【175日目】Two kids, No wife. (No maid)


July 30 2011, 1:40 AM by gowagowagorio

7月24日(日)

アキコ不在の期間で、本当の意味での試練と言えば、今日だろう。今日は頼れる仕事人エリサの貴重なオフである。すなわち、本当の意味で僕が育児のすべてをこなさなくてはならない一日なのだ。

育休を2/3消化したところで、まさかこんな局面を迎えて狼狽えるとは思わなかった。なんとかなるだろうと、いや、俺はできると昨晩から自分に言い聞かせていたが、いざ始まると、これが実に大変だった。

ナツモは、構ってやらないと寂しくてストレスを溜めてしまうウサギみたいな生き物だ。休日となれば当然、朝から晩まで、僕にまとわりついて来る。無理も無い。遊び相手が僕かミノリしかいないのだ。

ナツモにとって、遊び相手としてのミノリはまだ、動くぬいぐるみ程度のポジションだし、アキコを指名したくても、今ここにはいない。もしかしたら、ナツモとしても、「おとうちゃんしかいないから、しょうがない」と、僕で妥協している部分があるのかもしれない。

しかし、今日、僕にはナツモのそんな気持ちを心得ておく余裕などなかった。近頃ぐっと人間らしくなったミノリもまた、構ってやらないと寂しくてストレスを溜めてしまう生き物へと変貌しつつあるからだ。

加えて、いつもならある程度ミノリを放置しても、エリサの目配りがあるという無意識の安心感からナツモとの遊びにも集中できたが、僕しかいないとなると、いつも目の届く範囲にミノリを置いておかないと気が気で無い。

ただでさえ、流血沙汰や転倒事故が耐えない近頃だ。しかし、どんなに気を配っても、ナツモがぽんぽん床に放り出して行く玩具やペンなどすべてを即座に拾う事はできない。僕が食器を洗っている間に、ミノリがいつの間にかそれらを食べている事などザラである。

特にペンや、その他、棒状の長い物をミノリが掴むと、非常にナーバスになる。「間接尖端恐怖症」とでも言えるだろうか、はずみでミノリが目に刺さないか、本人でなくても、ナツモの目に刺さないかと気が気でないのだ。

ナツモにも「気をつけろ」と口がレモン汁で溢れるぐらい言い含めているのだが、ナツモは矢吹ジョーばりに、わざとミノリの前に顔を差し出す傾向にある。困ったものである。

見方を変えれば、こんな機会などめったにないのだから、3人で何処かへ出かけるべきだろうと思う。が、午前中からダラダラと家で過ごし、昼食が終わっても、一向に外へ出る気分にならなかった。

ミノリに離乳食を与え、ミノリ以上に食事に手がかかるナツモになんとか食べさせ、その後、ナツモの「あそんでよ」の嵐を浴びつつ、ミノリの傍若無人な徘徊に目を配りながら自分が食事を摂り、食器を洗い終わると、まさに、どっと疲れが出た。

ソファに長々と横たわる僕に向かって依然としてナツモがまとわりついてくる。

「あそんでよー」

「分かった、ちょっと休憩してからね」

「だめ!いーま!」

ナツモの主張は子供として当然だ。しかし、僕は、咄嗟にナツモを対等な立場の人間として捉え、そして懇願していた。

「頼むよ、おとうちゃんにもちょっと自分の時間ちょうだいよ」

無意識に出た台詞に自分が驚いた。たった一日でこのザマである。本当に、これをお手伝いさんなどなしでこなしている真の育休戦士を心から尊敬する。

僕を値踏みするような目で見下ろしていたナツモが両手の平を身体の前でほとんどくっつきそうなぐらい近づけて「こんぐらいだけね」と、休憩を許可してくれた。

休憩だからといって、一人きりにしてくれる訳ではない。まず、眠りたくても眠れないミノリが愚図り出したので、ミノリを抱える。スタディルームのPCでエイミーワインハウスの訃報を知り、youtubeでPVを鑑賞していると、ナツモが膝に乗って来る。スキャンダルクイーン・ディーバの濃厚なPVを、両膝に、間もなく9ヶ月の娘と、間もなく4歳の娘を乗せながら鑑賞する様は、かなりシュールに見えることだろう。

