【1日目】タワーがウチにやって来た

February 9 2011, 7:17 AM by gowagowagorio

1月31日(月)

午前6:20、羽田からの深夜便がチャンギ国際空港に到着。
これからの生活を祝福してくれるかのような・・・大雨である。
雨のせいか、辺りは真っ暗闇だ。
もともと夜が明けるのは遅いシンガポールだが、
それを差し引いても暗すぎる。
そして妻子が待つコンドミニアムに向かうタクシーは、
もちろんラッシュアワーに捕まる。やれやれ。

通常30分の道のりを1時間かけて、ようやく家に到着。
大量の荷物をエレベーターに押し込み、住居である5階のドアが開くと、
そこでは3歳の長女ナツモが待ち構えていた。ジーン。娘の出迎え。
なかなか感慨深いものである。そこで満面の笑みを浮かべたナツモが一言。

「タワーが来たよー」

・・・確かにな。
でもそこは今までみたいに「おとうちゃん」と言ってほしかったな。
いや、父親の身長をいじるスキルを身につけたことを喜ぶべきか。
フクザツな心境の僕を尻目に、ナツモは学校へ、妻・アキコは
「仕事、今日からになったから」と言い残し、いそいそと出かけてしまう。
残された僕と3ヶ月の次女・ミノリ(と、お手伝いさんエリサ)。
何週間ぶりかに会うミノリの顔を覗き込むと、
パッと顔を輝かせ・・・ることもなく、
「自分、なにしにきたん?」みたいなそっけない表情。
まあ、そう言うなよ。
はじめてこのメンバー全員集合で家族生活を始めるんじゃないか。

子育ての手始めとして、ミルクでもやろう。
気の利き方が尋常でないエリサが、僕がそう思ったのを知ってか知らずか、
すでにミルクを人肌に燗してくれている。
ミルクはアキコの母乳を冷凍保存していたものだ。
後はミノリの口に優れ人口乳首のヌックを押し込むだけ。
それはなんなくこなせるルーティンワークのはずだった。
しかし、ミノリはミルクを一口含ませたとたん、
嫌悪感をその小さな顔全体に滲ませてヌックを吐き出した。
次に訪れるのはもちろん絶叫に近い号泣である。
なぜだ。オマエは腹が減っているのだろう?
しかもこれはアキコから搾り取った紛れもない母乳だ。
粉ミルクではない。嫌がる道理がないではないか。

・・・いや、一つだけある。

それは母乳を与えているのが今まで部外者だった父親だから?
だとしたら凹む。相当凹む。
まだ荷解きをしていないことを幸いに、このまま帰ってしまおうか。
そこまで思い詰めていた僕を気遣ってか、エリサが選手交代してくれる。
そこで僕が少し安堵できたのは、エリサに対しても状況が変わらなかったからだ。

なぜ腹を空かせたミノリがそこまでミルクを拒否したのか。
その答えは夕刻判明する。
帰宅したアキコにミルクの件を伝えると、
しばらく記憶を辿るように虚空を睨んでいた彼女が、驚愕の事実を口にした。

「あー、あの母乳は去年の忘年会でしこたま飲んだ後、すぐに絞ったヤツだ」

・・・妊娠中、授乳期の飲酒はお控えください。
母親が摂取したアルコールは、
なんでも驚くほど速やかに母乳に混ざるらしい。
ミノリにとって、相当不味かったんだろうな、そのオッパイ。
号泣は自分のせいでなかったと確信し、失いかけた自信を取り戻す。

ともかく、まだ育児生活はスタートしたばかりである。

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