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愛想笑い

「○○さんのいい所は笑顔だね!」
そう言われることが多い。私の長所は何処か、という話になれば必ず挙げられるものだ。

鏡を見てにっと口角を上げてみる。頬の裏側が見えたら印象的に残る笑顔の証らしい。ふむ、なるほど。観察した所、私はそれに該当するらしい。

昔、私は可愛くない子供だった。幼稚園で撮った集合写真を見ると口を一文字に引き結んだ私が写っている。

何を考えてるか分からないと小6の担任からヒステリックに叫ばれた。何をしたかはもう忘れたが、先生が私を見る目は完全に妖怪か何かを見る目だった。

子供の私なりに理由があってした事でも大人の先生には分からなかったようだ。先生の機嫌など伺わない我が道を行く私は、愛想笑いなど一切浮かべなかった。私を非難してきた大人には尚更、むすくれた表情をしていたことだろう。

そんな事をしていたから大体、先生には嫌われた。他の生徒と微妙に足並みが揃わない私は目の上のたんこぶ。当時の私は分からなかったが、今思うとさぞ邪魔だった事だろう。

嫌な大人には使う表情筋は無いといった態度は高校生になっても変わらなかった。しかし、大人に訳もわからず嫌われるのは少し堪えた。だが、解決方法も分からなかった。

ある日、クラスのいつもニコニコ笑った女の子が先生と話していた。
「宿題忘れただろう、何故忘れたんだ。」
「忘れてて〜。」
あの先生は厳しいことで有名だ。注意を受けていると言うのに、その女の子はいつも通り笑顔を浮かべていた。眉を潜めた担任教師はため息をついた。
「はぁ、笑って誤魔化して機嫌を取るのはやめなさい。」

笑って誤魔化す…!?私は思わず、女の子を凝視した。
苦言を呈されたにも関わらず、やはりニコニコと笑ってる。
笑って誤魔化されるものなのか!?と私には衝撃が走った。ご機嫌伺いなどしなかった私にはない発想だった。愛想笑い、という概念が私に生まれた瞬間だ。

それから私はぎこちない笑顔を振舞いだした。自分を改革することにしたのだ。その女の子を見習い、常に笑顔をキープした。

最初は頬が引き攣れ、慣れないことに疲労した。でも毎日毎日、笑顔を作る内に自然に笑えるようになった。小6の担任が見たら「別人だ!!!!」と腰を抜かすほど驚くだろう。

今では皆さんご存知の通り、百点満点の笑みを型どる事が出来る。処世術をひとつも持たなかった私の武器となった。鉄仮面の私はもう居ない。
笑顔で人に歩みよる事を覚えた私は以前より人に嫌われなくなった、筈だ。

悪く言われる事もある愛想笑いは、そう悪いものでも無い。仲良くなりたいから、よく思われたいから表情を柔らかくするのだ。それは、人と関係を持つ第一歩となる努力だ。私はそう思う。

笑顔で乗り越えられない事はもちろんある。それでも、私は願いを込めて笑うのだ。

言葉にできない気持ちが届きますように、と。

おしまい

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