【173日目】出る歯は打たれる


July 29 2011, 3:42 AM by gowagowagorio

7月22日(金)

ミノリの生傷が耐えない。

一日一怪我。大袈裟でなく、そのぐらいのペースで傷ができている。そのほとんどは、掴まり立ちをした後座れずに、ついには力つきて崩れ落ちた時にぶつけてできる傷だが、今日はちょっと珍しいパターンで流血した。

我が家のテレビ台(IKEA製)の高さは、約60cmぐらいで、それがちょうど、今のミノリにとって掴まり立ちをするのにチャレンジングな高さになっている。

もちろん、自分のスキルを磨く事に貪欲なミノリは、チャンスがあればすかさずテレビ台に挑む。まずテレビ台の側面に両手を突っ張り、膝で歩きながら台との距離を縮め、手を徐々に上へ上げて行く。そして、台の上部から5cmあたりのところに飛び出したアルミ製の把手に手をかけて体勢を整え、掴まり立ちをする。

ところが今日、ミノリは何を思ったか、アルミ製の把手を手だけでなく、口でくわえて身体を支えた。その時点でミノリは膝立ちである。もしかしたら、身体を支えたくて把手をくわえたのではなく、ただ単に味見をしてみたかったのかも知れない。

一度に二つの事をしようとしたのがミノリのミスだった。ミノリはその体勢、口でアルミ製の把手を齧った状態から、逞しくなった脚力で一気に身体を持ち上げた。僕はそれをミノリの真後ろから目撃していた。

ごん、でも、がん、でもない、ばき、とも言えない、釘を釘抜きで引っこ抜くような、イヤな音がした。立ち上がったミノリの動きが止まった。きっかり3秒後、ミノリの悲鳴に近い号泣が響き渡った。

慌てて駆け寄りミノリの顔を覗き込むと、口から鮮血が滴り落ちている。血の赤さは、いつも人を動揺させる。僕は思わずミノリを抱きかかえた。

号泣して大きく開いたミノリの口の中を見ると、生え始めたばかりのミノリの下の前歯2本が埋まった歯茎から鮮血が湧き水のように溢れている。僕は瞬時に何が起きたのかを悟った。

ミノリは全力で把手を齧っていたのだろう。そして、下の前歯がアルミ製の把手をがっちりとホールドした状態で、全力で立ち上がろうとしたのだ。

テレビ台が何キロあるかは知らないが、その重量がミノリのか弱い前歯にのしかかる。ある時点で歯が滑って、ミノリは立ち上がった。僕が聞いたのは、その、前歯が滑ってアルミ製の把手と擦れる音だったのだ。出始めたばかりの前歯を打たれた形のミノリ、これは相当痛いだろう。

僕は今一度ミノリの前歯を確認する。せっかく生えて来たのに、今ので引っ込んでしまっていないだろうか。折れなかっただけマシだろうか。

ミノリは、しばらく泣き続けていたが、10分もすると痛みが去ったのか、再び掴まり立ちにチャレンジしはじめた。しかし、今日は二度とテレビ台に挑む事はなかった。ミノリにも学習能力が備わり始めたのかも知れない。

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さて、今夜からアキコが、ブルズの本拠地、マイケル・ジョーダンの記憶が染み付いたシカゴへと旅立つ。旅の準備のため夕方早く帰宅したアキコからその事実を知らされたナツモは、当然「もっちゃんもいく」とムチャを言い出した。

しかし、ナツモもそれは叶わないというのをどことなく知っているのだろう。本気でごねると言うよりは、アキコに甘えて纏わり付いているという印象だ。無理もない。母親長期不在の気配を感じて寂しいのだろう。

そして、何故か、パッキングをしているアキコの横のフローリングで、夕食も食べずに寝入ってしまった。しばらくしたら起きるかとも思ったが、21時を過ぎてもそのままなので、アキコはナツモを寂しがらせまいと、そのまま起こさず、先ほど家を出た。

さて、これまでの真価が問われる、育休始まって以来最もタフな10日間の始まりだ。 

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