シベリア抑留

※この文章は僕のアメブロ『誇りを失った豚は、喰われるしかない。』に2010年2月25日に投稿した記事に大幅な加筆訂正を施したものです。

かつて僕が山崎豊子の小説『不毛地帯』(新潮文庫)を読んでいた時に思い出したことです。もう鬼籍に入ってしまっているのですが、僕の母方の大叔父の一人に当時、親戚一同が一堂に会することがあると決まって自分のところに幼少時の僕を呼び寄せては直立不動で最敬礼をさせるファンキーかつナイスな方がおりました。

しかし、その大叔父は戦後、シベリアに抑留されたことがあるのだと、ドラマ版の『不毛地帯』を見ていた時に母から後に聞いたことがあったのでした。

その時僕は

「ええぇ!?」

と素っ頓狂な声を上げることしかできなかったのでした。まさか自分の身内にそんなことを体験した人間がいたとは! ドラマ版『不毛地帯』の最初のほうで主人公の壱岐正がシベリアに11年間の過酷な抑留生活の描写があるのですが、大叔父は壱岐正ほどの高官ではなく、抑留された多くの人々と同じく一平卒であろうと推察されるも、平和ボケした現在の日本に生きる僕からは想像もできないほどの筆舌に尽くしがたいほどの経験をしたのだと、ずいぶんと時がたったとはいえ、改めて大叔父のことを思わずにはいられませんでした。

その証拠に、大叔父はシベリアでの抑留生活で見聞きし、あるいは体験したことについて、僕を含めた身内にさえ一切口外せずに墓場にまでもって行ってしまったのでした。繰り返しになりますが、やはり想像を絶することを経験をしたのでしょう。

ここから先のことは不遜を承知で書くわけですが、大叔父には当時のことを少しでも無理を言ってでも話してもらえばよかったと。返す返すも残念でならないのです。そう思ったのは先日『新装版 凍りの掌 シベリア抑留記 (KCデラックス BE LOVE)』(おざわゆき著 小池書院)を読んだからでありまして、そこには作者であるおざわゆきさんの父親が語るシベリア抑留体験を聞いてまとめられたものであり、シベリアでの抑留体験のもつ闇が、いかに深いものだったかが察せられたからでありました。

そこに描かれていたことの極めつけは『暁に祈る』というノルマを達成できなかった人間を木に縛り付け、一晩冬空に放置していると翌朝そのように見えたというなんとも壮絶なエピソードであり、大叔父もそれを見ているからと推察しているからです。

すべては「白い闇」のかなたの出来事ですが、僕が本稿を描いている理由は、かつてそういうことがあったのだと「なまなまと」覚えておきたいし、できればこの文章を読んでいる若い人とも共有したいと思っておきたいと思っております。

●参考資料

・『不毛地帯 全5巻完結セット (新潮文庫)』(山崎豊子, 新潮社)

・『新装版 凍りの掌 シベリア抑留記 (KCデラックス BE LOVE)』(おざわゆき, 講談社)

DVD

・『不毛地帯 DVD-BOX 1』(2009年/演出澤田鎌作 平野眞 水田成英ほか)

・『不毛地帯 DVD-BOX 2』(2009年/演出澤田鎌作 平野眞 水田成英ほか)

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