【204日目】あばれもっちゃん鼻づまり
September 6 2011, 10:06 PM by gowagowagorio
8月22日(月)
プールで身体が冷えると、頻尿になるようだ。
ナツモは寝る前にしっかりと小用を済ませ、21時には床に就いたのだが、真夜中を回る頃、そろそろ寝ようとベッドに入った僕がナツモのお尻に軽く触れると、ナツモは既にパジャマを濡らしていた。
それに加えて、ナツモにしては珍しく、朝までの間に2回もトイレのために起きたのである。
「もっちゃん、昨日の夜、オシッコいっぱいしたねー。ちょっとオネショもしちゃったね」
朝、ナツモに話しかけると特に落ち込む様子もなく、
「ねるまえにおしっこ、したのにねー。なんでだろねー」
と、実にあっけらかんとしたものである。ナツモには「オネショ=恥ずかしい」という価値観は一切ないと見える。
確かに、オネショをしたからと言って叱った事はないし、それが恥ずかしいなどと教えた事はないのだから、当たり前と言えば当たり前なのかも知れない。
ナツモはアキコがしばらく帰って来ない事を受け入れたようだ。代わりに、いよいよ次の日曜日に控えた自身のバースデーパーティに向けて大分テンションが上がっている。
「あといっかいねたら、もっちゃんのたんじょうび?」
「ちがうよ」
「じゃあ、あとにかい?」
「・・・ちがうよ」
「あとさんかい?」
「もっとたくさんだよ」
「じゃあ、あとじゅっかい?」
「・・・そこまではいかないけどね。あと6回だよ」
ナツモにとってこの一週間は長い長い一週間となりそうである。
さて、僕はファンクションルームのデコレーション担当に任命されているので、アキコ不在の間に自分の責務を果たさなければならない。そこで、今日はその材料を買いにタングリンモールへ出向く事にした。
これと言って具体的なアイデアがある訳ではなかったが、パーティグッズの充実した店は至る所にあるから、ケーキの時と同様、それらを眺めていれば何か思いつくだろう。
はたして、タングリンモールのパーティグッズ専門店には僕の想像を超えるデコレーションの材料がふんだんに揃っていた。それらを手に取りながら浮かんだアイデアをナツモに提案していくが、相変わらずナツモは、それらをことごとく却下していく。
「付箋で壁に字を書こうか」
「イヤだ。これでじかくの、あんまりおもしろくない」
「ケーキがアリエルだから、青と白の風船をいっぱい飾って、
海の中みたいにするのはどう?」
「イヤだ。うみのなかイヤだ」
「・・・」
覚悟はしていたが、このやり取りだけで大分モチベーションが下がる。じゃあ、何が良いのかと問えば、「ぷりんせすがいい」である。
確かに、店には出来合の、プリンセスのデコレーションがいくらでもある。しかしそれでは全くナツモの個性が出せないではないか。
ナツモは「ナツモの個性」などに興味はない。ただ自分の欲求に素直に従っているだけだ。それは分かっているのだが、まったく、この国におけるディズニープリンセスには「辟易」というコトバがお似合いである。これは一体誰のためのパーティなのか。
もちろん、ナツモが主役ではあるが、デコレーション含め、用意するものは全てゲストのためである。子供はともかく、大人は皆、プリンセスで埋め尽くされた部屋を見たらゲンナリするはずだ。
バランスが大切なのだ。ナツモも、ゲストの子供たちも、そして大人たちもみんなが満足できるバランスが。
「もっちゃんさ、プリンセスの風船一個だけ買ってやるから、後はもう、おとうちゃんに任せてくれる?口出ししないでよ」
「うん、わかった」
「・・・」
ナツモはプリンセスの風船を手に入れられると聞いた途端、なんだか僕一人で力んでいたのがばかばかしくなるほどアッサリと従順になった。
店内をくまなく物色した結果、ハート型の色とりどりの風船と、カラフルなモールを買うことにした。ハートはナツモのお気に入りだし、モールで飾り文字を作れば、子供のパーティらしい雰囲気が出せる。加えて手作り感もアピールできる。何といってもモールは安い。考え得る限り、完璧な選択だと思われる。
帰宅後、ナツモは再びプールで泳ぎたがった。
ナツモは少し鼻水を垂らしていたため、今日はやめておいた方ががいいかなとも思ったが、僕はナツモの積極性に水を挿したくはなかった。それに僕自身も、今飛躍的に成長しているナツモの更なる進化を見ていたかった。
ナツモはさらにバタ足で進む距離を伸ばす。頭から飛び込めるようになり、プールの短辺に沿って、2/3強は息継ぎなしで泳ぐ事さえ可能になった。
僕はその一つ一つに感動しながらも、ナツモの体調を気遣ってたびたび「寒い?」と尋ねる。しかしナツモは、そのたびに「さむくない。まだおよぐ」と言う。本人がそう言うのだから大丈夫だろう、もう少しいいかと泳がせる。
何回目だっただろうか、しつこく僕が尋ねると、やっぱり「さむくない」と言うので、もう聞くのはやめよう、気の済むまで泳がせよう、と心に決めた瞬間だった。
「さむいさむい!はやくはやく!たおる!」
一秒前の発言を全力で翻すナツモに、僕は翻弄される。
「え?え?」
「たおる!はやくまいて!はやく!」
「だって、今寒くないって・・・」
「さむいの!はーやーくー!」
ナツモはやはり体調がよくなかった上に夕方気温が下がってからのプールがたたったのか、夕食を摂っている最中にも「さむい」と言い出した。
マズい。今風邪などひこうものなら、これまでの苦労(誕生パーティの準備)が水の泡である。
そこで、ナツモに予防的な位置づけとして、早めの風邪薬を飲ませる。症状は鼻水と鼻づまりだ。幸い、まだ熱はない。カラダをあったかくして早めに寝かせよう。
そう思って今日はエアコンも扇風機もつけず、珍しくタオルケットでナツモをくるむ。しかしナツモは「さむいけどあつい」と面倒くさいことを言う。
それは身体の中から寒気がするけど、身体の外側は暑いと言う事か?カンペキに夏風邪の症状じゃないか。なんとか持ちこたえてくれればいいが・・・いや、引くなら引くで、早く引いて終わらせてしまった方がいい。直前に熱でも出されたらそれこそパーティがおじゃんである。
あれこれ思案していると、ナツモが苦しげに訴えて来た。
「おとうちゃん、なんか、できない」
ナツモは鼻のあたりをしきりにいじりながら、口を開けている。
「ん?息ができないのか?」
「おはなでいきできない・・・」
「うん、それはしょうがないんだよ。さっきお薬飲んだからそれがそのうちに効いて、鼻が通って楽になるよ」
僕はナツモを安心させるためにそう言ったつもりだったのだが、ナツモにしてみれば、今、この場でなんとかして欲しいのだ。
薬に即効性がないという事を悟った瞬間、絶望的な気持ちになったのだろう、ナツモは身を捩って暴れ出した。
「イヤだイヤだ、はやく!おはなでいきできないの、イヤだ!はやくなんかして!」
僕自身、鼻があまりよくないため、ナツモの気持ちが痛いほどよくわかる。ナツモの辛さを想像し過ぎて、自分の眉間が重くなってくる始末だ。
なんとかしてやりたいと思い、僕はナツモの眉間にマッサージを試みる。そのツボに効果があったためなのか、それとも沢山泳いで疲れていたためなのかは分からないが、ナツモはそれからわずか1分ほどで深い眠りに落ちた。
さて、明朝、熱など出ていなければいいが。
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