コインランドリーのノート
大学4年生の秋の出来事である。
この時期、普通だったら内定が出て
内定式に参加したり
卒論に向けて頑張ってる…時期だったのだが、
コロナ化の影響で内定取り消しになり、
そこから受けても受けても内定が出ない、
いわゆる『NNT』に私はなっていた。
流石に焦った私は一大決心をし、
1週間大阪に連泊し片っ端から面接を受けまくる
『弾丸就活旅行』を決行した。
駅の近くのホテルに連泊し
毎日毎日説明会だの面接だの
いっぱい足を運んだ。
何泊もするのだから着替えは沢山いるが
お金のない学生である。
スーツやカッターシャツなんて沢山持っていない。
連泊して何日目かのある日、
シャツ類を全部洗濯乾燥しようと
ホテル近くのコインランドリーに向かった。
チェーン店でない地元民が使うであろう少し年季の入ったコインランドリー。
入店した時は誰も居なかった記憶がある。
洗濯から乾燥までなかなかの時間がかかるので、
暇つぶしにケータイを触ったりしていたのだが、
ふと店内の端の方にキャンパスノートがぶら下がっているのが見えた。5冊ぐらいあった記憶がある。
No.5と書いてあるノートを開くと、どうやらコインランドリーのお客さんと店主の交換ノートらしい。
乾燥が安くて助かってるだの
そろそろ新しい漫画を置いてくれだの
◯◯県から来ました!!だの
様々だった。
印象的だったのは、店主が一つ一つに丁寧にメッセージを残しており、常連と思われる人達がそれにまたメッセージを追加していく・・・そんな感じのノートだった。
気がついたら私はノートに書き込みをしていた。
就活が上手くいかないこと。
大阪に住みたい事。
とにかく誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
それから紆余曲折あり、何とか今の職場に内定をもらい、大阪生活が決定する。
そして今度は『弾丸家探し旅行』の為、また大阪の地に足を踏み入れた。
家探しを終えた辺りでふと、コインランドリーのノートを思い出した私は、またあのコインランドリーに向かっていた。
もしかしたら返事があるかも…そんな期待をして。
着いて真っ先に店内の隅にあるキャンパスノートをパラパラめくる。
そして見つけた、必死だった頃の当時の文章。
そこにある温かい返事。
私は新しいノートを開き、こう書いた。
「4月からよろしくお願いします。」と。
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