【178日目】川の字ニュースタイル


July 31 2011, 9:43 AM by gowagowagorio

7月27日(水)

ナツモが終始一貫、良い子のまま終了する、僕が育休の間は、そんな日などあるはずがない、と思っていた。しかし、それは今日、突然に訪れた。

ナツモにはいつもそうあって欲しいと望んでいるし、間違いなくいい事ではある。しかし、ホッとする一方で、少し物足りないというのも、また事実だ。これでは日記のネタにならない。

もちろん、多少の我が儘はあったが、それは子供特有のもので、その程度は想定内だ。こちらが諭して止めているうちは「良い子」と言っていいだろう。今日はまさに、そんな一日だった。

今日は、先日からナツモが所望している「ばたふらいのびーず」を探しに高島屋まで出向いた。

僕は、ミノリを連れて行くか少しだけ悩んだが、ここはエリサに甘えて託す事にした。結果的にはそれが正解で、だからこそ、僕も疲れなかったし、ナツモが愚図る事もなかったのだ。

それにしても、ビーズというのはこんなにも手に入りにくいものなのだろうか。先日、タングリンモールのあらゆる店をくまなく探した時も見つからなかった。それじゃあ高島屋まで脚を伸ばそうと言うことで、ここまで来たのだ。

「百貨店」と言うぐらいだからビーズぐらいあるだろう、とタカを括っていたが、これがなかなか見つからない。おもちゃ売り場には、うんざりするほどキャラクターグッズしか置いていない。

マズいな・・・もたもたして、色々な売り場を渡り歩くのは、できれば避けたい。何故なら・・・

「おとうちゃん、みて、すてっかーがあったよ。ぷりんせすの」

ほら、始まった。

ナツモは目移りが激しすぎるのだ。まあ、それはナツモに限ったことではないのかも知れない。百貨店は子供にとって宝の山だろう。

「ステッカーは買わないよ。今日はビーズを探しに来たんだろ?」

「あの、もうびーずいらない」

そう言う訳にはいかない。ナツモのためでもあるが、乗りかかった船である。ビーズを見つけないと、僕もなんだかスッキリしない。ナツモを諭して他の売り場を探索するが、売り場を移すたびに、その場所がナツモの新たな物欲を刺激する。

「おとうちゃん、ぷりんせすのからーりんぐぶっくがあったよ」

「今日は買わないよ」

「なんで?」

「・・・おとうちゃん、ぷりんせすのばっぐがあったよ。ごろごろのついたやつ」

「今日はダメ」

「なんで?」

ナツモはワラシベ長者よろしく、訪れる売り場売り場でお望みの商品の値段を吊り上げて行く。

ナツモは自分の誕生日が近いことを知っている。そのせいで要望を口にするときも押しが強い。

「もうすぐばーすでーだから、かう」

そんなナツモをなだめすかしながらフロアを徘徊する。

ところが、結局、ビーズ自体はアートショップに売っていたものの、蝶々のカタチをしたものはそこにもなく、ナツモの膨れ上がった物欲のガス抜きに、最初に欲しがった、そして今思えば一番安いプリンセスのステッカーを購入して高島屋を後にしたのである。

帰宅後、ナツモは素直に夕食を摂ると、自ら「おふろはいる」と言ってバスルームへ消えて行った。

あの風呂嫌いのナツモが?僕は半信半疑でバスルームを覗く。すると、ナツモは本当にせっせと身体を洗っていた。

これまでの指導がようやく実ったか・・・

実際は今日だけの気まぐれの可能性のほうが高いとは思うものの、僕は思わず苦労した日々を振り返り、感慨にふけった。

ナツモが自発的に入浴を済ませたため、風呂上がりでもまだ遊ぶ時間が残っている。ナツモが「おえかきしたい」と言うので、僕はそれを快く認め、僕自身もそれに付き合う事にした。

その時、僕は持っていたペンで机を叩いてリズムを取っていた。すると、ナツモがしたり顔で僕を嗜めた。

「むにーがおきちゃうから、やめてあげて」

「・・・あ、はい。ごめん」

確かに、ベッドルームでは既にミノリが眠っていた。コイツはなかなか学習能力が高い。ナツモのこの台詞は、昨日、自分が何故怒られたのかを完璧に理解している証拠とも言えるだろう。

しかし、理解する事と、実践する事とはまったくの別問題だ。それまで「良い子」だったナツモは、一日の最後の最後で、先ほど僕を嗜めていたクセに、昨夜と同じ過ちを犯した。

寝る前に、僕がバスルームで歯を磨いてやっていると、上機嫌なナツモは大きな声で笑い、奇声を上げ始めたのである。何がツボなのかは分からない。僕は特にふざけず、至って普通に歯ブラシを動かしているだけなのだ。

「もっちゃん、むにーが起きちゃうから、シーね」

バスルームからベッドルームを覗いたナツモが笑いながら言った。

「ひひひ、もうおきてるよ」

・・・なんだって?

僕の身体に戦慄に似たものが走った。さっき見た限りでは、ミノリは完璧に熟睡していた。ミノリにはナツモの声を敏感に察知するセンサーが付いているのではないだろうか。

起きているならお咎めナシと判断したのだろう、ナツモはミノリへのいるマットレスへ突進し、ダイブする。

「おい、やめろ!興奮させんなよ!もっちゃんは早く寝て!」

決して怒鳴っている訳ではないものの、これから始まる抱っこ地獄を想像して思わず声が尖る。

「・・・あの、ぽりぽりは?」

「しないよ!もう、オマエは最後で良い子じゃなくなったな」

「ちがう、もっちゃんはおこしてない」

ナツモの主張は間違ってはいない。確かにナツモが起こしたとは言えないよな。ミノリがナツモの声に恐ろしく敏感なだけなのだ。

僕はミノリを寝かしつけようと抱き上げていたが、考えを改める事にした。

ベッドでうつ伏せになるナツモの横にミノリを置いて、自分もベッドに寝そべると、ミノリを挟む形でナツモの背中を掻くためにパジャマをめくる。ミノリが動いたら動いたで仕方ない。ナツモを寝かせてから抱き上げればいい。

そう思っていた。

ところが、意外な事に、ナツモの横に寝かせたミノリは、安心したようにナツモのほうへ寝返りをうつと、ナツモの腕にそっと自分の手を置いてじっとしている。

ナツモもミノリの方へ顔を向けて目を閉じると、そのままじっとしている。ほどなく、二人はほぼ同時に眠りに落ちた。

父親と娘二人という、珍しい川の字を形成しつつ、僕はこの姉妹の絆の強さに再び感銘を受けたのだった。

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