【174日目】育児強化合宿(初日)、出だし順調


July 29 2011, 9:09 AM by gowagowagorio

7月23日(土)

アキコがいない休日はしんどい。だから、自分自身でストレスを増幅させることだけは避けたいと思った。

つまり、食事、入浴、寝る時間、ナツモに対して普段課しているレギュレーションを、すべて弛めて大目にみようと言う訳だ。

それは別に、ただ単に甘やかそうという事ではない。いつも、何が何でもちゃんとやらせようと思うから、そしてナツモは絶対に思い通りに動かないから、ストレスが溜るのだ。

だから、これまでナツモに伝えて来た事が少しでもナツモに刻み込まれている事を信じて、後は自然体でいよう、という心構えの事なのである。

加えて、困ったときのSTK家頼みと言うことで、今日は夕食をご一緒していただくことになっている。自分でも意外だったが、こんなに頻繁に遊んでもらっているというのに、僕はSTK家の連絡先を知らなかったため、昨晩、出発前のアキコにブッキングのメールを送ってもらった。

「子供のデートを約束してるみたいだよ」

とアキコに言われたが、構うものか。

ともかく、これで今日は一日中やることがある。ナツモを何処へ連れて行くか、頭を悩ませなくて済む訳だ。まずは、キックボクシング、そしてその前にバクテを食べに行く。そして練習の帰り、エリサからことづかった買い物をするためにグレートワールドシティへ向かう。

すると、オープンカフェでビールを煽りながら料理のレシピを確認しているケンに出くわす。僕は、そこでちゃっかり一杯ご馳走になった。ナツモは初対面なため、相変わらず薄ら笑いを顔に貼付けたまま、ケンと目を合わせようともしない。

そのくせ、いざケンと一緒にコールドストレージへ降りて買い物を始めると、ナツモは常にケンの居場所を尋ねて来る。

「おじちゃん、どこ?なにかってるの?」

そんなに見えない所で関心を寄せるなら、最初からもっと愛想良くすればいいのに。オマエは奥手の女子高生か。

この手のシチュエーションになると、決まって僕は後ほど、ナツモは決して無愛想な訳ではないという事をアピールするために

「ナツモがずっとキミの事を探してきょろきょろしてたよ」

と説明する必要があるのだ。

買い物を終え、コンドで荷物を降ろすと、すぐにSTK家が車で迎えに来てくれた。本当に毎度毎度ありがたい事である。向かった先はUEスクウェアの牛角だ。

肉をつつきながら、話題の中心は僕の今後の身の振り方になっていた。気付けば育休も残り3ヶ月である。これだけ親密になれば、今後、池家がどのような生活スタイルを取るのか気になって当然だろう。

アキコも出張だが、STK家のご主人も本日夜のフライトで日本へ出張と言うことで、来週の週末もご一緒させてもらう約束を取り付け、今日は早めに解散となった。

たらふく肉を食べて帰宅すると、時刻は20時だ。本来なら「もっちゃん、おフロ入れ!」「イヤだ!」と押し問答が始まる所だが、今日は何も言わずにナツモの好きにさせた。

すると、ナツモは21時に自ら入浴。あまり早いとは言えないが、まあいい。自発的に入った事を評価しよう。そして、風呂を上がってからも「おえかきしたい」という、いつもなら即却下のナツモの要望に応えて、ここでも文句一つ言わず、それに付き合う。

すると、22時前、異変が起こった。

「おとうちゃんがトムとジェリー描くの見ときなよ」

と僕が言うと、ナツモは床にうつ伏せになり、大あくびを放ちながら

「もうつかれちゃった・・・」

と呟いたのだ。そして、僕がトムを描き終わるのを見届けるや否や、自らベッドルームに歩いて行き、ベッドに倒れ込んだ。なるほど、毎日あれほど口うるさく追い立てて眠る時間と、今日、自然とナツモが限界を迎えた時間はほぼ一緒だ。何も言わなくても22時前に、勝手に限界を迎えるのだ。

これはむしろ、今まで下手に怒鳴って興奮させていたのは逆効果だったのではないかと思えて来る。

ベッドの上では、ナツモの我が儘はキレイに消えてなくなる。僕も優しい気持ちになれる幸せな空間である。ナツモも同様なのだろう、僕に対して風変わりな親切心を見せる。

「もっちゃんのまくらに、あたまのせてもいいよ」

もちろん、僕にはもう自分の枕があるので事足りているのだが、せっかくのナツモの珍しい好意を無駄にするのも野暮な気がするので「ありがとう」と言いながら、同じ枕に頭を乗せる。すると、ナツモが補足する。

「ぷつぷつのまくらにはあたまのせないでね。そうしないとつめたくないから」

ぷつぷつの枕とは、水色のドット柄枕カバーで包まれた枕の事で、ナツモ一番のお気に入りである。ナツモはこれをいつもお腹の下に敷いて寝る。どうやら、その枕はヒンヤリとしているから好きと言うことらしい。

「わかったよ、のせないよ」

と答えつつ、脚をナツモに絡ませる。

「もっちゃんのあしに、のっかってるよ」

僕としてはスキンシップのつもりだが、ナツモはそうは受け取らないようだ。

「そうだね。わかった、どかすよ」

「ぱんちとかきっくとかもしないでね」

脚を絡ませる事とパンチやキックはどうも結びつきにくいが、このような話の飛躍は子供特有のものだろう。そして、ナツモの話はどんどん予想外の方向へ向かって行くのだった。

「ぱんちとかきっくしていいのは、きっくぼくしんぐだけだよね」

「そうだね」

「ぱんちとかきっくするときは、いってから、やってねってマミーにいっておいてね。いきなりはだめだよ」

「マミーはもっちゃんにパンチしないでしょ。もっちゃんが悪い子だった時に、ぺちって叩かれるだけでしょ」

「だってぺちってするの、マミーだけじゃん。おとうちゃんはおとそ(お外)にほりだす(放り出す)だけじゃん」

ほほう、唐突な話題ではあるが、ナツモなりに、アキコと僕の叱り方の違いを感じているのが興味深い。そこで僕は尋ねてみた。

「どっちがイヤなの?」

「おとそにほりだすのは、さびしいじゃん。ひとりだから。だからやらないでね」

僕は苦笑せざるを得なかった。もちろん、叩かれるのもイヤだろうが、今の台詞は偽らざるホンネだろう。

僕としては、玄関の外に締め出す行為は、最早効かなくなっているのではと思っていたけれど、どうやらそうでもないようだ。

「もっちゃんが良い子だったらやらないよ」

とりあえずアキコ不在の初日は無事終了した。後9日間、ナツモを締め出すような事が起こらない事を祈る。

まだ、先は長い。

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