【108日目】この支配からの卒業?


June 13 2011, 8:21 PM by gowagowagorio

5月18日(水)

「うわあああ」

思わず声が出るとは、こういう事を言うのだろう。ミノリのオムツをはずした瞬間目撃した便の大きさは衝撃的だった。軟式野球のC球ぐらいあるのではなかろうか。

僕が帰宅した時点でエリサが言うには、ミノリはこの直前に一度排便してオムツを換えたばかりである。そう聞いてはいたものの、ミノリの股ぐらがあまりにも膨らんでいるため、もしやと思いオムツを開けた瞬間に発した声が、冒頭のものである。

便秘で苦しんでいた昨日の午後から細切れに排便を繰り返していたが、これは会心の一撃と言えるだろう。見ているこちらがスカッとするほどだ。本人はさぞかし良い気分に違いない。

ミノリの便秘解消を、ここに宣言する。

−−

夕食時、「もっちゃん、きゃべつすき」と言っていたにも関わらず、ナツモは、ご飯と肉だけをほんのちょっと食ベただけでキャベツにはまったく手をつける様子がない。そのくせ、「おかしたべたい」などと宣う。

「ゴハンたべないとお菓子なんかあげないよ」

「だって、おなかいっぱい・・・」

「お腹いっぱいでゴハンも食べられないヤツがオカシだけ食べるなんてオカシイだろ!」

「・・・」

そもそも食事の間中、コイツはずっと態度が悪い。肉を手で食べる、スプーンを3回も4回も5回も6回も落とす、横を向きっぱなし・・・

再三再四それを嗜めるものの、次第に僕自身が嗜める行為自体に疲れ、苛立ちを覚え始める。もちろん、そんなことは気にもとめないナツモは態度を改めるはずもない。

堪えきれずに、思わずテーブルに拳を叩き付ける。

どん!

ナツモは ビクっ、と身体を強張らせ・・・・ることもなさそうだ。僕が感情的になっていることなど意にも介さず、遊び食べを続けている。

なんという威厳のなさ。

叩き付けた拳に虚しさと痺れが張り付いている。いやいや、感情的になったオレが悪い。気を取り直して、努めて冷静に声をかける。

「早く食べなさい」

「・・・」

わかった。オマエがそう言う態度なら、こっちにも考えがある。僕はついに伝家の宝刀を抜き放つことにした。

「あっそ。じゃあ、もっちゃんはもう、プリティエスト・プリンセスじゃなくていいんだね?それどころかプリンセスでもない。ただのもっちゃんにしかなれないよ」

僕は一気にまくしたてた。

どうだ。オマエがリスペクトして止まないプリンセスへの道が塞がれる、オレはそう言ってるんだぞ。どうせ「いやだー!」と泣き出すんだろ?そして助けを求めてすがりついて来るのだ。泣け、泣いてしまえ。そして、一通り思い切り泣かせた後、優しい言葉で取りなしつつ、食べさせればいい。そんな筋書きが僕の脳裏には描かれていた。

しかし。

信じられない現象が起きた。ナツモがコクリと頷いたのだ。僕は一瞬、目の前で起きた事が理解できなかった。ナツモにかける言葉を失う。

確か、オレが発したのは、プリンセスじゃなくていいんだね?という質問だったはずだ。これは、何かの間違いだろうか。

「もっちゃん、もう一度聞くよ。もうプリンセスじゃなくていいんだね?」

間違いではなかった。ナツモは再び、コクリと頷いた。心なしか頷き方が力強い。僕は明らかに狼狽していた。

今の僕は、絶対的な切り札がにわかに通用しなくなった悪役である。これがジャンプの漫画だったら間違いなく「バ、バカな!」と言っている場面だ。

ナツモを突き放すつもりで発した質問に、僕自身が食い下がる。

「・・・もう、プリンセスのものも使わなくていいんだね?」

まったくブレないナツモは、三たび力強く頷いた。開き直った者は強い。

「・・・あの、プリンセスの水筒とかあるけど?あれも使わなくていいの?」

「ウン」

「・・・ホントに?」

「ウン」

「使ったほうがいいんじゃない?カワイイから」

「・・・」

もはや当初の目的は見失っていた。僕はなぜかプリンセスの良さをナツモに説いている。魔法の言葉が効力を失う事に、焦りを感じていたのだ。それは、ナツモがプリンセスに依存するのと同様、僕も違う意味でプリンセスにどっぷり依存していた証拠である。

それにしても、ナツモは本当にプリンセスから卒業できると言うのだろうか?今はただ単に、

キャベツを食べなくてよい > プリンセスになれない

という不等号式がナツモの頭にあるだけのような気もする。ともかく、ナツモは「脱プリンセス」をここに宣言し、悠々と「ごちそうさま」をするのであった。

そして、切り札としてプリンセスを使ってしまった僕にはそれを止める術などなかった。

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