【147日目】Might As Well Jump?


July 16 2011, 6:38 AM by gowagowagorio

6月26日(日)

盛り沢山の週末である。

さて今日は、まずナツモのプリスクールメイトの日本人会へ向かう。4組ほどの家族が集まり、日本人会館の和食レストラン「茜」でランチを食べながらの談笑である。「茜」と言えば、3ヶ月ほど前、ナツモがうなぎの骨を喉に刺して悶絶したレストランだ。もちろん今日は、ナツモはうなぎになど見向きもしない。

食事はともかく、興味深かったのは、学校でのナツモのポジションである。家では我が儘極まりないナツモだが、学校ではけっこう大人しい性格だと思われているのではないだろうか。

今日居た友達4人のうち、3人は女の子だった。その3人は当然つるんで遊ぶのだが、ナツモは明らかに一歩ひけを取っている。仕切っているのはワカナちゃん、この会の発起人の長女である。さすが親子と言うべきか。

そのワカナちゃんと、プリスクール一可愛いと噂のリオちゃんが中心人物として盛り上がり、ナツモはそれにくっついて回っているという印象である。ワカナちゃんの喋りを聞いていると、ナツモは普段これをマネているのではないかと思えてくる。

もう少し様子を観察していたかったが、僕には今日、もう一つのメインイベントがある。

ランチを済ますと一人、日本人会を後にしてタクシーを捕まえる。向かった先はセンバワン。シンガポール北端のマリーナである。海の向こう側に見えるのはマレーシア。持っている携帯も勝手にマレーシアの通信会社にコネクトされてしまうという距離だ。僕はここに、生まれて初めてのウェイクボードを体験しに来た。ベルリッツの講師、ケンに誘われたのである。

ケンは絶対にテキストブックを使わない、いい加減な講師だが、侮ってはいけない。彼はMBAを持っている。恐らく、ベルリッツは次の就職が決まるまでのつなぎだろう。

それはともかく、ケンに誘われるままに此処へやって来た僕は、一緒にボートに乗り込むメンバーと挨拶を交わす。タイガーウッズとケリースレーターを足して2で割ったような面持ちのイタリア人プレイボーイ・ディエゴと、旅先であるシンガポールでディエゴに射止められたスウェディッシュガール・アレックス。

本来はそこにケンと僕を加えた4人でウェイクボードをするはずだったが、インストラクターのブッキングミスで、さらに2人のシンガポーリアンがボートに乗り込む。シンガポーリアンのうち一人は、完全にお笑い芸人、響の長友である。

インストラクターが、湾の幅が狭まった、海面の状態が安定した場所へとボートを走らせる。15分ほど走って着いた場所は、接近した両岸にヤシが生い茂る、「地獄の黙示録」を彷彿とさせるワイルドな景色を持っていた。まあ、僕は「地獄の黙示録」をまだ観ていないのだけれども。

僕らのグループではディエゴが一番スキルが高く、180もジャンプも自由自在だ。ケンはまだ4回目、アレックスと僕は今回が初めての挑戦となる。響たちのスキルはまだ未知数である。

ウェークボードを装着して水中にいられるのは一度に一人だけだ。他のメンバーは自ずと船上でその様子を観戦するか、ビールを飲んでバカ話をするかという構図になるのだが、ディエゴは常にアレックスと船上で愛を語らっている。さすがイタリア人。イタリア人ほど、デフォルメされたイメージと現実の間にギャップがない人種も珍しいのではないだろうか。

結論から言えば、僕は一回目から立ち上がる事に成功し、ターンもできた。予想通り、ターンはサーフィンと同様の身体の使い方でなんとかなるようだ。水面を滑る事に慣れているため、立ち上がる時から違和感がなかった。これはなかなか楽しい。

それにしても、ただ引っ張られているだけだと思っていたが、ハンドルを握っていることは想像以上に重労働だった。30秒も乗っていると、腕と腿の筋肉が悲鳴を上げ出す。

そして、ボートで引っ張られながらワイプアウトした時の水面はかなり固い。これに関してはサーフィンと全く違って、むしろスノーボードで転んだ時の感覚に近い。つまり、けっこう痛いのである。

響たちの2名は、その体型からは想像もつかないほどスキルが高かった。コンスタントに、ボートが作った波をランプにしてジャンプをメイクするのだ。彼らがスマートなアスリート然としていたら、僕もムチャはしなかっただろう。しかし、長友に出来るなら俺にもできると、勘違いしてしまった。加えて、その長友自身、かなりいい奴で、僕が今日初体験だと知ると、あれやこれやと必死にアドバイスしてくれる。

彼のためにもジャンプをメイクしたいと思ったのが間違いだった。三度めに順番が回って来たとき、僕は大分ターンのコツをつかみ出し、スピードを殺す事無く左右に行き交えるようになっていた。

試しに飛んでみようと、眼前に迫る波にボードをヒットさせた。ボートに引っ張られている訳だから、飛ぶ事自体は難しくない。問題は空中でのバランスコントロールとランディングだ。

もちろん、最初のトライは失敗だった。飛ぶ感覚はなかなか痛快だった。そこで止めておくべきだったのだ。

日が沈む直前、僕のラストトライ。この日一番のスピードで僕は空中に飛び出した。響のアドバイスを頭に思い描く。

が、そう上手くはいかない。

バランスを崩し、フロントフットが水中に刺さる。ハンドルを手放すタイミングが遅れる。マズい。

前が刺さったまま、ボートに思いきり引き摺られた瞬間、左の股関節に僕の全体重がのしかかった。

ああ、この感覚は知っている。高校一年の時に、50m走のタイムを計測する時にやった事がある。股関節の捻挫である。

調子に乗らなければよかった。ウェークボードというスポーツを侮ると痛い目を見る。

脚を引き摺って何とか帰宅した後、ケガについてアキコに報告すると、彼女は思い出したように言い出した。

「ああ、そうそう、おとうちゃんが行く前に、私の同僚がウェークボードで骨折したから気をつけてねって思ったんだ」

・・・それを先に言ってくれ。思うだけじゃなくて。 

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