【269日目】Never Say Goodbye.
May 21 2012, 5:19 AM by gowagowagorio
10月26日(水)
今日は「ディパバリ」、ヒンズー教徒にとっての正月にあたり、一年のうちでも最も重要な祭日だという。人種が入り乱れて成り立っているここシンガポールでは、ヒンズー教徒でない人にとっても今日は嬉しい祝日となる。
水疱瘡で登校禁止となっているナツモにとっては、学校自体が休みとなるのは有り難い。ナツモの場合月曜から発症しているので、火曜日、木曜日、金曜日の三回休むだけで済むからだ。水疱瘡の症状自体もかなり軽い部類に入るのではないだろうか。
今朝ナツモの全身をくまなくチェックしたが、新たな発疹はほとんどなく、僕が経験した水疱瘡の無惨な姿から考えると、キレイなものである。昨日は一時高熱が出たが、今日は測る必要もなさそうなほど元気で、食欲もある。
アキコは先週末の弾丸日本出張の疲れが出たのか、10時を過ぎてもまだ寝ている。ナツモは食事が済めば、相も変わらずプリキュアの動画サーフィンである。
10時半頃、ようやく起きてきたアキコが、ミノリの左ふくらはぎに異変を発見した。
「ねえねえ、これって・・・」
見ると、昨日は虫刺されだろうと考えていた赤い斑が、膨張し、水ぶくれになっている。・・・まさか。
ナツモが発症したのは月曜日だ。水疱瘡はキャリアの患者が発症する一日前からしか感染能力はないと聞く。そして潜伏期間は早くても10日間。どうにも計算が合わない。
しかし、ミノリの全身を眺めると、小さな発疹が背中や腹部に見て取れる。まだ発熱はないようだし、食欲も含めて至って元気に見える。
念のためスギノファミリークリニックに電話をかけてみたが、やはり今日は休診日で繋がらない。
これは明日まで様子を見るしかない訳だが、これを機に、今までずっと神経質にナツモから隔離していたのが嘘のように、ミノリがナツモに近づいても、それを止める事はしなくなった。
昨夜も、アキコは「隔離するのをやめよう」と宣言していたものの、実際には、結局別の部屋に寝かせていたりしたのだ。
これはある種諦観に近いものがある。
今日は、先日アキコが出張中でハウスウォーミングパーティに参加できなかったこともあり、キースとマーレーンが我が家を昼食に招待してくれた。
僕自身も、パーティではナツモミノリの世話に追われて二人とゆっくりとは話せなかったから、今回は有り難い誘いである。
何しろ水疱瘡のナツモと、その疑い有りのミノリは二人とも強制的に留守番させざるを得ない状況だからだ。
必ず一緒に行きたがってダダを捏ねるに違いないと、ナツモにその旨を伝えるのをギリギリまで引っ張ったが、プリキュアの動画に夢中だったナツモは大して気にも留めなかった。
「おとうちゃんとマミーは今からお友達の家にお昼を食べに行くからね。もっちゃんはお留守番してて」
「なんで?」
「ホラ、今チキンポックスでしょ?うつしちゃいけないからね。ムニーも病気になったっぽいから、一緒にお留守番するんだよ。プリキュア観れるし、いいでしょ?」
「ふーん」
ナツモは、つまらなそうな受け答えとは裏腹に、満更でもなさそうな表情を浮かべた。今やプリキュアが完全にナツモのお守役である。
「こっちこっち・・・ここだよ」
タクシーを降りると、勝手知ったる様子でアキコをアテンドしつつ、ドアの呼び鈴を押す。しかし、応答はない。しばらく経ってから二度、三度と呼び鈴を鳴らしても、結果は同じだった。
「あれ?おかしいな・・・ここだと思うんだけど」
約束の13時には少し遅れたが、待てないほどではない。
もしや、何か買い出しに出ていて、キース達がまだ戻って来ていないのだろうか。狼狽えて建物の外に出た所で、我々が呼び鈴を押していた部屋の真上のバルコニーから声が降って来た。
「ハイ、アリオ、アキコ!」
マーレーンの声である。
前回のパーティではそんなに飲んだつもりはなかったが、僕は一度訪れているユニットの階数を完全にに間違えていた訳だ。呼び鈴を押した家が留守だったのが幸いである。
今日はゲストが我々二人だけという事もあり、先日訪れたときよりもずっと部屋が広く感じられた。
キースは、パーティの際にナツモがここで失くし、大泣きした原因の、ガチャピンのステッカーを見つけておいてくれた。有り難い話である。
広々としたバルコニーで、マーレーン手作りのベイクドリゾットボールとムール貝のパスタに舌鼓を打ちつつ、ワイン片手に談笑する。
何故かは分らない。しかし、キースとマーレーンは僕にとって、とても居心地の良い二人だ。
慣れて来たとは言え、パーティの類いに参加する時はいつも緊張している僕だが、この二人に限っては一切そのような事がない。何でも積極的に話せるし、二人も辛抱強く僕の話を聞いてくれる。常に彼らと話していれば、自分の英会話が上達することは間違いないだろう。
出会ってからまだとても短い期間だが、かけがえのない友人と思える二人だ。また、二人の娘、2歳のミアがとても愛くるしい。
9月のバリ旅行中や先日のパーティなど、今までは常に僕に対して距離を取って来た、というよりやや怖がっていたと思われるミアだったが、今日ついに、積極的に絡んで来た。
僕が話しかけなくても、ミアは自らステッカーや、バルコニーのファウンテンに放り込んである水遊び道具を僕に差し出してくるようになったのだ。ようやく、僕を友人として認めてくれたようだ。おかげで今日はミアの“ビジュ”も、易々と手に入れた。
−−
すっかり長居してしまい、三人に見送られてタクシーに乗り込んだのはもう17時半を回っていた。
「さようならは言わないよ。またすぐに戻って来てくれると思ってるからね」
間もなく育休を終了し日本へ帰国する僕を、キースとマーレーンはそんな台詞で送り出してくれた。
それにしても、僕はやはりワインを飲み過ぎてはいけないようだ。帰宅すると酔いがまわり、アキコにすべて(ナツモミノリの食事の世話)を押し付けて僕はソファの上で長ーく伸びてしまったようである。
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