【16日目】世界三大ガッカリの朝


February 23 2011, 6:05 AM by gowagowagorio

2月15日(火)

それは夜からどうも上手く行かない日だった。
いつもなら1時頃に空腹で目を覚ますミノリのために、12時頃、就寝前にミルクを冷蔵庫から出し、常温に戻しておく。そうすれば温めるのに時間がかからないからだ。そしてそのままベッドで横になる。すぐにミノリの泣き声で起こされるだろう。

ところが、どういうわけか、ミノリの火のつくような泣き声で目覚めて時計を確認するとすでに3時30分だ。前回授乳したのが確か9時頃。6時間半も経過している。それはさぞかし腹が減っているはずだ。すぐにミルクをやらねば。

幸い冷蔵庫から出した哺乳瓶はいい具合に常温となっている。軽く湯煎すれば準備オーケーだ。しかし、なぜか蛇口をひねった水道からは一向に熱い湯が出てくる気配はない。しまった、ガスの元栓を閉められてしまった・・・これは難問だ。ガスの元栓の位置はまったく聞いていなかった。どうするか。その間もミノリは断末魔のような声で泣き続けている。下手をすると、ご近所が通報してしまいそうな勢いの声だ。

3時30分頃というのは普段、最も熟睡している時間。その睡眠を中断されている僕は脳の奥が痺れたような感覚になっている。頭に血が巡っていない。そのうえ、この泣き声が勘に触りかなり苛立っている。水道から流れている水は、かろうじてお湯と思える程度には温度が高い。これでいいか。すでに常温の哺乳瓶はこちらで言えば30℃ということだ。37℃までは温度があがらなくてもさしたる問題はあるまい。そう思い、哺乳瓶を軽く温める。とにかく今すぐヌックをミノリの口に押し込まなくては。その一心である。

申し訳程度に温度が上がった哺乳瓶で授乳を開始するも、ミノリは一口飲んでこれを拒否。さらに音量を上げて泣き叫ぶ。やはり冷たすぎるのか。赤ん坊はデリケートである。そこでようやく目についたのが、エリサが粉ミルク作成用に用意してくれている魔法瓶のお湯だ。なぜこれに早く気づかなかったのか。オレはバカか。泣きわめくミノリを片手に抱え、魔法瓶から丼にお湯を注ぎ、そこで湯煎。今度は完璧な温度だ。こうしてようやくミノリはミルクにありつけたのである。

が、いつもは軽く180ccは飲んでいるミノリが、100cc程度飲んだところでチクビを吐き出す。仕方なく授乳を終えてベッドに置くと、今度は「寝かしつけろ」と要求してくる。ダメだ、今日の僕は辛抱が足りない。もうムリだ。構ってやれない。ヌックのシャブリをミノリの口に押し込み、そのまま就寝。

ところが、またちょうど眠りが深くなった5時30分頃、ふたたび火のつくような泣き声が僕の夢の中に侵入してきた。
やはり。100ccでは足りなかったのだ。だから言ったじゃないか。さっき飲めば良かったのに。いいかげんにしてくれよ。
赤ん坊に対して苛立紛れの恨み言を吐きつつ、粉ミルクを作る。先ほど100cc飲んだばかりなのに、今回も150ccほどを飲み干すミノリ。ちょっと多すぎるのではないか、とも思ったが、本人がチクビを放さないのだから仕方がない。授乳を終えた時点で、すでに6時をまわっていた。眠れたとしてもあと1時間だ。それでも目覚ましを2重にセットしてベッドに横になると、あっという間に眠りに引き込まれた。

一瞬の後に鳴りだしたけたたましいデジタル音も、ミノリの泣き声に比べるとジェントルなものである。さあ起きてナツモを学校へ送り出さねば。何気なく隣で寝ているナツモの尻に手をやる。
・・・やったか。
尻全体がぐっしょりと濡れて冷たくなっている。この小便小僧め。
ここまで濡れていて、なぜオマエはそうグッスリと眠っていられるのか。シーツも広範囲に渡り濡れている。寝相の悪いナツモが股の間に挟んでいた枕もぐっしょりだ。被害は甚大である。まずはナツモを起こしてパンツを履き替えさせねば。いや、寝たままの状態でいいからまずは僕が脱がせるか・・・

そのときである。

長女のオネショの対応に追われている僕の視界の端で、ミノリのムネが大きく波打つのが見えた。「ゔゔゔ・・・」と唸ったかと思うと、次の瞬間。大量のミルクが吐瀉物となってミノリの口から噴出した。かつてないほどの量である。活火山のマグマのように真上に噴出した吐瀉物はミノリの顔全体を覆い、目に入ってしまっている。あまりの量に、ミノリの喉からはごぼごぼと音がしている。これはまずい。窒息してしまう。ナツモを捨て置きとっさに抱えた僕の首もとで、ミノリは再びマーライオンと化す。オシッコにまみれるナツモとベッド。リバースしたミルクにまみれるミノリと僕。マスターベッドルームは地獄絵図である。やはり明け方のミルクの量が多すぎたのだ。いや、その前のミルクが冷たすぎて、消化機能が停止したのか。いずれにせよ、自分が眠たいというだけで、やるべきことが雑になってしまった。赤ん坊は非常にデリケートであるのにも関わらず。やるせない想いとともに、自分がなんのためにここへ来たのかを思い返し、深く反省する。

もっとも、吐いた本人はスッキリとしてしまったようで、既にご機嫌である。朝からこれでは、今日一日どうなることかと気を揉みまくる僕。結局、大変だったのは朝のうちだけで、実に平和な一日を過ごす事になるのだが。


さて、ここからは別のお話。

ナツモには妄想癖がある。このぐらいの年頃なら誰でもあるものなのだろうが、内容が具体的で、なおかつ自分に都合良く捏造されたものが多いのでなかなか面白い。今日は夕食時にこんな妄想を披露してくれた。

「あのさー、おとうちゃんがちっちゃいときね、おやさいたべたくないたべたくないよーっていって、マミーにおこられてたよ。もっちゃんそれみてたんだよ」

そう言えば昨日、その件でナツモは両親から大目玉を食らったばかりだった。だから妄想の中で僕に同じ罪を被せようとしているのだ。

「じゃあ、もっちゃんはもう言わない?たべたくないーって」

「いわないよー、そんなことは。もうおっきいおねえちゃんなんだから」

「ほんと?じゃあ、ゆびきり」

「イヒ」

「・・・」

口約束だけで契約はしない。まるで、噂の東京マガジンで取り上げられる悪徳産廃業者のようである。

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