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共同親権における問題点のポイント(自由法曹団)③紛争増加・濫訴対策

離婚後共同親権を導入する民法改正について、自由法曹団が、衆議院法務委員会での審議からの問題点をまとめました。
この記事では、論点ごとに分けて、その内容を掲載します。



Q.これまで単独親権だったが、共同親権が可能になると、離婚後に親権を得られなかったことに納得していない親が、親権変更の調停を申し立てることが予想されるが、DV等を受けて離婚して生きている親にとって悪夢となるが、どのような対策があり、どの程度防げるのか。

A.子の利益のために必要な場合に限定しており、かつ、DVや虐待の場合のほか、父母が共同して親権を行うことが困難である場合には変更できないとしている。
(令和6年3月14日衆議院本会議 米山隆一衆議院議員)

【問題点】
具体的な対策について言及はなく、どの程度防げるかについても明確に回答していない以上、具体的な対策が講じられていないといわざるえない。「子の利益のために必要」か否かの判断基準として819条8項に定められている諸事情が「子の利益」とどのように関係するか不明確であり、日本において最も多い、調停によらない、公正証書も作成せずに離婚届を出したのみの離婚のケースでは、容易に単独親権から共同親権への変更が認められうる。※家庭裁判所が実際にDVや虐待を見抜けずスクリーニングできていなかった実態があるのに、その検証と対策が法制審でも全く無視された。2012年細矢論文以降、大原則面会交流実施となり、DV虐待被害者に大変な無理を強いたからこそ、裁判所も後にようやく方針を転換するに至ったのである。細矢論文以降の家裁の問題については、小魚さかなこ弁護士(岡村晴美弁護士)のこのツリー等参照 https://twitter.com/KSakanako/status/1521823166653366273

  これと同様に、家庭裁判所がDVや虐待を適切に除外できないことはおおいにあり得る。身体的DVだって証拠が不十分なことは珍しくないが、精神的DV,性的DVなど証拠が残りにくい。そもそも、数年前の離婚前のDVの証拠など既に破棄していて証拠がないということも多いはず。また、協議離婚にも多数のDV事案があることについて無策すぎる。家庭裁判所に持ち込まれないDV離婚案件が多いのに、家裁での対策ばかりいってもダメ。本当に共同親権を導入するなら、協議離婚制度自体の抜本的改革もセットでなくてはならないはず。


Q.新たな紛争の多発が懸念されるが、どう対応するのか。

A. 不必要な紛争が多発するとは考えていない。
(令和6年3月14日衆議院本会議 本村伸子衆議院議員)

【問題点】
紛争が増えることについて、「不必要な」という形容詞をつけることで、紛争が増加する問題を直視しない回答である。紛争が多発の懸念があることは明白。①数年前に離婚した元配偶者から、共同親権変更希望を申し立てられた場合、家裁に申し立てる必要がある。②監護の分掌について父母で意見が一致しない場合、家裁に申し立てる必要がある。③離婚後に子の氏を変更し、復氏した母と同じ氏にしようとしたら父が反対した場合、家裁に申し立てる必要がある。④離婚後に監護親母が再婚し、再婚相手と子を養子縁組しようとしたら父が反対した場合、家裁に申し立てる必要がある。⑤コロナワクチンの接種をさせたい母と、させたくない父で意見が一致しない場合、家裁に申し立てる必要がある。⑥歯列矯正をさせたい母と、反対する父で意見が一致しない場合、家裁に申し立てる必要がある。⑦留学のためパスポートを取得したいが、留学に反対する一方の親が取得に同意しない場合、家裁に申し立てる必要がある。


Q.学校や病院に対する濫訴の防止策は。

A.現行法においても、不当な目的でみだりに調停の申立てがなされた場合には、調停手続をしないことによって事件を終了させる。
本改正案では父母相互の協力義務を定めているところ、不当な目的でなされた濫用的な訴え等については、個別具体的な事情によってはこの協力義務に違反するものと評価されることがあり得る。このことがそのような訴え等の防止策になる。
(令和6年4月2日衆議院法務委員会 道下大樹衆議院議員)

【問題点】
学校や病院に濫訴等の防止策が何かという問いに対する回答になっていない。
学校や病院において、困難な判断を強いること、法的リスクを回避すべく、子の利益に反する取扱いがなされる危険性がある。
実効性のある、具体的な防止策ではない。すなわち、民事訴訟上の訴権の濫用は、実務上、極めて例外的にしか認められないものであるという認識がまったくない。


Q.元配偶者の両親や元配偶者を弁護した弁護士を被告にするリーガルアビューズの実態について、調査をしたことがあるのか。

A.シングルマザー・ファーザーのうち、11%が法的な手続を悪用した嫌がらせを受けたことがある。
祖父母や弁護士に対する乱訴について調査したものはない。
(令和6年4月2日衆議院法務委員会 道下大樹衆議院議員)

【問題点】
悪用の実態があるにもかかわらず、具体的な対策がない。

祖父母や弁護士に対する濫訴によるシングルファーザーやシングルマーザーの応訴の煩、時間的・精神的負担等により、真に子の利益に即した解決に至らないリスクを考慮すべきである。

特に、DV被害者に寄り添う弁護士に対する業務妨害や不当な濫訴・懲戒請求が生じている実態があるところ、これらにより、子の利益を図る代理人の業務に支障が生じ、その結果、子の利益に反する結果を招来させるおそれがある。


Q.留学のためのパスポートを取得したいが、留学に反対する一方の親が取得に同意しない場合、家裁に申し立てる必要があるということ等の紛争は本法律案によって多発していくことになるのではないか。

A.必要な判断、必要な件数の増加は当然あり得る。必要な判断と不必要な紛争はやはり分けて考えなければいけない。
(令和6年4月2日衆議院法務委員会 本村伸子衆議院議員)

【問題点】
必要な判断が増えるということは、紛争が増えるということであるところ、現状、その判断をする家庭裁判所の人的・物的体制が不十分であるために、子の利益に反する結果をもたらす危険があるということである。今後、具体的にどのような体制を構築するかによって、本法律案の評価が変わりうるのである。



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