(閲覧注意※大人向け)賢いカラスと、出来の悪い男の子

あるところに、あまり出来の良くない男の子がいました。
「お前はどうして、顔も良くないし、頭もいまいちだし、
おまけに気が利かないんだろうね。
お母さんは、お前がうちの子で恥ずかしいよ」
というのが男の子のお母さんの口癖で、
男の子はお母さんがそう言う度に、
消えてしまいたいような気持ちになるのでした。

男の子は悩みました。
「僕はどうすればもっと出来の良い子になれるだろう。
どうすればお母さんを喜ばせることが出来るだろう」
すると、賢そうなカラスがやってきて、こう言いました。
「なら良い子になる努力をしなさい。
色んな人に自分の悪いところを聞いて、
それを少しずつ治していきなさい」
男の子は早速それを試してみることにしました。

男の子が、自分の悪いところを教えてくれる相手を探していると、
森から熊がやってきました。
男の子は森の熊に聞きました。
「僕のどこが良くないと思う?」
熊は言いました。
「その細っこくて折れそうな腕がよくない。それじゃ頼り甲斐がない。
こっちのと交換するといい」
男の子は、なるほど確かにその通りだと思い、
言われるままに自分の腕を丈夫で太い木の枝と交換しました。
男の子の腕は逞しく立派になりましたが、重くて持ち上げられなくなってしまいました。

男の子が重い両腕を引きながらのろのろと森をさ迷っていると、
こんどは狼に出会いました。
男の子は森の狼に聞きました。
「僕のどこが良くないと思う?」
狼は言いました。
「そのとろくさい足がよくない。それじゃおつかいに行くにも日が暮れちまう。
こっちのと交換するといい」
男の子は、なるほど確かにその通りだと思い、
言われるままに自分の足を丸くて早く転がる車輪と交換しました。
男の子の足は確かに早くなりましたが、
ハンドルがないので男の子はまっすぐにしか進めなくなくなってしまいました。


男の子が車輪の転がるままに谷に下りてくると、やがて下り坂が終わり、
男の子はどこにもいけなくなってしまいました。
そこへ、あの賢そうなカラスがやってきました。
「やあ、カラスさん、今カラスさんの言うとおりに、僕の悪いところを聞いてまわっているところさ」
「そうかい、それはいい心がけだ」
満足そうに頷くカラスに、男の子は聞きました。
「君は、僕のどこが良くないと思う?」
カラスは言いました。
「その、濁った色の、あっちこっちにうろうろする目玉が良くないね。それじゃあみんな、お前と話すのも嫌になってしまうよ。
こっちのと交換するといい」
男の子は、なるほど確かにその通りだと思い、
言われるままに自分の目玉を透き通ったガラス玉と交換しました。
男の子の目はきらきらして、おまけにきょろきょろしなくなりましたが、
男の子は何も見ることができなくなりました。

男の子は真っ暗な谷底に、静かに横たわっていました。
もう、話す相手も現れません。
その時、遠くから熊と、狼と、カラスの楽しそうな声が聞こえてきました。
「やあやあ、久しぶりに新鮮な子供の肉が食えるぞ」
「カラスくんはやっぱり賢いな」
「まったくその通りだ、ああやって自分から腕や足を差し出させるなんて、なかなか思いつかないことさ」
男の子は騙されたことを知り、自分の愚かさが悔しくて泣きましたが、ガラス玉の目玉からは涙もでません。

「お母さん、僕はお母さんの自慢の子供になりたくて、頑張ったんだ、見ておくれ」
たまらず、男の子は叫びました。
何度叫んでも、返事はありません。
それでも諦めずに、男の子はお母さんを呼び続けました。
やがて、のどが千切れそうになって、声も出なくなってきた頃、ようやく男の子の耳に声が聞こえました。
それは懐かしい、お母さんの声でした。
「お前は何を言ってるんだい、私はこんな、腕と足のちぎれた、目玉の動かない、へんてこで、気味の悪い子を産んだ覚えはないよ」
男の子はまた泣きました。
なんということをしてしまったのでしょう。
何があっても、大切な自分の手や足や、目玉を手放すべきでは無かったのです。
男の子はそれに気が付きましたが、もう何もかもが遅すぎたのでした。
失った自分の手や足や目玉は、どうやっても返ってはこないのです。

棒切れの腕と、車輪の足と、ガラス玉の目を持った男の子は独りきり、暗い谷底で泣き続けるのでした。


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