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【読書メモ】民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版]

別冊ジュリストで、民法の判例(家族法)が取り上げられていたので、ざっと読んでみました。
※当方は法律の専門職ではありませんので、あくまで素人の読書メモです。

別冊ジュリスト No.264
民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版]
大村 敦志・沖野 眞已 編 (有斐閣 2023年)


父母別居中の面会交流権

  • 最高裁平成12年5月1日第一小法廷決定

  • 関西学院大学教授 山口亮子

事実の概要
(略)
Xの不貞行為が原因で夫婦関係が悪化し,Yは平成6年8月にAを連れて転居した。(略)
調停継続中,同年12月頃から月1回ないし2回程度,調停終了後は月2回,XとAとの面会交流が行われており,平成8年5月までは特に問題もなく継続されていた。しかし,Yが申し立てた離婚訴訟の和解案をXが拒否したことから,Yは面会交流を拒否するに至り,これによりXはAの下校時に待ち伏せたり,Yのマンションを訪れたりなどした。(略)

民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版] P42

本書の記述だけでは事実関係が明らかではありませんが、「離婚訴訟の和解案をXが拒否」の争点は何だったのでしょう? 
いずれによせ、「下校時の待ち伏せ」「自宅訪問」などは、さらに状況を悪化させたのではないでしょうか。

本決定の意義
(略)
本決定は,これまでの裁判実務を是認し,婚姻中の父母が別居して子の監護に関して協議が調わないときは,民法766条を類推適用し,現家事事件手続法39条・別表第2第3項を準用して,家庭裁判所が面会交流の内容を審判により定めることができることを,最高裁で初めて判示したものである。

民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版] P42

別居中についても、民法766条を類推適用し、面会交流の内容を審判で定めることができると、平成12年(2000年)に判示されています。
しかし、共同親権運動においては、子連れ別居した妻を「誘拐犯」「児童虐待」などと誹謗中傷しながら、一方で面会交流の申立ては拒否するといった行動が賞賛されています。

面会交流の判断基準
現代の実務は,子と別居親との適切な面会交流は,基本的には子の健全な成長に有益なものと解している(細矢郁ほか「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家判26号129頁)。これについては反対派も異論はなく,面会交流が制限されるか否かは,事実認定に基づく判断基準の問題であり,子の利益に対する評価の違いによる。そこで,以下のような事由が,面会交流の審判において問題となる。
(略)
①子の意思
(略)
②別居親の暴力等
(略)
③監護親の再婚と継子縁組

民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版] P43

2012年からの「面会交流原則実施論」の運用により、DV・虐待ほか、子どもと同居親にとって過酷な状況での面会交流が、裁判所によって命令されてきました。
むしろ、「子と別居親との適切な面会交流は,基本的には子の健全な成長に有益なもの」という固定観念を問い直すべきでしょう。

面会交流はまた,別居中の監護者指定,離婚後の親権者指定においても重要な位置づけにある。裁判所は子の利益を判断する際,子が別居親から捨てられたと感じず,双方の親からの愛情を実感できるよう,子と別居親との交流を促進させる寛容な親を監護者・親権者に相応しいととらえ,監護者指定や親権者変更の考慮要素としている(東京高決平成15・1・20家月56巻4号127頁、大阪高決平成17・6・22家月58巻4号93頁、東京高決平成30・5・29判タ1458号186頁、大阪高決平成30・8・2家判28号119頁)

民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版] P43

いわゆる「フレンドリーペアレントルール」の思想に基づく決定が出されていたことを示しています。
「子と別居親との交流を促進させる寛容な親を監護者・親権者に相応しいととらえる」という思想が、裁判官らに先入観を与え、DV・虐待の実態を見落としてきた。これが、海外の被害実態から、日本が学ぶべきことです。

面会交流の間接強制

  • 最高裁平成25年3月28日第一小法廷決定

  • 早稲田大学教授 髙田昌宏

決定要旨
(略)
子の面会交流に係る審判は,子の心情等を踏まえた上でされているといえる。したがって,監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判がされた場合,子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは,これをもって,上記審判に係る面会交流を禁止し,又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別,上記審判に基づく間接強制決定を妨げる理由となるものではない。

民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版] P44

「原審は、子の心情等を踏まえた上で決定されているはずだ!」というタテマエが展開されていますが、家裁でそのように丁寧な運用ができているのでしょうか? 審判決定後、子どもの状況の変化は、どう確認されるのでしょうか?

本決定の意義
(略)
①面会交流を命じる審判を監護親が履行しない場合に,その審判に基づいて間接強制(民執172条)ができることと,②審判において面会交流の日時などの一定の事項が具体的に定められ,監護親のすべき給付の特定に欠けるところがない場合には,間接強制ができることを,最高裁として初めて明らかにした点で特に重要な意味を持つ。

民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版] P44

このような「間接強制」が、子どもと同居親を、どれほど追い込んできたことでしょうか?

子の拒絶意思の取扱い
(略)
本決定後,子の拒絶を理由に間接強制の可否が問題となった裁判例が複数現れており,間接強制手続の枠内で子の拒絶等を考慮するものがみられる(その結果,間接強制の申立てを却下した例として、大阪高決平成29・4・28判時2355号52頁、名古屋高決令和2・3・18判タ1482号91頁ほか)。

民法判例百選Ⅲ 親族・相続[第3版] P45

2012年の「面会交流原則実施論」以降、当該の子どもたちも成長し、無理に決定した面会交流のひずみが露わになってきています。

法制審議会で、離婚後共同親権について議論をするのであれば、「面会交流原則実施論」以降の実態調査が不可欠です。

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