【112日目】B.Blue
June 18 2011, 8:34 PM by gowagowagorio
5月22日(日)
のんびりしたサンデーモーニング。
アキコの母親からのスカイプに、ナツモが一人で対応している。アキコの母親が、如何にも祖母らしい質問をナツモに投げかける。
「もっちゃん、ごはん沢山食べてるの?」
ぜんぜん食べないよな、オマエは。
僕は心の中で毒づきながら、やや遠巻きにどう回答するのか見守る。やはり、というべきか、ナツモは何食わぬ顔で虚偽の報告を始める。
「うん、いーっぱいたべてるよ。もっちゃん、おやさいもたくさんたべるよ。にんじんとかじゃがいもとか」
まあ、それぐらいのフカシはよしとしよう。ニンジンは本当に食べるしな。
「あと、ぴーまんもたべるよ。すきだから」
いやいや、ちょっと待て。ピーマンは一回しか食べた事がないだろうが。それを、さも好物かのように報告しやがって。まるで、自分のプロフィールにちょっとしか絡んでいないプロジェクトを羅列する輩のようだ。
「ああああ、アンタ、なにやってんの!」
アキコが突然奇声を上げる。
僕の角度からはソファが邪魔で見えないが、ミノリが何かをしでかしたのは間違いない。まさか、ミノリの身に何か危険なことが?慌てて駆け寄った僕の目に飛び込んで来たミノリの姿。
こ、これは・・・ブル中野?
隈取りのようなブルーのラインがミノリの目を縁取り、そこから稲妻のようなラインが頬にも繋がっている。そして、唇も真っ青だ。何事だ?ミノリの身に何が起きたのか、一瞬理解できずにいたその時、ミノリが笑った。
こ、これは・・・KISS?
ブルーハワイを食べた後のように染まったミノリの舌が、チロリと顔を出す。その姿はまさに、ベイビー・ジーン・シモンズ。
ミノリの異形の原因はすぐに判明した。
どうやら、ナツモがキャップを開けたままリビングに放置した青いフェルトペンを、どう言う訳か我々の監視の目を逃れて舐め続けていたようだ。
依然として握りしめているペンをミノリの手から奪い取り、代わりにシャブリで口を塞ぐ。シャブリをしている間は、ミノリがおかしな物を口に入れる心配がない。なるほど、シャブリとは、赤ん坊を落ち着かせるだけではなく、誤食誤飲を防ぐという効果もあるわけだ。これは新たな発見である。
それはともかく、ペンをちゃんと片付けていなかったナツモがこの後叱られた事は言うまでもない。
−−
今日は本来、高校の同級生・Iファミリーとボタニックガーデンでピクニックをする予定だったが、I家の長女クーちゃんが発熱、嘔吐という状況だったため、急遽日を改めることになった。
しかし、せっかく弁当を(本来は休みのエリサに頼んで)作ってあったので、我が家だけでも、その弁当を有効活用しようということでボタニックガーデンへ出向く。
南国特有の異様に大きな木が作る木陰で弁当を食べて(ミノリは離乳食)、ナツモはできもしない木登りに興じ、僕はアウトドアにもってこいのアクティビティ・剣玉に熱中する。そして白鳥の棲む池で魚にパンをちぎって与えれば、満足度は100点である。
帰宅する途中、スーパーマーケットに立ち寄って、買い物をする。案の定、ナツモが色々と欲しがって駄々をこねる。
チョコレートのコーンフレークに始まり、チョコレートの牛乳、リンゴジュース・・・次々と繰り出されるナツモの要望を、すべて言下に却下するアキコと僕。
すると、いつか言われるだろうな、と前から思っていた事を、ナツモがついに口にした。
「なんでー?!おとうちゃんとママだってなんでもかってるじゃん!」
確かにご指摘の通りだ。しかし、妙に取り繕うようなマネはしない。大人は買えて当然である。それに、ナツモはまず我慢することを覚えるべきだ。
「悔しかったら早く自分で働いて稼ぐようになりなね」
「いやだー!」
まあ、ナツモの気持ちも解らなくもない。
時々買ってくれる時もあって、今日のようにまったくラチが開かない時もある。その違いが解らないのだろう。僕にだって解らない。親の気分次第だ。
ナツモは、なんとなくではあるが、
「いい子だったら買ってもらえるかも、悪い子だったら買ってもらえない」
と思っているフシがある。とりあえず、そう思っておいてもらうとしよう。
−−
夕方、急遽STK家が我が家に遊びに来る事になった。
大人は飲み、子供たちは思い思いに遊ぶ。STK家の兄妹3人とナツモ。ちょっと前までは、長女コノミちゃんだけがお姉ちゃんで下の子らの面倒を見ているという雰囲気だったが、成長したナツモとコノミちゃんは長女同士として気が合うのか、二人でつるんでいる。
そしてナツモは相変わらず、必要以上にキコちゃんに厳しい。
「キコちゃんはオモチャの使い方が解っていないから」
という理由でオモチャを貸さないのだ。そう言うナツモだって、正しい使い方をしているかどうか、甚だ怪しいものである。
黒一点?のカズマは、一人黙々と布製のサッカーボールを蹴っている。
気がつくと、コノミちゃんとナツモはしまじろうの「ひらがな数マシーン」に
「お・し・り・お・し・り・お・し・り・だ・い・す・き」
と入力して「ひひひひ」と喜んでいる。
なぜ子供は、誰も教えていないのにお下品なコトバが大好きになるのだろうか。
大人たちがいい塩梅で酔っぱらって来たところでお開きにする。今日は、コノミちゃん以外全員、仲良く一回ずつ泣いたようだ。STK家の皆をコンドのエントランスまで見送るとき、ナツモはもう一度、寂しくて泣いた。
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