コロナ禍のJohns Hopkins留学記録 【ビザ無効化の衝撃と大学で体験した感染症対策】
記録背景
2020年3月~9月:混乱の連続
記憶に残るダイヤモンド・プリンセス号のケースが2020年2月。欧米諸国でもじわりと危機感が醸成されてきた時期です。3月はアメリカの大学にとってキャンパスビジットの期間で、合格をもらった大学の中からどこに入学するかを指導教官との面談や先輩の話を聞きながら決める大切なイベントがあり、私も渡米をしていくつかの大学を回りました。
他の大学が消毒グッズを配るなどしながらキャンパスビジットを実行する中、BSPHは開催3日前に完全オンラインへの切り替えを発表。全ての行程がZoomで行われました。
その後、BSPHに入学を決めた私はビザの準備や、フライト・住居の確保などを進めました。当初大学側は、ハイブリッド形式(オンラインとin-personの組み合わせ)での授業展開を計画し、学生ビザ等も例年通りの発行が進んでいました。
しかし、アメリカでの感染拡大を受け、BSPHやハーバードSPHなど複数の大学が6-7月頃に全ての授業をオンラインに変更することを決定。同時期にトランプ大統領のリーダーシップの元、全ての授業がオンラインの場合の学生ビザの発行停止をアナウンス (Presidential Proclamation on immigration issued June 22) され、留学生に大混乱がおきます。
既に発行されているビザ書類が無効となり、オンキャンパスでの授業が一つ以上あることを証明できる書類や、研究活動の為にキャンパスに行く必要性がある旨(Wet系のラボなど)を示す書類の提示が学生ビザでのアメリカ入国の条件となりました。
それぞれの研究室に方針を任せる/1単位のみの臨時オンキャンパス授業を開講するなど、留学生を受け入れる方針を示す大学がある一方で、BSPHはパンデミックの深刻さを鑑み、世界中から留学生をキャンパスに呼ぶことはできないとの判断を示しました(2020年8月3日 OISからのメールで通知)。授業開始20日前にして、ビザの入手が不可能となった私たち留学生には3つの選択肢と10日間の決断猶予が与えられました。
従来、入学の延期を認めていなかったBSPHにとっては(2)の選択肢を入学直前にも関わらず準備したことがせめてもの誠意だったように思います。(ハーバードのMPHなどは入学延期が認められず、(1)しか選択肢がない友人もいました。)オリエンテーションの質疑応答では、パニックのあまり泣き出す学生もおり、混乱を極めました。
「この決定は公衆衛生のためだから、BSPHに来る皆さんなら、理解してくれると信じています」という決まり文句が繰り返されるたびに、酷な言葉だなぁと自分ではどうにもならない大局に胸を詰まらせたものです…
入学延期の決断
結局、私は8月22日(当初の渡米予定3日前)に入学の延期を決断。フライトや住居など全てをキャンセルするに至りました。私のプログラム(MSPH, Health System)では全ての留学生が2020年の入学を断念。Department of International Healthとして異例の留学生ゼロ人のコホートとなりました。
2021年8月: 渡米と大学の感染対策
1年後、待ちに待った渡米です。入学延期を決断した留学生が多かった為、コホートのサイズは過去最大になり、ほぼ倍の総数になった学生が大学事務のキャパを取り合うような、カオスな留学が始まります :>
大学からアナウンスされていた感染対策を下記にまとめます。
(1) ワクチン接種の徹底
健康/文化/宗教上の理由のない全ての学生・スタッフが1ヶ月程度の期間内にジョンソン・エンド・ジョンソン、モデルナ、ファイザー社製のいずれかのワクチンを2回接種することが義務付けられました。他社のワクチンは認められず、例えばアストラゼネカ製を3回打ってから渡米した英国からの留学生も追加で2回の接種が必要でした。これにはGlobal Equityや安全性の観点から学生からの抗議も起こりましたが、方針は覆ることはありませんでした。
ワクチンの接種状況がシステム上で管理され、定期的に接種完了者の%がメールで知らされたり(9月中旬時点で95%程度)、接種した人のみが学生証と一緒に携帯できる黄色のカードが提供されたり、「打たない」という決断はほぼできない仕組みが徹底されていました。
(2) ハイブリッドな授業体制
授業は、50人以下の場合に限りin-personでの提供が可能となりました。
