansfeld(1992)のモデルでは
1問題認識の段階「旅行欲求 (Travel motivation)」
2情報探索の段階「情報探索段階(Information gathering phase)」
3選択・購買の段階「最善の選択肢の選択(Choosing the best alternatives)」 

UNWTO(2007)のモデル では、
問題認識の段階「切望(Dream)」
情報探索の段階「計画(Plan)」
代替案評価と選択・購買に相当する段階「予約(Book)」

1:内部情報:旅行者自身 の記憶内に保持されている情報の探索
2:外部情報:Web サイトやガイドブックといった各種情報源に掲載された情報の探索
 
情報ニーズは「旅行者が獲得したい情報が、内部情報には存在しないときに喚起された、外部情報探索行動を発現させる状態」 

・4Eモデル:経験への参加度と没入度という 2 軸を用いて4つの次元に分類
1 娯楽(Entertainment): 受動的参加-経験への没入度が低い状態
2 教育(Educational): 能動的参加-経験への没入度が低い状態
3 脱日常(Escapist): 能動的参加-経験への没入度が高い状態
4 美的(Esthetic): 受動的参加-経験への没入度が高い状態 

■ テーマ1:情報探索行動に対する過去の来訪の影響 

・情報ニーズに関する項目の探索的因子分析結果 
概略性、詳細性、希少性

旅行先候補となった観光地へ過去に訪れたことがあると、概略性に関する情報ニーズが弱くなる一方で、希少性に関する情報ニーズが強くなるという仮説通りの因果性が確認された。 

■ テーマ2:再来訪に対する旅行経験の影響 

1 「観光資源に関連する認知的経験」自然、歴史、文化といった観光資源の利用に関する経験
2 「サービスに関連する認知的経験」宿泊、飲食、交通といったサービスの利用に関する経験
3 観光資源とサ ービスの双方の利用が関係することによって生じる経験

・認知的経験に関する項目の探索的因子分析結果 
「非日常満喫」「アメニティおもてなし感」「自然文化」「歴史」

再来訪の可能性を高めるためには、旅行経験の中でも、複数の観光資源およびサービスに触れることを通じて得られる良質な経験と、ポジティブな感情的経 験をさせることが相対的に重要。

■ テーマ3:観光地に対する愛着とスイッチング・コストが観光地に対 するロイヤルティへ与える影響 

観光地 に対する愛着とスイッチング・コストの双方を高めていく戦略をとることが、操作可能性 や効率性の観点から有効。

観光地に対する愛着およびスイッチング・コストの形成要因として
・観光資源評価
・累積的経験評価
・新奇性評価
・リレーショナル・ベネフィ ット評価(社会的ベネフィット評価、特別待遇ベネフィット評価、信頼ベネフィット評価) 
を仮定。累積的経験評価: 累積的満足と 好ましい思い出の両方の側面

CiNii 論文データベース
https://ci.nii.ac.jp/naid/500001352263