夕方、さすがに僕が家に居る事に疲れたのと、ナツモの猛烈な要望により、フォーラムのプレイグラウンドへ出向くことにした。今の僕の育児スキルでは、その距離で精一杯だろう。以前、ナツモとミノリを連れてボタニックガーデンには挑戦したが、帰り道でナツモが疲れたと愚図りまくったイヤな経験がある。

ナツモは行きの道、やけに上機嫌で足取りも軽かった。やはりタイクツしていたのだろうと、この瞬間だけは反省する。

フォーラムの屋内プレイグラウンドは、しばらく来ない間に随分と遊具をリニューアルしたようだ。ナツモの目が一層輝く。

ミノリを年嵩の子どもたちに轢かれない場所に降ろすと、様子を観察するためなのか、しばし石に止まったカエルのように動かずにじっと子どもたちの様子を見ていたが、突然興奮したように奇声を発しながらプレイグラウンドの床をバンバンと叩き始めた。僕は真後ろに居たためミノリの表情は伺えなかったが、きっと埴輪のようにぺかっと破顔していたに違いない。

体幹がしっかりしてきたミノリは、木製の車に乗る事もでき、かなりこの場所を楽しんでいるように見える。

一方ナツモは、遊具のシェアに関して、相変わらず他の子どもたちとの折り合いがうまく付けられない。

そこへ、ナツモと同い年ぐらいでブロンド、やや下膨れの勝ち気な少女が現れた。この子、見覚えがあるなと思ったが、間違いない。ナツモが以前、この場所でバトルを繰り広げた少女だ。(【86日目】遊び場は戦場 参照)

今日も相変わらず、これだけ沢山の遊具があるにも拘らず、何故か二人で同じ物を取り合っている。

ナツモは時折助けを求めるような視線を僕に寄越すが、知らんぷりである。そろそろ自分でなんとかして欲しい。

本当は夕食は家で食べる約束だったが、(ナツモがそのように希望した)天の邪鬼のナツモが「そとでたべたい」と言い出した。しかも「でぃんたいふぉんがいい」などとふざけた事を言っている。

一通りナツモの理不尽さを嗜めて怒鳴ってから、タングリンモールのフードコートなら通り道なので、そこでチキンライスを食べさせる。「もう帰るぞ」と言うと、ナツモが最後にまた愚図り出す。もうこれ以上何が望みというのか。

ごにょごにょと喋るナツモの口に耳を近づけると、「もっちゃんのおむつは?」と言っている。確かに、ここ二日間、ナツモはオシッコを済ませる前に寝てしまったため、念のためにパンツ型のオムツを履かせていた。

いつもはそれでも朝までオシッコをすることはなく、そのオムツは再利用に回されるのだが、この二日間でナツモはすべてのオムツを有効に「使用済み」にしため、ストックが切れた。

しかし、ナツモはもう4歳児だ。また何回かの失敗はあるかも知れないが、オムツは不要と言って欲しい所である。なぜ、ナツモは自らオムツを所望し、しかも嬉々としてオムツの種類に関してリクエストを出すのか。

「あんぱんまんのやつね」

「ないよ」

「じゃあ、ぷーさんのやつでいい」

恐らく、ナツモの中では(パンツタイプのものに限り)キャラクターの付いたオムツはオシャレに見えているのが原因だろう。心なしか、履く事を楽しんでいるように見える。今日も、明らかに眠る前になって水をガブガブ飲み出した。

「そんなに飲むなよ、寝る前に」

「だって、かったやつ・・・」

「履かない履かない!寝る前にオシッコするんだよ!もう4歳だろう?」

「ふぉーでもおしっこもらすとき、ある!」

「漏らすから履けばいいってもんじゃない!漏らさないように努力するんだよ!そうしないと、カラダが漏らしてもいいだって覚えちゃって、ずっとオムツが取れなくなるぞ!トイレ行くのは5秒で終わるだろ?トイレに行かないでもっちゃんが漏らした時にシーツ洗って乾かすの1日かかるんだぞ!エリサに迷惑かけてんだぞ!」

僕は、微妙に論点をズラしていきながらナツモを叱責する。不思議な物で、最初は「4歳でオムツは恥ずかしいからヤメロ」程度の話だったが、話しているうちに理屈のアイデアが次々と浮かんで来て、いつの間にかオネショは人様に迷惑をかけているという話になっている。

しかし、それが功を奏したのか、ナツモを頷かせた。ナツモは素直にトイレに行って、見事、オムツを履かずに眠りに付いた。

・・・まあ、当たり前と行っちゃ、当たり前である。

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