但し、in-personの授業であっても臨時的にオンライン参加ができる体制を整えることが必須となり、ほぼ全ての授業が録画されるようになった為、留学生としては復習がとてもやりやすい体制にもなりました。
BSPHはパンデミック前から、CoursePlusというオンラインシステムが導入済みであったこともあり、ハイブリッド形式への移行を苦に感じたことは特にありません。オンライン式の講義でも、録画された授業を3時間分見て、1時間程度のZoomのライブ講義に参加するetc多様な授業形式が取られています。
(3) 毎週の唾液PCRスクリーニング
BSPHの学生全員が毎週のPCR検査を義務付けられました。陽性だった場合は学校の保健チームに連絡され、自己隔離の案内及びコンタクトトレーシングと濃厚接触者への自己隔離勧告が行われました(トレーシングは12月に廃止)。 PCRの受検をサボると、学内システムへのアクセスが遮断されるという強行システムでした。
(4) その他:マスク・密・健康チェックアプリ
屋内でのマスク着用が義務付けられ、学校関連のイベントでの食べ物の使用が禁止されていました。また、マスクを外す際にはテーブルの定員を1人とするなどの細かい決まりもテーブルにポップアップをたくさん置く形でアナウンスされていました。
ただ、秋の段階では布製のマスクをつけている人が教員にも目立ち、不織布マスクの推奨が進んでいた日本よりマスクに関する規律は緩い感覚を受けました。
その他、毎日自分の健康状態を入力して「キャンパスパス」を入手するアプリなども最初は運用されていましたが、いつの間にかなくなりました… 大人数が習慣化できる感染対策の数には限りがあるのでしょう…
2021年11月:オミクロン株とブースター
11月26日、WHOがオミクロン株を懸念される変異種に指定し、その感染力の強さからアメリカでも感染の拡大が続きました。12月に予定されていた多くの期末試験が完全オンラインに切り替わり、冬休みを前に再び厳戒態勢のアナウンスが大学から繰り返されました。またPCRのスクリーニング義務が全員毎週2回に増えました。
(1) ブースター接種:ワクチンカードと接種会場
ワクチン2回の接種から一定の期間が過ぎている学生全員に冬休み期間中のブースターの接種が義務付けられました。
(2) マスク種類の指定
屋内で着用するマスクの種類が以下の3種類に指定されました。
また、高価な医療マスクを手に入れられない学生に向けて2個/週のマスクが学校から配布されました。しかし、これには過剰な資源の無駄使いではないかという学生からの批判も相次ぎました。
2022年6月:With/Post コロナ体制か?
ほぼ100%のブースター接種率にも助けられ、2月ごろには学校関係者の感染状況は落ち着きました。
それから現在6月にかけて、週に1回のPCRスクリーニングを続けながら、マスクポリシー(教室内でのみの着用etc)やスクリーニング間隔(週に1回or 2回)が、前週の陽性者数に合わせて細かくアップデートされ続けています。クラスで陽性者が出た場合には1週間程度そのクラスをオンラインに切り替えるなど、柔軟な授業運営がされています。
学校関連のイベントで食べ物を使うことも許可され、卒業パーティや屋外での卒業式(2年ぶり)も行われました。2022年度はfullu in-personでの授業に復帰することも発表され、このままWIth/Post コロナの道を歩むように思います。
終わりに:いつも演説のようだったメール内容
私はコロナ前のBSPHのことを知りませんが、きっとこの一年、滅多にないパンデミック対策の最前線を見てきたのだと思います。様々なポリシーの変更はトップダウンがほとんどで、突然のメールで生活が変わり続ける数年間でした。
その度に、理解を求める旨のメールが学校のリーダーたちから届きました。
必要な緊張感を学校コミュニティ全体のものとすべく、危機の中での前進を強調して規律の遵守を動機付すべく、演説のようなメールを送ってくる学校のリーダーたちに鼓舞されたり、ふと嫌気がさしてしまったりを繰り返した2年でした。言葉の持つ力は大きいな。
2022年下半期以降はどうかこれ以上の損失が起こりませんように。
いつか、パンデミック下で公衆衛生を学べたことをよく思い出せるように、これからも大学院生活楽しみます!
コロナ禍のJohns Hopkins留学記録、おわり。
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